1-52 帰宅
僕たちはウェルデンへの帰路の途中にあるミレナたちの家に辿り着いた。
「これは……」
正直言って、そこはかなり凄惨な状態だった。
家はほとんど焼け焦げてしまっていて、言われなければただの廃材置き場かと見紛うことだろう。
「私が燃やしたの。母の遺体と一緒にね。もうこの場所に来ることはないと思っていたけれど、こんなすぐに戻ってきてしまうとはね……」
ミレナは自嘲混じりに呟いた。
「父も母もいなくなって、私たち二人で何とか生きていかなければと思った。それが母の最期の言葉だったから。でも私は最期まで私たちを守ってくれた母のように強くなかった。弟のことを守る力もなくて、人を騙して強者に縋り、卑しく生きようとするしかなかった」
土を盛って小さな十字架を立てただけの簡単なお墓の前にしゃがみこんで、ミレナは懺悔するように想いを口にした。今にも消え入りそうな弱々しいその声には、背負い続けていた重荷の大きさが表れていた。
「そんなことはないよ。ミレナは強くて優しい人だ。その証拠に、こうして僕たちはみんな無事にここまで戻ってこれたじゃないか」
「……そうね。ありがとう」
気休めのような言葉しか伝えられなかったが、ミレナは少しだけ柔らかくなった笑顔を見せてくれた。きっと彼女の心が晴れるのはまだ先だろうけれど、せめて今を生きらえるよう、少しでも前を向いてくれたら良い。
「ミレナはこれからどうするの?」
目的地だったこの場所まで辿り着いて、ミレナたちとはここでお別れだった。この先のことはタイミングがなく聞けていなかったので、ようやくここで尋ねることができた。
「クロウジアの人たちが迎え入れてくれると言っていたから、オサムのことは彼らに任せるつもり。私は……」
一度そこで言葉が途切れる。
「正直まだ迷っているの」
「迷ってる? ミレナもクロウジアでオサムと一緒に暮らせばいいんじゃないの?」
「ええ。もちろんそれが一番いいのはわかっているわ」
しかし、ミレナの想いは違うようだった。
「……父を探したいの」
逡巡する顔を見せたあと、彼女本心を語った。
「父は突然家族を放り出してどこかへ行ってしまう人じゃない。必ず何か事情があるはずなの。だから父にもう一度会って、何があったのかを問い質したい。そして、母を殺した奴を見つけ出して……」
それ以上は口にしなかったが、彼女が何を考えているのかはわかった。
「当てはあるの?」
「ないわ。でも何年かかっても構わない」
決意を露わにするように力強く言った。彼女は迷っていると言ったが、どうやらすでに心は決まっているようだった。
「それなら、一つ考えがあるんだ」
この旅の間ずっと考えていたことだった。
「一緒に僕たちの世界に来ない?」
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