イミテーション・イルミネーション
石嶋ユウ
イミテーション・イルミネーション
白い息が空に舞い上がり、消えてゆく冬の夜空。私とミルクは人一人が入れる程の大荷物を持って、自宅の扉を開いた。この荷物の中身は100クレジットで買った
私とミルクは‘彼女’の服をスーツからカジュアルな物に着せ替えた。それから、人形の電源を入れた。機械が動き始めた音と共に人形はその綺麗な目を開いた。「はじめまして。私はZX-22自律型人形です。業務に必要なデータを首筋のメモリポートからメモリを挿入して、登録してください」 私は、事前に用意していたメモリを首筋に挿入する。「データ、入力中……」 抑揚のない、平な声で人形は言った。私とミルクは人形のデータ登録が終わるのを待つしかなかった。「本当にうまく行くのかな」 ミルクが不安げに呟いた。「それを祈るしかないでしょ」 私はそう言うことしか彼女にしてやれなかった。データのロードは続いて、やがて、「ダウンロードが完了しました」という音声と共に一時的に電源が切れて、目をつむった。
私とミルクはそれを見守った。すぐに自律人形の目が開かれた。「あれ、アミ、ミルク。どうしたのさ?」 その
「私、病気で動けなくなったはずなのに、どうしてこんなに元気なの?」 リンは自分の顔に手を当てたり、軽くジャンプしたりして、自分の体の具合を確かめていた。「それは、そうだよ。私たちがなんとかしたんだから」 ミルクが言った。ミルクは最先端の医療技術を研究している研究者だ。一方で私も工学には明るい方だ。だからこそ、リンは
リンが蘇ってから飲まず食わずで一夜が過ぎた。そこで、私達は久しぶりに全員で大きなショッピングモールへと買い物に出た。時刻が午後の三時を過ぎ買い物が一通り済んだところで私達は食事のできる場所を探していた。「どこへ行こうかな」「あそこがいいな」 リンが指した先には、かつて彼女が行きつけだったイタリアンの店があった。私達はそこで遅めのランチをすることにした。 店の中はそこそこ混んでいて、三人で座れる席を見つけるのに少し時間がかかった。ようやく席を見つけて各々の注文を決めてウェイターさんを呼んだ。「ご注文は?」「ナポリタンを一つと、カルボナーラを一つ。それから、ミートソーススパゲッティを一つください」「かしこまりました」 ウェイターさんは注文を承ってすぐに厨房の方へと戻っていった。リンも手を洗うために手洗い場へと行ってしまった。私とミルクだけが残された席。ふと気になったことがあって、私はミルクの服を引っ張った。「どうしたの?」「そういえば、リンって食べ物は食べられるんだっけ?」「一応。後で、中から回収しないといけないけど」「そっか……」
そうだった。彼女はもう死んだのだった。今の彼女はあくまで
「リン!」 リンはその場に倒れ込んでしまった。私は慌てて彼女の側へと駆け寄った。「リン、リン、しっかりしてよ!」 私がバカだった。彼女は生きた人間だろうと
辺りは夜となって、イルミネーションが点灯を始めていた。白い息が空に浮かんでは消えていく。私とミルクは司法局の車に乗せられて、それを眺めていた。キラキラ、キラキラと光るイルミネーションは私達にとっては場違いだった。だが、その景色はどうしても綺麗だった。
イミテーション・イルミネーション 石嶋ユウ @Yu_Ishizima
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