1-29 金ぴかのおっさん

 暇そうにあくびをする衛兵の横をすり抜け、薄暗い階段を上がる。重たい扉を押し開けると、ようやく外に出ることができた。

 明度の上がった視界に目を細めながら、周囲の状況を確認する。

 どうやらここは城の裏手にある庭のようだった。近くに誰もいないのを確認し、一旦近くの茂みに身を隠す。

「さて、ここからどうしましょうか……」

 とりあえず脱出はできたものの、色々と課題は山積みだった。荷物を取り返さなければ、このまま逃げることもできない。ミレナにも会わなくてはいけないが、もちろん彼女の居場所もわかるはずがなかった。

「衛兵たちにいつ気付かれるかもわからないし、とにかく急がないと……」

「ああ、そうだな。とりあえず俺は早くあの女を一発ぶん殴らないと気が収まらねえし」

「ちょっと、ダメだからね! まずは事情を聞いてからだよ」

 カジは不服そうな様子だったが、僕はまだミレナのことを信じたかった。事情を聞いて、もし困っているのなら、僕たちで力になってあげたい。彼女はここまで一緒に旅をしてきた仲間なのだから。

 とにかくこんなところに隠れていても、牢の中にいるのと大差ない。しかし、当てもなく闇雲に探すには、この城はあまりに大きかった。

「それなんだが、一応心当たりがなくもない」

「心当たり?」

 どうやらカジは食卓で眠らされたあと、運ばれている最中に一瞬だけ目を覚ましたらしい。すぐに再び眠気に襲われて意識を失ったが、その時に少しだけ周りの様子を見ていた。

「視界がぼやけてたもんで、薄っすらとしか見てないんだが、あの女が一人でどこかの部屋に入っていくのが見えたんだ。もしかしたら、その部屋に行けばいるかもしれない」

 とはいえ、僕たちが捕まってからすでに数時間が経過してしまっている。彼女が今もその部屋にいる保証はない。正直言って望みは高くないが、何の当てもないこの状況では、それに賭けるしかなさそうだった。

 それに問題はそもそもどうやってその部屋を見つけるかだった。

「何か覚えてることはないの?」

「そう言われてもなあ……。なんか入口に置物があったような……」

 朦朧とした意識の中だったので、ミレナが扉に入っていくのを見たということ以外、ほとんど何も覚えていないようだった。

「とりあえず私たちが運ばれる途中の部屋ということは、一階のどこかということですね。そしておそらくあの食堂から、この裏庭への出口までの間のどこかである可能性が高い」

 城全体を考えるとだいぶ範囲は絞られたが、それでも限られた時間の中で身を隠しながら探すには広すぎる。半ば無謀ではあったが、とにかく今は先に進むしかなかった。

「とりあえず城の中に入ろう」

 周りに誰もいないのを確認し、音を立てないようにそっと茂みを出る。

 数メートル先に作業用らしき小さい扉があり、そこから城の中へ入ることができそうだった。幸い、扉の入り口には警備などもついていない。

 しかし、一度茂みから出てしまえば、そこは見通しのいい開けた庭の中。とにかく誰かに見つかる前に、城の中へ身を隠さなければならない。

「中は大丈夫そうですね」

 扉についていた小窓から中を確認すると、倉庫のような場所に繋がっていた。中に人の気配はなく、入ってすぐに見つかる心配はなさそうだった。

「よし、行こう」

 フェルが先頭に立ち、その後に僕とカジが続く。

 無事に扉を抜けて城の中に入った。そして、音を立てないように、そっと入ってきた扉を閉める。

「あ!」

 ちょうど扉が閉まりかけて、安心しかけた瞬間だった。突然、後ろにいたカジが大きな声を上げる。

「ちょっと、静かに!」

 僕は慌ててカジを押さえつけて、息を殺して物陰に身を隠す。注意深く周囲の音に耳をそばだてるが、とりあえずはまだ誰にも気付かれていないようだった。

「勘弁してよ……」

 こんなところでいきなり大声を上げるなんてどうかしている。これだけ用心深く脱出を試みているというのに、すべてが台無しになるところだった。

「悪い悪い。でも、思い出したんだよ」

「思い出したって、何を?」

「金ぴかのおっさんがいたんだよ!」

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