39話 成長の日々
オルトとの下層での生活は最初は少し苦労した。
しかし、オルトの順応性の高さのおかげか今ではかなり順調だった。
朝、私とオルトは部屋で少し話をしていた。
「まさか異世界から来たとはね。それで、他の兄弟達は分からないの?」
「分からない、俺が病院にいた時には一緒だったけど……」
「もしかしたら一緒に異世界に飛ばされてるかもしれないね。」
「どうなんだろう、でもアヤトは飛ばされてない気がするな……」
私はオルトから元の世界の話を聞いていた。どうやらオルトとアヤトとハヤトの3人兄弟でオルトは一番下の子らしい。
一番上の兄アヤトはいつも引きこもっていて、ハヤトは3人の中で一番優秀らしい、オルトは臆病な性格でいつもハヤトに頼りっきりだったとか……
まあなんにせよ、こっちの世界に来てしまったのだ、慣れるしかないだろうね。
私はちょうど洗濯が終わったのを確認してオルトに見せる。
「ほら、この洗濯装置に入れた服がこんなにキレイになるんだ。凄いだろ?」
「ユキ姉! 凄い! この世界は魔力結晶があれば大体の物が動かせるんだね。」
「まぁ、そうだね。オルトの世界の事は分からないけど、それなりに便利だろ?」
「元の世界とちょっと違うけど、似ているよ」
私はオルトに家事の事、世界の仕組み、精霊都市の上層中層下層など色々な知識を教えていった。
それと同時に、軍隊で習う基礎的な筋トレと体力強化を毎日叩き込んでいる。
最初の3日間はトレーニング後に一人で立って歩くことも出来ないぐらいで、全然ダメだった。
しかし、オルトは弱音は一切吐かなかった。
私も、オルトの見た目の細さから少しハード過ぎると思っていたがよく耐えている。
そんなトレーニングの日々も2週間経過しただろうか。
私はオルトが魔法を使えるかどうかを確かめていた。
「ユキ姉、俺魔法はやっぱり使えないみたいだ」
「そうだね。こればかりは才能が物を言うからね。教会がオルトを追い出した理由も多分それだろうね。」
「魔法使えないけど、強くなれるの?」
「もちろん。私だって一つしか使えないしね。」
私はオルトが魔法を使えないが、魔力量が異常にある事に気づいていた。
普通の人間より圧倒的に傷の治りも早く、筋力の付き方も体力の上昇スピードも速い。
魔族が得意とする戦闘スタイルが向いているだろう。
私はオルトに剣の戦い方も少しずつ教えた。
「よし、今日はこのぐらいかな。」
「はぁ、疲れた。」
「ほら、早く風呂に入って飯を食べるぞオルト」
「分かったよユキ姉」
地面に寝ころんでいたオルトは立ち上がり私と一緒に風呂に向かう。
私の家は、下層では見た目は少しぼろい木の家だがそれなりに広い。
風呂も大きめで二人で入っても足を延ばせる。まぁオルトが私より少し小さいというのもあるが……
私とオルトは脱衣所で服を脱ぐ。
「ほら、早く脱げ。それと、先に頭洗ってから湯船に入るんだぞ」
「分かってるって、ユキ姉」
私はオルトを5つ下の弟の様に思っている。
いつもトレーニングが終わると一緒に風呂に入るのが習慣だった。
交互に入っても時間がかかるし、こっちの方が効率的だ。
私はいつもの様にオルトの背中を洗おうとする。
「ほら背中向けな、洗ってあげる」
「いいって、ユキ姉の力強くて痛いもん」
「それは、オルトが筋肉痛だからでしょ?」
「それもあるけど……」
私は知っていた。オルトは私が背中を洗ってあげると、胸が当たって顔を赤くするのだ。
それが恥ずかしいのか、無理やり言い訳を考えたのだろう
私は最近、密かにオルトをいじるのが好きになっているのだ。
私は少し意地悪な性格なのかもしれないな……
「ユキ姉、胸当たってるって……」
「どうだ~? 嬉しいだろ~年上お姉さんの胸は~」
「やめてよ。恥ずかしいし」
オルトは顔を赤くして少し前かがみになっている。
「はい、キレイになりました。次は私の背中を頼むよ」
「ふう……分かったよ。」
そうして私とオルトは交互に背中を流し一緒に湯舟に浸かる。
一日の疲れが全て溶けるようだった。
そして、私とオルトは風呂を出て一緒にご飯を食べて、一緒に眠る。
そんな日々が続きオルトは、だいぶ私に対する警戒心は無くなった様に感じる。
師匠と弟子。姉と弟。今はそんな感じだろうか……
窓から月明かりが少し差し込む。
私の横でオルトは寝息を立てている。
顔も整っていて、このまま成長すればかなりモテるだろうな……
私はオルトの頭を少し撫でてから、仰向けになり自分の左手を見た。
「あと3年ぐらいか……」
左手の王家の紋章が私の寿命を意識させる。
私はぼそりと呟き眠った。
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