1-37 救出
「意外に大したことなかったな」
僕たちは予定通りオサムのいる塔に突入し、無事に最上階の彼が囚われているであろう部屋の前まで辿り着くことができた。
塔には入口に二人、中に二人、最上階に四人と、合計で八人の衛兵が守りを固めていたが、カジが一人であっという間になぎ倒してしまった。元々金で雇われているだけの意識の低い兵士たちだったことに加え、ミレナの囮作戦で混乱しているところを突けたのが功を奏した。
「開けるぞ」
鍵は衛兵の一人が持っているものを拝借して開けることができた。
何となく少し緊張しながら、扉をゆっくりと押し開ける。
「オサム、助けに来たよ」
扉が開き切ると、中には部屋の隅で静かに座り込む小さな少年の姿があった。
「さあ、一緒に逃げよう」
僕が手を差し出すと、後ろを向いていた彼がこちらを振り返る。
「あの、どなたですか?」
こちらに向いた少年の顔は怪訝な表情を見せていた。まるで品定めするような目つきで、僕たちを一人ずつ見分していく。
「どなたか存じませんが、ここを開けていただいたことには感謝します。ただ、知らない人にはついていくなと姉から教えられているので、一緒に逃げるというのは遠慮しておきます。僕一人で逃げられますので、どうぞお構いなく」
ハキハキとした口調で言いながら、手のひらを突き出して僕たちを拒絶する。
つい先ほどまで囚われていた人間とは思えない様子と、見た目に反した大人びて落ち着いた雰囲気に、僕たちは面食らって固まってしまった。
しかし、オサムはそんな僕たちを無視して、言葉の通りに一人で出口へと向かおうとする。
「ちょ、ちょっと待って! 僕たちは君のお姉さんから頼まれて来たんだ!」
一瞬の間を置いて正気を取り戻し、立ち去ろうとするオサムを慌てて呼び止める。まさかこんな敵地の真ん中で彼を一人にするわけにはいかない。
「姉さんに、ですか?」
「そう、僕たちは君の仲間だよ」
こちらの話を聞いてくれる気はあるようで、きちんと対話ができそうなことに安心した。できれば力づくで連れていくようなことは避けたい。
とにかく僕たちのことを信じてもらうため、まだ信じていない目をしている彼に、ここまでの経緯を簡単に説明した。
「なるほど。確かに辻褄は合っているようですし、姉さんならそういうことをしそうというのもわかります」
「よかった。じゃあ信じてもらえるんだね?」
「いえ、まだ信じるにはリスクがあります。聞きかじった話を繋ぎ合わせるだけでも辻褄を合わせることはできますから、姉さんの仲間だという確かな証拠がほしいですね」
オサムはなかなか用心深いタイプなようだった、先ほどまでの怪訝な目はなくなったものの、怪しさが残るうちは信じてくれないつもりらしい。
「めんどくせえな。一旦黙らせて、無理矢理連れてく方がいいんじゃねえか?」
痺れを切らしたカジが物騒なことを口にする。
「野蛮な人ですね。おしとやかで優しい姉さんとは大違いだ」
「おしとやかだぁ? あの女こそ野蛮……」
軽い挑発に乗って口喧嘩を始めてしまったカジの口を塞いで黙らせる。彼に任せると状況が悪化しそうだから、ここは僕が何とかするしかないようだった。
「……その」
正直、このカードを切るか迷っていた。最悪の場合、彼が怒り出す可能性も考えられる。
しかし、僕たちが彼女とともに旅をした仲間であることを証明するには、他に方法が思いつかなかった。
「……ほくろ」
僕は他の二人に聞かれないように、オサムの耳元でそっと囁く。
「なっ……!」
それを聞き、オサムは顔を赤くして僕の方に目を向けた。
「どうしてそのことを……! まさか……」
「い、いや違うんだ。その、不可抗力というか、見えてしまったというか……。決して見るつもりはなかったんだけど……」
そのときのことを思い出し、僕も急激に顔が熱くなる。二人で向き合って俯いたまま、しばらく沈黙が続いた。
「……わかりました。とりあえず皆さんが姉さんの知り合いであるということは信じましょう。ただ、もしやましいことをしていたなら、僕は決してあなたを許さない」
また別のしこりが生まれてしまったような気もするが、一旦オサムに信じてもらうことができたようだった。
「おい、お前何を言ったんだ?」
オサムを連れて塔を降りる途中、カジが不思議そうな顔で尋ねてきた。
「ぜ、全然大したことじゃないよ!」
本当のことを言えるはずもなく、裏返った声で無理矢理誤魔化して、逃げるように先を急ぐことしかできなかった。
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