夢日記。
友坂 悠
夢日記。
私は子供の頃からの夢を覚えている限り日記に残してきた。
もちろん夢っていうのは将来の夢とかではなく、朝起きると忘れてしまうようなそんな寝ている時に見ていた夢だ。
起きたその瞬間からどんどん忘れていくそんな夢を記録に残すのは至難の業でもある。
最初のうちは、一行や二行、印象に残った部分を出力するのが精々だった。
それでも。
それを繰り返すうちに、ある法則みたいなものに気がついた。
長い夢を見たなと思っても、起き抜けに覚えているのは結局直前のシーンだけ。
そして。
その覚えている部分には、過去に何度も何度も見たシーンが含まれている、ということに。
そして。
その覚えている部分を日記に残すたびに、それは自分の中で記憶として固定されていく。
そうすると。
段々とその記憶、ううん、その夢の世界は私の中で現実と変わらない記憶の積み重ねとなっていき。
いつしか。
私は、夢と現実の間がわからなくなっていったのだ。
いや、語弊がある。
寝ていた時に訪れていた世界が次第に現実のものであるかのような。
そんな錯覚に囚われてしまっていたのだ。
高校生にもなってそんな夢みたいな事を。
友人にこのことを話した時に言われたそんなセリフが心に重石となって。
私はこの事を人に話すという行為をしなくなった。
その代わりと言ってはなんだが、より一層日記を書くという行為にのめり込んだのだ。
妄想の塊。
親はそう言って、私のノートを捨てようとした。
だから。
私は親を拒絶し、部屋に立て籠った。
この世界はどうしてこんなにも窮屈なんだろう。
私には夢の世界さえあればいいのに。
暗い壁が私の心を覆って。
もう、どうしていいのかさえわからなくなっていった。
※※※
日記はいつしか膨大なテキストの塊となって、部屋を埋め尽くす。
そんな私に叔父がくれたノートパソコンが、ある時から紙の日記の代わりとなっていた。
自分の中のもう一つの世界をこの機械の中に残してみないか?
叔父は、私の夢の日記を否定せず、そう提案してくれた。
そんな些細なことではあったけれど、妄想だと否定されなかったことが嬉しくって。
私はパソコンの中に、世界を書き殴った。
ひたすら、書き殴って、そしてその中に新しい世界を創ったのだった。
end
夢日記。 友坂 悠 @tomoneko299
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