1-36 作戦開始
「ミレナ、大丈夫かな……?」
「まあ俺たちは自分の仕事をこなすしかねえさ」
僕たちはミレナの案内で荷物を回収し、そのまま二手に分かれることとなった。
「私ができるだけ派手に逃げて、衛兵たちをこっちに引き寄せておく。その間にオサムを助け出して、そのまま裏門から脱出して。多少の戦闘は避けられないと思うけれど、そこは任せていいかしら?」
「こっちも手ひどくやられたからな。少しくらいお返ししてやらないと」
ミレナと別れたあと、僕たちはそのまますぐにオサムの救出へと向かった。そして塔に続く渡り廊下の入り口に潜み、彼女からの合図を待つ。
一方、ミレナは囮として、単身で正門へと向かった。
「エトに一つやってほしいことがあるの」
そう言ってミレナは胸元のペンダントを開き、中の写真を僕に見せる。
「《創作者》の能力で、オサムを創ってほしい」
ジルヴェたちにとって、今のミレナは囮としての価値が薄かった。すでにオサムに加えて僕とカジも捕えているわけで、十分に利を得ている。さらに、ミレナはオサムという人質がいる以上、逃げても戻ってくる可能性が高い。
相手の立場からすると、ミレナが逃げた場合、あえて深追いはしてこないことが考えられた。むしろオサムや僕たちの警備が強固にする選択肢を取るだろう。人質を確実に捕えておきながら、ゆっくりと彼女を探せばいい。
「私に囮としての価値を出すためには、オサムも一緒に逃げたと思わせる必要がある」
「そうか。そのために、僕の能力で偽物のオサムを創るってことだね」
最初の頃よりは練度が上がっているものの、まだ《創作者》の能力には制約が多かった。創ったあとでまともに操作できるのは、現状だと《あらしのよるに》だけ。他にも、いくつか設定を創ってストックしてあるものはあるが、まだ不安定な部分が多い。
また、実在するものを創る場合は、行動を想像することが難しいためか、安定しづらい傾向にあった。だが、飛行魔法で飛ぶミレナの後ろに乗って運ばれる程度であれば、ある程度の時間は存在を保つことができるだろう。
「それじゃ、始めるよ」
僕は瞳を閉じて、集中して魔力を練り上げる。
幸い、ミレナから弟との思い出を聞いていたから、創作するにあたって想像が湧きやすかった。できる限り具体的にその思い出を頭に浮かべながら、オサムの人となりを創り上げていく。
「……なんか、変な感じね」
目の前に現れた弟の姿を見て、ミレナは少し困惑した顔で笑った。
「割と安定してるから、たぶん手を引っ張って歩いたりくらいなら大丈夫だと思う。ただ、相手の攻撃を受けたりしたら一発でアウトかも」
「わかったわ。元々、弟に攻撃なんか当てさせるつもりはないから大丈夫」
そうしてミレナは囮の役目を果たすべく、創作された弟を連れて正門の方へと向かった。
僕たちは彼女がかき乱してくれている混乱に乗じて、本物のオサムを助け、そのまま裏門から逃げる。城の外に出てしまえば、街の警備は手薄なので、外に出るのは容易いはずだ。
囮の役割を終えたあと、ミレナはそのまま一人で脱出を図るとのことだった。少し心配ではあったが、彼女ならおそらく大丈夫だろう。脱出したあとは、街から少し離れた森で合流することになっている。
「始まったみたいだ」
大きな破裂音が聞こえたかと思うと、窓の外にキラキラと光る氷の欠片が降り注いでいた。正門の方にいるミレナが、空の上で氷塊を破裂させたのだろう。これが作戦開始の合図だった。
「よし、行くか」
こうして脱出作戦が開始した。
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