ナノマシン編(地熱・波浪発電所編)

第21話 それぞれの思惑

 フナートが倒れた、という事実は、クーゼン・タカタウンが切断者たちに無条件降伏するには十分すぎる理由であった。都市の人々は一部始終を見ていたのだ。

 いつからか各都市の中では、ジークタウンやカーマインタウンの都市警備隊は全滅させられても市民への被害は今の所確認されていないことから、切断者はあくまでもこの星を滅ぼしに来たのであって、我々都市の住人は抵抗さえしなければ殺されはしないのではないか、という噂がまことしやかに流れていたのだ。


{切断者!我々は貴方たちに喜んで降伏します!!}


 ・・・こんなふうにあまりにも直球な横断幕が掲げられていたので切断者たちも戸惑いを隠せなかったが、都市に入るや否や一行の前に武装を解除したうえでぐるぐる巻きにされたクーゼン・タカタウン都市警備隊を転がされては流石に信じざるを得なかった。


「切断者様、我々はこの通り武装を放棄いたしました、管理局もすでに発電を停止してすぐに破壊できる状態になっております、ですからなにとぞ、なにとぞ命ばかりは・・・」

「・・・」


 ・・・


「はーい押さないで押さないで、船の中はまだ一杯余裕ありますからね~」


 発電所をレーザー光線で跡形もなく焼き尽くした時は流石に住民も驚いたが、それさえ破壊すれば彼らはそこまで酷ではなかった。むしろ、銀河連邦という、この星なんか比べ物にならないくらいの楽園へと連れてってくれるというので、都市の住民はこぞって彼らが用意した宇宙船へと乗り込んだ。


「ジークタウン、カーマインタウン、そしてここ、住民全員銀河の難民として連邦本部に送ったら、こりゃあ始末書はコピペじゃ間に合わない枚数になるだろうなぁ・・・」

「えっ兄貴、連邦はまだ始末書なんてもん書いてるんですか?」

「そうなんだよ・・・」

「そん時は俺も手伝いますよ、始末書の作成は慣れてます、様式が変わってなければ多分大丈夫だと思います」


 他愛もない会話をしながらクノナシとファラリスは住民たちを誘導する傍ら、ギロチンとメイデンは宇宙船の自動操縦コースをセットしていた。目標は勿論、銀河連邦だ。


「・・・目標固定完了」

「こっちも終わったわ。後はもろもろの調整だけね・・・」

「・・・メイデン」

「どうしたの?」

「・・・さっきは、すまなかった・・・知らなかったとはいえ・・・」

「もういいわよ。その件は。髪もこの通り元に戻ったことだし。お互い水に流しましょう。・・・話したいことはそれだけ?」


 ギロチンはかぶりを振った。本題はやはりクノナシの事だ。ギロチンは、先の戦闘で気づいたことをメイデンに話し始めた・・・


 ・・・


 リアス王は一枚の写真を見ていた。自分が正式に王位を継いだ時に兄弟全員で撮影した集合写真であった。兄妹全員、ホロ会議なしでそろったのは結局この時が最後になった、とリアスは感慨深くその写真を見つめていた。

 聞かん坊だがそれでもつい甘やかしてしまったクジナ、女々しいが優秀だったカマイ、そして、短期だが兄妹一の大丈夫(ここでは立派な人物の意)だったフナートも、皆切断者にやられてしまった。


 残っている者は姉のミャコナと、妹のケセンナ、サカリナ・・・いや、彼女たちはなので、実質二人しか生き残っていないことになる。

 ホロ画面の向こう側から、状況把握のため現地に向かった王都警備隊司令官が気まずそうに報告してきた。と言っても、内容はジークタウンやカーマインタウンで聞いたことと変わりないことはもう分っていた。


「申し上げます!!クーゼン・タカタウンの・・・」

「タウンの納電管理局は陥落、住民は依然行方不明・・・か?」

「そ・・・その通りです・・・陛下・・・」


 ふぅ、とため息をついたリアス王は司令官に王都への帰還を命じた。そして、その足で残り一つとなった太陽光都市、ケセンタウンの都市警備隊の引き上げと、同都市の納電管理局の停止、及び破壊を命じた。


「よ、よろしいのですか、陛下?」

「構わない。どのみち破壊される順序が先になるだけだ。ケセン都市警備隊と共に都(みやこ)に帰還次第、すぐに警備隊の再編を行い、都(みやこ)の警備にあたらせろ。命令は以上だ」

