雲の国の話【短編】

ゆる男

第1話…先生とあたし


「ねぇー先生、これいつまで続けるの?」


「……いいから黙って続けるんだよ」


ふわふわと浮かんでる雲の上

辺り全体に広がる雲は先が見えないくらい何もないけど

あたしが生まれた時からずっと

この先生とずーーーっっと手を繋いで過ごしてる

誰なんだろ?って何回も思ってたけど

なんか離れられなくて

手を繋いでるんだけど先生から伝わる心地の良い音、リズムみたいのがあたしは大好きだった


外の世界は雲で出来たテレビで見れるようになってる

あたしと先生みたいに手を繋いでる人はみんな幸せそうな顔をしている


「この人たちはなんで幸せそうに手を繋いでるの?

あたしたちは意味もなく手繋いでるわけじゃないよね?」


「バーカ、意味もなく手なんか繋がねーだろ」


先生はいつもぶっきらぼうにあたしの質問に答える


「先生っていつも曖昧にしか答えてくれないよね」


「待ってれば答えはいずれ分かる」


あたしは納得いかない顔で「ふーん」と返したけど

真顔の先生はいつも何かを考えている様子


「そろそろ時間だな」


あたしたちは定期的にあることをする


「うん、お願い」


先生は自分の口をあたしの口に重ねた

これがないとあたしは力が出なくなる

確かに体が元気になる感覚がある

何回も口を離しては重ねて

そういえば外の世界の人もこれやってるの見るけど

気持ち良いのかな?


「先生、もう大丈夫だよ」


そう言うと先生はゆっくりと口を離す


「ありがと、元気になった」


あたしがそう言うと先生は少し手の力を緩めた

それから随分と時間が経った気がする

あたしはテレビで外の世界を見て色々先生に質問するけど


「あぁ」とか「そのうち分かる」で済まされていた


そしてまた口と口を重ねる

その度に先生は悲しい顔を浮かべてる気がした


「先生?大丈夫?」


「なにがだ?」


また先生の手が緩んできてる気がする


「先生って何も答えてくれないから言うだけなんだけど

なんで寂しい顔するの?」


テレビで見た外の世界の人たちは笑顔だった

あんなに無邪気に笑って

そんなところを見てるとあたしも暖かくなる

でもなんで先生は笑ってくれないの?


「ねえ先生?」


「いいから、早く寝るぞ」


「先生ごまかさないで」


「ごちゃごちゃ言うな」


「いつもそう言うじゃん

あたし先生とずっと一緒にいるんだよね?」


あたしが言うと先生は俯いたまま言った


「……ずっとこのままじゃない」


あたしは先生の言葉の意味が理解出来なかった


「どうして?ずっと一緒じゃないの?」


「そのうち分かる」


「もう!いい加減にしてよ!

なんであたしが聞いてもちゃんと答えてくれないの!

どういう意味で手を繋いでるの?

どうして口と口重ねて元気になるの?」


「………」


「答えてよ先生!」


「もういいだろ!お前には関係ない!」


先生は怒鳴りながらも繋いでる手を緩めた

あたしは先生の言ったことに怒りを覚えた


「じゃあもういいよ!離して!」


あたしは先生の手を無理矢理離そうとした

でも


「やめろ!」


「だってこんなことしてても意味ないじゃない!」


「離したらダメなんだ!」


「先生が何も話してくれないならいいの!」


「やめてくれ!!」


先生はあたしを抱きしめて

小さな声で言った


「ちゃんと答えるから

外の世界の人たちを悲しませないでくれ…」


どういうことかわからない


「なんで?外の世界の人たちは幸せそうにしてるじゃん」


あたしが聞くと先生は首を横に振りながら言う


「違う。お前から俺の手を離そうとすると

お前は外の世界に行けなくなるんだ」


「……え?」


あたしは体全身に衝撃が走った

その間にも先生はあたしから離れる


「あたし、外の世界に行けるの?」


「……あぁ」


外の世界はずっと憧れだった

こんな雲しかないような世界だけど

あたしでも外の世界に行けるんだ

あたしは先生の手を握り返すことは出来ない

離すか離さないかは先生が決めることなんだって


「先生も一緒に外の世界に行けるの?」


「………」


先生は黙ったままだった

悲しそうな顔している先生は

あたしの手を強く握るわけでもなかった


「俺は外の世界には行けない」


「えぇ?なんで?」


「俺はお前を外の世界に行かせるためにいるんだ。」


「じゃあ外の世界に行くとしたら先生はまだこの雲の国にいるの?」


「あぁ、そうやって何人もの人を外の世界に行かせたからな」


「そんなのやだよ!」


あたしは先生の手を振りほどこうとした

それでも先生はあたしの手を離そうとはしてくれない


「先生がいない世界なんてやだよ!

ずっと雲の国で暮らしてる!」


あたしは大きな声で先生に訴えた

しかしよーく先生の方を見てみる


「………うっ…うぅぅ……」


涙を流していた


「……先生?」


何を言ってもぶっきらぼうだった先生が

泣いてるなんて…先生らしくないよ

でもなんでこんなに嬉しいんだろう


「……先生…」


あたしも先生を抱きしめる

先生は片手であたしの頬をさすって

また口と口を重ねた

すると急に眩しい光があたしを照らした


「せ、先生!なにこれ!?」


「今までありがとな」


「先生……?」


先生は、あたしの手を離した

そうするとあたしの体が浮いて

先生からどんどん離されていった

その感覚が怖かった

先生を置いて1人では行きたくなかった


「せ、先生!」


あたしも涙が出てくる


「泣くな!!」


先生はあたしに向かって思い切り叫んだ


「お前が外の世界に行くと

外の世界の人はもっと幸せになれるんだ!

だからずっと元気でいてくれよな!」


そう言って先生は最後の言葉を残して

あたしは光の射す方へどんどん吸い込まれて行く


「せんせぇぇーーー!!!」



End……

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雲の国の話【短編】 ゆる男 @yuruo

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