37話 強者と弱者
あれから3日が立つ。
部屋は薄暗く狭い。家具は、机と椅子とロープぐらいしかない。
僕は逃げ出す事をずっと考えているが、出来ないでいる。手足を鎖で出来た手錠で縛られているからだ。
動ける範囲はトイレまでの2メートルだけだった。
叫んでも誰も助けは来ない。ただ時間が過ぎ男たちの帰りを待つだけの日々だ。
日が落ちたのか男たちが帰ってくる。
僕は空腹を訴えた。
「あの、食べ物を……」
「あ? 聞こえねーよ、ちゃんとご主人様って言えと言っただろ! お前は奴隷なんだよ!」
「あ、がっ……」
僕の反応が気に食わないのか、男の怒鳴り声と蹴りが飛んでくる。
「おい、顔は殴るなよ。俺は美形の男じゃなきゃ興奮しねーんだ。」
「分かってるって兄貴。ちゃんと腹を狙ってるが、ついつい手が出ちまうんだ。」
人間とは悲しい生き物なのだろう。生きる為なら簡単に従順してしまう。
僕は男たちの欲を満たす奴隷として生きている。
水と食べ物を貰う為なら僕は何でもした。
始めはこれでも必死に抵抗はしたんだ。しかし、僕は死体をみせられた。
数日前に男たちに攫われて犯された男の子らしい。
その死体はとても無残な姿で、切り付けられたナイフの跡が酷かった。死体に、ハエと蛆虫がたかって凄い悪臭を放っている。
「ひい! 気持ち悪いよ……」
「お前もこうはなりたくないだろ? 俺たちの言う事をちゃんと聞いていれば生かしてやるが……」
死体の男の子の顔が脳裏焼き付いて離れない。僕は怖かったんだ。この世界ではこの男たちが全てで、強者と弱者しかいないんだ。
弱者は容赦なく犯されて殺されてしまう。
僕はただ生きたかった。何よりも消えるのが怖かった。僕という存在がこの世から消えるぐらいならなんだってする。
その日から1週間は過ぎただろうか……
「ご主人様。お帰りなさい」
「おう、今日は少しいい食べ物を持ってきたぞ。分かるな?」
「はい、ご主人様。どうかご主人様の立派なモノを奴隷の僕に、ご奉仕させてください。」
「分かってるじゃないか。ほら……」
「ありがとうございます。」
僕は男の汚れた下半身のモノを嫌がる素振りすらせず舐める。
しばらくして男たちが果てる。従順に男たちの欲さえ満たせば暴力は飛んでこない。痛い思いをしないだけ幸せだ。
僕は生きる為に考えた。とにかくこの男たちの機嫌を損ねさせてはいけない。
僕は奉仕した後、食べ物を貰い食べる。
この食べ物が血肉となり僕の命を繋いでくれる。
手錠の鎖がこすれて少し痒い。しかし、この痒みも生きているから感じられるちょっとした幸せだ。
絶対にあの死体の様になりたくない。消えたくない……
今はただ、逃げ出すチャンスを待たなければ。
あれからもう何日過ぎたかも、分からない。
1回男たちが飲みすぎたのか地面に伏して寝ている時があった。
僕は酒瓶で男の頭を殴り殺そうと考えていた。
「(ダメだ……)」
それでも僕は冷静だった。この鎖をどうにかしなければその後餓死するだけだ。
僕は男たちがいない昼間に作戦を少しずつ考えていた。
男たちは二人で、基本的に交互で1日ごとに僕を犯しに来る。
一人上手く殺せたとしても、逃げれなければ殺されてしまう。
殺すなら二人同時じゃなければならない。
助けを呼ぶにしても、この場所は人通りが少ないのか昼間叫んでも声は届かない事は分かっている。
僕は覚悟を決めるしかなかった。
日が落ちて男が入ってきた。
「お帰りなさい、ご主人様。あれ、今日はお二人なのですか?」
「あぁ、実はな上層の貴族がお前を奴隷として買いたいと言い出してな。俺たちとしてはずっと使ってやりたいんだが……」
「アニキ……仕方がないっすよ。50万リネア出すって言うんだし。俺たちも生活があるからな……」
僕は内心焦っていた。もし貴族に売り払われたら正式な奴隷の刻印という物を押される事を知っていたからだ。
この世界では魔法が現実に使えるらしく、その刻印を付けられたら主の意思無しに解除できないらしい。
僕は生きる為に頭を働かせた。
「待ってください! せめて、せめて最後はご主人様達に抱いていただきたいのです……」
「おぉ、色っぽいぞオルト。流石俺たちの調教した奴隷だ。そういうと思って、今日は二人できたんだ。」
「アニキと今日の為に精力の付く食い物も買ってきたし、酒もたんまりさ!激しく抱いてやるぞ。オルト!」
「はい! 嬉しいです。僕もいっぱいご奉仕します。」
僕は男たちの全身に絡みつきいつものように舌を絡め合う。
男たちがどういう行動に興奮し、どういった場所が気持ちいのか、この数週間でかなり学習した。
「オルト、流石だ……もうイキそうだぜ」
「アニキ! コイツのフェラ上手すぎて最高ですよ!」
僕は全力で奉仕し、数時間後男たちは酒に酔ったのか床に倒れ眠った。
「………」
この数週間で僕が完全に従順で幼い少年に写っていたのだろう。最初は警戒して武器は手の届かない入口に置いていたが、今は腰にさしたまま眠っている。
いつも行為をする時に手の手錠は外してくれるが、行為後は必ず鍵をする。しかし最近は忘れる事が多く、あえて自分で手錠をして男たちに従順さをアピールしていた。
そのおかげもあって、今日という日が来たのかもしれない。
僕は静かに男の腰から剣を引き抜いた。
始めて持つ剣の重さに少し驚くも既に覚悟は決まっていた。
「ふんっ!」
「ンゴッ」
「何だ……うわああ」
1人目の男の首に思いっきり一撃を叩き込み、異変に気付いた二人目の男の頭をスイカを割るように叩き込んだ。
「はあ……はあ……」
カランっと剣が床に落ちる音が響く。床に赤い血だまりがジワジワと広がるのを見ていた。
顔にかかった返り血を拭おうと手で触ると、手が震えていた。
「僕が……ころした……」
ずっとあの男たちが憎くて怖くて、ご主人様で。僕は少し頭がおかしくなったのか……
さっきから耳鳴りが酷い、心臓の鼓動がいつもより激しい。
よくわからない爽快感と興奮で体が震える。
地獄の様に長い日々が一瞬で終わったのだ。
僕は強者になれたんだ。
「ハハッ、はははは……」
こうして笑ったのはいつ以来だろう。久しぶりに目から涙も出ていた。
薄暗い部屋の隙間から日の光が少し入り込む。どうやら朝らしい。
今日は少し外が騒がしい気がするな。自分の心臓の音がうるさくて聞こえないや。
ドアを叩く音がするが、関係ない……
僕は自由になったんだから……
「おい、大丈夫か? 少年、しっかりしろ!」
「ハハハハッ」
「ユキ隊長……この少年どうやら心が……」
「とりあえず解放してやれ。死体の男たちは人攫いで間違いないか?」
「はい、例の男たちですね。一人は顔の損傷がひどいですが……」
「そうか……この少年がやったのだろう。とりあえず私はこの少年を保護してくる。あとは任せる」
「分かりました!」
誰かが喋っているが、頭に声が入ってこない。もう限界だった。興奮が少しずつ収まり、それと同時に疲労が押し寄せる。
僕は誰か分からない人に担がれながら気絶する様に眠ってしまった。
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