第3話 前世の俺
隣国、リーゼッヒ王国から同盟の証として嫁いで来た彼女──ヴィオラ・ライラックに、興味はなかった。
ヴィオラが、現王太子婚約者たる令嬢に悪行を及んでいた事は、我が国でも有名な話だった。
本来なら処刑もやぶさかではない罪状だったらしいが、被害者たるご令嬢が許したこと。ヴィオラの実家がリーゼッヒ王国にとって重鎮たる公爵家だったことにより、厄介払いとして俺に嫁がされたのだ。
最初に聞いた時は、何ともふざけた話だと思った。
なんでお前らの尻拭いを俺がしなくちゃいけないんだ。
こっちだって家督を継いだばかりでゴタゴタしてるってのに。
文句を言えばキリがなかったが、言ったことろで現実は変わらない。
『ヴィオラを嫁に迎えること』がこの国にとって最善であり、それを選び進むことが『王子』である俺の役目だ。
元より、女は嫌いだった。
母譲りの傾国の美貌のせいで、『女の争い』とやらを幼少期から何度も何度も何っっっっ度も味わってきた。
だから、ある意味丁度良かった、というのも本音だ。
俺は正室を娶ったという事実が出来、他の婚姻話を切る理由にもなる。
幸い、己の悪行を反省したのか、ヴィオラは噂に聞いていたよりもずっと大人しい女性だった。
俺の顔を見ても頬を染めることも無く、甘えた声で擦り寄ってくることも無い。
公務の時も、後ろで柔らかく微笑み邪魔もせず俺を立てる。
さすが、一時期はリーゼッヒ王国の王太子婚約者としての教育を受けてきただけはある身のこなしだった。
だから、だから、俺は彼女に甘えていた。
「レオ兄貴、嫁さんに会わねぇの?」
「1年は様子見だ。慣れて化けの皮が剥がれる可能性もある」
「ふぅん。……そんな悪い子じゃないと思うんだけどなぁ~」
腹違いの弟であるイライアス……通称ライが、俺に報告書を渡しながら口を尖らせる。
……こいつの方が正妻の子供なのに、なんで俺が家督を継いでるんだろうなぁ……クソ。
ライから受け取った国境警備の報告書に眼を通しながら、彼女……ヴィオラの事を考えた。
俺が会いに行かなくても文句も言わない。
金も与えているのに、侍女長曰く読書の為の本と、最低限の日用品くらいしか望まないらしい。
大人しく、質素倹約な、完璧な淑女。
最近は、彼女がリーゼッヒ王国で本当に噂のような悪行を及んでいたのか疑問に思い、調べさせてもいる所だった。
だから、その結果が出るまでは。
俺の仕事がひと段落するまでは。
彼女の様子を、見るために。
そう理由を付けて、会いに行くのを、どんどん先延ばしにしていた。
──俺は、今でもこの判断を後悔している。
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