第22話、愛と葛藤の連続

 かすみに比べ、幾分とスレンダーな体つきの星野。

 以前、入れ替わった際に『 全て 』を拝謁賜ったが、抱き締める両手から伝わる感触に、その時の事が思い起こされた。

『 女は、ハダカを見られたら、その者の所へ嫁に行くものだ 』

 前に、星野が言っていた言葉が、当時の記憶と共に蘇る。

 時代遅れとも言える古風な思想を、頑に抱いていた星野…… 男勝りの性格からは、到底、思い付きもしないような、撫子的思想だ。

 基本的には、超、純粋な性格である星野の、真剣な告白……

 僕は、無言のまま、星野を抱き続けた。

「 星川…… 」

 呟くように、星野が小さく言った。

 かすみの、憎悪にも似た表情が脳裏に浮かぶ。 だが、僕は星野を抱き続けた。 抱き締めていたかったのだ……

 現在、朝倉 美智子の体である僕。 はたから見れば、女性同士の抱擁である。 だが、この部屋には、僕ら2人だけ。 誰かが訪ねて来る確立も、ゼロではないが、それに近いだろう。 他の目を心配する必要はない。 気のせいか、かすみの顔も、脳裏に浮かんで来なくなった……

 星野が、僕の胸から顔を離す。 俯いたまま、少し苦笑しながら言った。

「 かすみに、怒られてしまうな…… 」


 ……行き所のない、自分の恋心。


 星野は、全てを理解しているようだ。

 僕を横恋慕すれば、かすみとの交友は消滅する。 ヘタをすれば仙道寺と、再び、コトを構える事になるだろう。 抗争が再発する危機は、容易に想像出来る。 何と言っても、かすみは仙道寺の総長なのだ。 例え、かすみ自身が納得したとしても、かすみを敬愛している神岡たちは、黙ってはいまい……

 それらを見据えて、自分の気持ちを押し殺そうとしている星野の姿が、僕には、とても愛おしく感じられた。

 会頭である事…… 男気以上に、義を優先する性格であるが故に己の意思を繕う、ある意味、恋愛下手な不器用な少女……

 僕は、顔を離した星野の頭に腕を回し、優しく胸に抱かえた。

「 …星… 川……! 」

 僕の胸の中で、また小さく、星野が呟く。

 しばらく沈黙した後、星野は、ゆっくりと顔を起こした。 じっと、僕の目を見つめている。 涼しげながらも、引き込まれてしまいそうな、魅力的な瞳……

 星野が、小さく言った。

「 キスして…… 」

 僕の理性は、完全に飛んでいた。 星野の言葉に何の躊躇もなく、僕は、薄ピンク色の花のような星野の唇に、くちづけをした。


 柔らかな感触……


 ふと、現実の状況を確認する。

「 …… 」

 はたから見れば、女性同士のキス。 しかも、朝倉のファーストキスをも奪ってしまったカタチとなっている。 実際、ファーストキスと言えるのかどうかは分からないが…… まあ、女性同士のキスなのだから多分、問題は無いだろう…… か?

 急に、罪悪感が襲って来た。 かすみの、仁王様のような表情も、脳裏に復活している。

 僕は、星野の両肩を抱き、唇を離した。

 閉じていた目を薄く開け、聞いた事が無いようなうっとりした声で、星野は言った。

「 全てを、あげたくなる気持ちって… こんな感覚なのね…… 」

「 …… 」

 僕が男の体だったら、今の言葉で、エライ事になっていただろう。 ハッキリ言って、破滅への序章である。 もしそうなったら……


 う~ん… 星野とだったら、イイかな……? なんちって。


( たわけーッ! )

