2話 赤い瞳の女の子
月明かりの奇麗な真夜中の魔界。大きな山を背にその城は堂々と存在していた。
城内の一室では、一人の少女が本を片手に魔法の準備をしている。
その少女は風貌はサラッとした長い髪に、瞳は赤く耳は小さく尖っている。
服装は肩と背中が開けた物を着て、下はミニスカートを履いている。
とても可愛らしい魔族の女の子だった。
「えっと、これでいいのよね。魔法陣を展開して……」
少女は魔法陣の前で、魔導書を見ながら呪文を唱えだす。
「我が命じる。主の理に反し、異の扉よ開け。我が力を贄とし、最強のゆうしゃ……はダメだから最強の魔の者よ!今ここに姿を現せ!」
少女が本に魔力を込めると魔法が発動する。
床に展開された魔法陣から紫色の光が照らしだす。
すると次第に魔法陣の中心から黒い煙が出て、球体の様に集まりだした。
球体が大きくなるにつれ空間が少し歪み、ガタガタと室内の家具が揺れだす。
そして、魔力を集中させた少女は手を魔法陣に向け叫んだ。
「召喚!」
少女の叫びと同時に、雷鳴の如く凄まじい音が部屋に響く。
空間の歪みが一瞬で戻った影響か、衝撃で天井に大きな穴が開き月明かりが差し込んでいた。
パラパラと粉々になった瓦礫が辺りに散らばり、天井の崩壊で土煙が舞う。
そして徐々に土煙が晴れていくと、月明かりが召喚された者を照らした。
「ゴホッゴホッ……なんだ……ここは……」
ゲームを起動した俺は、何故か瓦礫に埋もれていた。
俺は混乱する頭を押さえ、状況を判断するために顔を上げる。
すると、赤い瞳の可愛らしい女の子と目が合った。
「やっ、やった! 成功よ! 流石私だわ!」
俺と目が合った可愛い女の子は無邪気な笑顔で、嬉しそうに飛び跳ねている。
「なんか嬉しそうだな」
俺はポツリと呟き、飛び跳ねる少女と開けた天井を見上げた。
こういう時こそ冷静にならなければいけない。俺は状況を把握するために少し考え、結果を導き出す。
どうやら小悪魔の様な少女は、天井に穴を開けた事で喜んでる様だった。
つまり、少し頭のおかしな子なのだろう……
いや、違う。そんな事よりももっと重要な事が!
「そうだ、ゲームだ! 何なんだよこの糞ゲーは!」
俺は瓦礫をどかしながら寝起きの癖か、無意識に眼鏡を探そうとする。
しかし、脳内接続のゲーム内だからか視力に問題はなさそうだった。
それに余りにも鮮明に見える為、ゲームとの区別がまだつかない。
そんな少しもたついている素振りの俺を見て少女は言った。
「見た目は……普通ね。私のイメージではもっと強そうなドラゴン系の魔物だとよかったのだけど、まあいいわ!」
可愛い小悪魔の少女はちょっと不満そうに呟いた。
このロリ小悪魔はなんだ? 目が赤い魔族の子か?
まあいいか、とにかく言葉は通じそうだし色々と聞き出すとしよう。
「なあ、俺は勇者で魔王倒すために召喚? された設定じゃないのか?」
ゲームのキャラクターにこんな事聞いても意味がないかもしれないが、一応最新のゲームだしなにか反応するだろう。
俺の質問に少女は飽きれた口調で返した。
「はぁ? あなたが勇者? ふふっ、そうね。冗談も言える眷属なのね。その外見で言われたら少し面白いわね」
「あのな、俺はどっからどう見ても……ん?」
ロリ小悪魔に軽く笑われて、俺は少しイラっとしたがふと体に違和感を感じた。
全身に被った砂埃を落とす為に頭を触ると二本の角が生えていた。
どうやら俺は体が人間ではないらしい。
「そんな事より、喜びなさい下僕! その目の色は私と同じ真紅の瞳よ。つまり三層魔法を使えるわ」
「ほらっ♪」
少女は嬉しそうに左手を腰に立てて、前のめりに手鏡を俺に向けて見せた。
何を言ってんだと思い鏡を覗き込むと、俺は自分の姿に驚きを隠せなかった。
「うぉおおお! なんだこのイケメンは!? 整った顔に赤い瞳、角は……イケメンなら似合う理論か! アハハハ、神ゲーかこれは!」
キャラクターメイクはランダムなのか? まあレアなのが引けたのは間違いないな。
鏡を見ながら興奮する俺を軽く引きながらロリ小悪魔は俺に言った。
「なにバカなこと言ってるのよ下僕、とにかく今は時間が無いの! あと数分で勇者がこの城を落としにくるわ」
「えっ? 勇者って本物の勇者か!」
「そうよ。だから下僕にはその力で勇者を撃退して欲しいの」
「あれ? 勇者を殺して人間界を侵略し、魔王になるゲームだったか? 俺は買ったゲームを間違えたのか?」
「人間界を侵略ね……出来るものならしたいわ。だけど戦況は真逆よ。下僕に分かりやすいように説明すると魔王は勇者に殺され、魔界はこの城を除いて全て勇者に侵略されたわ」
「超ピンチじゃないか! でも魔王が死んだのに、なんで勇者はこの城を攻めてくるんだ? 勇者の目的はもう済んだはずだ」
「それは、私が魔王の娘だから? かも……」
興奮しながら聞く俺とは逆に、少女は少し寂しそうに言った。
俺はなんとなく察した。魔王の娘が生きていれば、そいつを旗印に魔族が集まって近い内に反撃をしてくる。
勇者側はそう考え、最後の灯まで消そうとしているのだろう。
俺はこの少女に何があったかはは知らないが、とりあえず名前から聞くことにした。
「なるほどな。そうだ、まずは名前を知りたい、俺の名前は浅井彩人だ、アヤトでいい。君は?」
「アザイ? ア……ヤト? 少し変わった名前ね。まぁ、覚えたわ。私の名前はメア・ピショット。メアでいいわ」
「よろしくなメア」
「ええ、よろしくアヤト」
俺とメアは自己紹介を済ませ軽く握手をした。
ゲームとはいえ直接脳に繋がる為現実との区別は全くつかないが、少しは楽しめそうだ。
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