「は、直ちに・・・」


 リアスはホロ画面を閉じて、姉と妹達の方に向き直った。いよいよ王も覚悟を決めたらしい。


「ケセンナ、サカリナ。お前たちはケセンタウンの任を解いたらすぐにGBKとXAKAIの機能を停止するのだ。そして、ミャコナ。余がいない間、代わりを頼む」

「・・・いよいよ、遺伝子書換アップデートを行うのですね?」

「ああ、どうやら我々には思ったより時間はなさそうだ。急いだほうがいい。」

「・・・仰せのままに」


 そう言うとリアスは謁見の間から立ち去ろうとした。しかしそれをケセンナ、サカリナの二人がとどめた。


「お待ちをリアス兄さま、もし途中で切断者に会ったらどうすれば・・・」

「私たちはゆえ、普通の攻撃ならかわせます。ですが・・・カマイをあのようにした、例の装置だけが気がかりで・・・」


 リアス王は案ずる二人の妹に一つだけ忠告を与えた。


「・・・あの装置は敵に向けることは出来ても・・・味方には向けられまい?」

「というと・・・?」

「同士討ちをさせるのだ・・・お前達にはそれが出来るだろう?」

「・・・なるほど、分かりました。サカリナ。」

「ええ、分かっていますよ、ケセンナ。」


 な二人ならではの、とっておきの方法を使えと言うリアス王の言葉を姉妹は理解した。これはこの姉妹にしかできない技なのだ。二人は顔を見合わせて笑みを交わしたかと思うと、それぞれの持ち場へと戻っていった・・・


 ・・・


 クーゼン・タカタウンとケセンタウンの間に存在するこの星唯一の活火山であり、最も高い山でもあるボクスルート山のふもとには、そのマグマから熱を取り出して電気エネルギーに変える地熱発電所と、その発電所村がこびりついている。だが、村は過疎化でとっくに無人化し、今は納電管理局にしか人はいないが・・・そのわずかに残った人員もいなくなってしまった。


 そう、クーゼン・タカタウンからケセンタウンへこの山を越えて向かおうとした、切断者たちの襲撃を受けたのだ。地熱発電所は抵抗むなしく陥落したが、その時ギロチンの放った切断波の一つが地下温水パイプラインを誤って切断してしまった。そしてそこから勢いよく飛び出した鉄砲水で、地熱発電所は一変した・・・


「いい湯だな、アハハン。いい湯だな、アハハン。転がる死体を、湯船に浸けても~♪」


 地熱発電所跡は今、温泉となった。ご丁寧に二つも空いた大穴にお湯が流れこみ、しかも瓦礫がちょうど”ついたて”の代わりになっている。ここを攻略した時点でケセンタウンの納電管理局が都市警備隊自らの手で破壊されたという事実が分かり、せっかく時間が空いたからと切断者たちはここでしばしの休息をとることになった。歌を歌って上機嫌に湯船につかっているのはもちろんクノナシだ。


「冷てェな、アハハン。冷てぇな。アハハン。ここは地熱発電所跡の湯♪」

「えらく物騒な歌だねクノナシ・・・君の前にいた星ではみなそれを歌うのかい?」

「いやあ、ちょいと俺が雰囲気に合わせて改変しました。本当は聞くだけで温泉に入りたくなるいい歌なんですよ?」


 半機械人間とはいえたまには体を綺麗にしなければならない。本来はアツアツの潤滑油グリス風呂に入るのが好ましいが、お湯につかるだけでも殆どの汚れは落ちるように出来ているので特に問題は無かった。ちなみに、メイデンは”ついたて”の向こうで一人入浴していた。半機械人間とはいえ一応性別が違う、というのもあるが、本来の理由はもっと別にあった。


 ~~


「・・・つまり、クノナシは既にあの龍や龍潜洞の化石の事を知っていたという事?」

「・・・ああ。あいつからもらった骨格のイメージデーターは・・・想像で作ったという割には・・・化石の組成物質、姿勢、そして破損個所に至るまで・・・明らかに精度が高かった・・・」

「そして、フナートとの遭遇さえも予知していたかのようなつぶやきを発した・・・それは分かったわ。でも、なぜ彼はわざと知らないふりをするのかしら」

「・・・何か、目的があるのかもしれない・・・そして、メイデン・・・クノナシはお前に対して・・・何か特別な思いがあるらしいが・・・」

「私に?」

「・・・そうだ」


 ~~


「私に特別な思い、か・・・」


 メイデンは一人、湯船の中で考えた。半機械人間なのでのぼせる心配もない。しかし私とクノナシはこの星で初めて会ったのだ。接点などある訳もない。もとより、人工子宮世代との面識は私の知る限り”あのひと”しか思い当たる節が無い・・・そこまで考えた時点で、彼女はクノナシが、自分と初めて会った時に放った言葉を思い出した。


『・・・そっくりだ・・・』


 ふと、頭に浮かんだ、ある一つの可能性。だが、そうだと断言するには証拠が少なすぎるし、何より突拍子すぎる。果たして自分の予想はあっているだろうか。とにかく、早急にデーターベースに問い合わせよう。そのためには、まずこの任務を早く終わらせなければ・・・


「メイデンさん、俺らそろそろ上がりますけど、どうしますか?」

「・・・ええ、私も上がるわ。」


 メイデンは思索にふけるのをいったんやめて、新たに惑星安楽死任務完遂への決意を固めて、湯船から上がるのであった。



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