 僕は心の中で、電柱に頭を、ガンガンと叩き付けながら叫んだ。

 一瞬、理性が飛んでいたとはいえ、ナンちゅう恐ろしい悦楽を想像しとんじゃ、僕はっ!  忸怩たる想いとは、この事か。

 僕は、額を血だらけにしながら( 想像の世界で )、じっと星野を見つめていた。

 星野が言った。

「 あまり…… 見つめないで。 …ヘンな気になっちゃうよ 」

 女性言葉の星野は、メッチャ可愛い。

 僕は、再び理性が、火星まで飛んで行ったような心境になった。 これ以上は、ある意味、拷問に等しい。

 両手をプルプル震わせながら、僕は、星野の肩を離して言った。

「 星野の魅力に負け、ついキスしちまった……! 内緒にしてくれよ? 」

 星野は、頬を赤らめながら答えた。

「 私… 嬉しい……! 」

 ……鬼龍会 会頭、星野みちる。

 泣く子も黙る、『 鉄パイプの星野 』の異名を取る、鉄の総統……

 だが、僕だけに見せた私的な顔は、清純な少女、そのものだった。 僕は、幸せ者なのだろうか? かすみ…… ホント、マジごめん……



 星野との抱擁後、僕らは、サバラスの意識回復に努める事にした。

「 とにかく、コイツを起こさない事には、ナニも始まらん 」

 僕は、脳天が異様に変形したサバラスの頭部を手に、しばらく考察した。


 ……一案が、浮かぶ。


 ガラクタの山を漁り始めた僕に、星野が尋ねた。

「 何か、いい案が浮かんだの? 」

 まだ幾分、女性言葉の星野……

 古本をどけながら、僕は答える。

「 ドライヤーを探してくれ! 」

「 …え? ドライヤー? 」

 星野には、分からないかもしれない。

 僕は説明した。

「 ヤツは、温風が大好きなんだよ。 ドライヤーの風を当てると、メッチャ喜んでさ。 何と、気持ちいいと、ヤツは縮むんだ 」

「 縮む……? 温風で? 」

「 ああ 」

 僕は、ガラクタの山から掘り出した掃除機を、投げ捨てながら答えた。

 腕組みをし、考え込むように星野は言った。

「 何と、縮むのか、ヤツは…… 信じれない変体だな 」

 『 変態 』の方が、正解かもしれん。

 僕は、ガラクタを漁りながら言った。

「 気持ち良ければ、気が付くかもしれん。 ヤツは単純だからな 」

 やがて、綿の飛び出た座布団の下に、電源コードのプラグを発見。 引っ張り出すと、やはりドライヤーだった。

「 ゲ~ット! 問題は、動くかどうかだ 」

 僕は、意気揚々とガラクタの山を出ると、早速、コンセントを探した。

「 星川、こっちだ! ここにあるぞ 」

 星野が、先に見付けた。

 プラグに、コンセントを差し込む。 スイッチを入れると、動いた! 温かい温風が出ている。

「 やった! 生きてるぞ! サバラスの頭を、コッチに持って来てくれ 」

「 よしっ! 」

 星野が、サバラスの頭部を持ち、運ぶ。

 途端、ガラクタに躓き、足を取られた。

「 きゃっ…! 」

「 危ないっ! 」

 倒れ掛かった星野の体を、僕は受け止めた。

「 …… 」

 僕の、腕の中にいる星野。

 星野の瞳が、魅力的に僕を見つめている……

 またまた、すっげ~、ヤバイ状況である。


 ゴクリ……!


 ふと脇を見ると、サバラスの頭部が、トランジスタラジオのアンテナに突き刺さっていた。

「 げええっ…! 」

 こ… コレは、再起不能なのでは……?

「 ごっ… ごめんっ! あ、あたし… また、余計なコトを……! 」

 慌てる、星野。

 しかし、星野を責める訳にはいかないだろう。 これは、不慮の事故なのだ。

だが…… かなりヤバイ状態かも。

 いくら何でも、アンテナに串刺しである。 ボールペンやシャーペンを突き刺した事はあるが、串刺しは、さすがに経験が無い。 まあ、脳みその容積も少なそうなので、もしかしたらイケそうかもしれないが、生物学上は、即死だ……

「 と、とりあえず、抜いてやるか…… 」

 抜いた途端、空気が抜けて、しぼんでしまう事はないだろうな? ゴム風船のように、プシュ~と、音を立てながら宙を舞ったりして…… 空気が抜け切った後の、サバラスの顔が、ある意味、見ものである。

 僕は、アンテナに串刺しになったままのサバラスの頭部を掴み、引き抜いた。

「 うはぽっ! ……ふうう~っ、びっくりした……! 」


 ……サバラスが、喋った。


 お前は、接触の悪い電化製品か。 フツーだったら、即死だぞ? まあ、今に始まった事ではないか……

 金属バットでノックしたり、蹴り飛ばしてトレーラーに轢かせたり、下水側溝にハマり込ませたり…… 今までも、かなり残虐な仕打ちをして来ている。 しかし、頭に、アンテナが串刺しになっても生きているとは恐れ入った。 これからは、もっとアメニティーに富んだ行動に及んだとしても、大丈夫そうだな。

 星野が、サバラスに尋ねた。

「 本当に、大丈夫なのか? 」

「 私を、ナメてもらっては困るね。 これしきの事で、参る私ではない 」

 ……気絶してやがったクセに、よく言うじゃないか。

 僕は言った。

「 パックマンは、冷蔵庫の中に監禁してある。 早いところ処置してくれ。 目覚めると始末が悪い 」

「 おお、そうだな。 では、メシにしよう 」


 ……ブチ殺すぞ、てめえっ!

 冷蔵庫ン中の、得体の知れない生物を、ナンとかせいっちゅーとんじゃ、ボケ作が!


 声もなく、プルプルと体を震わす僕に、サバラスは、爽快に言った。

「 今、アンタレスの特製2次元銀河ラーメンを出前すると、ポイントが貯まる特典が付くのだよ。 はっはっは! 」

 ……ついでに、棺桶も出前しとけ。 お前が入るヤツだ。 やすらぎ2号な……

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