第12話 クジナの誤算

「ねぇ、絶対におかしいよ・・・」

「ええ、おかしいわね。仮にも城郭都市内の納電管理局が、ここまで警備が手薄なんて流石に想定外よ」


既にメイデンとファラリスは、納電管理局の侵入に成功し、衛星兵器の誘導装置を準備して同局を後にするところであった。

本当ならもっと時間がかかると見込みを立てていたので朝早くからこの都市へと進入したのだが、局内の警備があまりにも手薄すぎるために予定よりも早く終わってしまった。後は重光線で納電管理局が消し飛ばされるのを待つだけだ。


「銀河連邦訓練生時代の潜入訓練よりもな警備・・・何なら、これまで道中で戦った警備隊の方がまだ数があったよ・・・でも僕たち、そんなにやっつけてないよね?」

「流石にそこまでジークタウン都市警備隊が少数な訳ないわ。・・・もしかしたら罠かもしれないとも思ったけど、結局ただの思い過ごしに終わったわね・・・まあ、早く終わるに越したことはないけれど」

「・・・せっかく早く終わったんだからさ、メイデン。いや、メイデン班長」


ファラリスはメイデンに改まって向き直り、そして深々と頭を下げた。


「班長、お願いします!ギロチンの・・・ギロチンの追放処分を取り消してください!!」

「・・・はぁ、まだそんなこと言っているの。もう彼は、」

「班長!彼だって一人の(半機械)人間です!人間なら誰しも、色々なきっかけで落ち込むことがあるんです!でも彼は、皆の助けを借りながらだけど、それを一度は乗り越えた。今度だって、また皆で助け合えば乗り越えられるはずです!」

「・・・」

「班長!・・・どうか、どうか・・・彼にもう一度チャンスを・・・」


もし自分の疑似網膜に、涙腺機能がついていたら、今頃涙を流していたのだろうか。そう思いながら同期なのに珍しく頭を下げてまで彼女にに彼の処分取り消しを懇願するファラリスの姿をみて、さすがのメイデンもため息をつく。・・・ここは折れるしかなさそうだ。


「・・・はぁ、分かったわよ。貴方がそこまで言うなら、そうするわ」

「班長・・・!」

「ただし、一度下した処分を取り消すという事は、それなりの覚悟を見せてもらわなければならないわ。もし彼に改善の余地が見られないようであれば・・・あなたにもその責任を取ってもらうわよ。いいわね?」

「・・・はい。男に二言はありません。班長」

「よろしい。・・・まあとりあえず、この町を出てから彼を探しましょう」


二人は納電管理局を出て、夜でも明るいジークタウン繁華街を抜けて都市の出口へと急ぐ。本当なら人込みでごった返しているはずなのだが、なぜか今日は人通りがない。ただ煌々と、あと数時間の命の電灯がむなしく床のタイルを輝かせているだけだった。


「今日ってもしかして、何か特別な日だからみんな休んでるんじゃないかな?」

「民衆ならまだしも、都市警備隊は例えそのような日でも管理局の警備をあれほどまでに怠れないわ。特に私たちが発電所を破壊して回っているうちは、なおさらよ。」

「それもそうか・・・ん?」


タッタッタッタッ・・・


「おい聞いたかよ!、今日の処刑祭り、とんでもない奴が連れてこられたんだってさ!」

「盗電族の首領でしょ?何もそこまで急ぐ必要ないじゃん・・・」

「盗電族だけじゃねぇよ!”切断者”だよ!”切断者”も今宵の処刑祭りに出されるんだよ!」

「切断者!?あの切断者が、とうとう捕まったの!?」

「間違いねぇ、そうでもなければこの町の都市警備隊の殆どが処刑祭り会場に集められるか?」

「どんなやつなのか、俺顔見てみたい!」

「だったらもっと早く走れ!処刑祭りはもう始まっちまうぞ!」


タッタッタッタッ・・・


「「・・・」」


二人の密使は、顔を見合わせた。これから探しに行こうとしていた彼が、どういう訳かこの町に来ていたのだ。管理局のあのざる警備の理由にもどうやら一枚かんでいるらしい。


「メイデン。僕・・・」

「ええ、考えてることは同じよ」


二人は処刑祭りへと急ぐ若者たちを追いかけて「彼」のもとへと急行した・・・




既に処刑祭りの会場は、あの噂の切断者が処刑されるというのでどういう輩なのか一目見ておこうと、町中から集まってきたジークタウンの住民で埋め尽くされていた。

スタジアム状の会場のど真ん中にある台の上に、この町の主クジナと、「今宵の主役」のギロチン、女首領の二人。そして、遠目で見てもわかるほど鋭利な刃を高々と掲げた”首切り台”が置かれていた。その白銀に光る刃は、この小さな暴君の命令を受けて、いったいどれほどの人の血を吸ってきたのだろうか。


「これより、第60回処刑祭りの開催を宣言する!!」


ワァァァ!!


この町の都市警備隊の総指揮官と思われるものが、まず、今宵首切り台に掛けられる者たちの罪状をご丁寧に読み上げていく。処刑祭りで一番じれったい時間だ。そんなものいいから早く首切り台に掛けろ!というヤジが色々な所から飛んでくるが、指揮官はあくまでも最後の一文字まで淡々と読み上げるだけだ。


「・・・」

「怖いかい?死ぬのが」

「・・・いや。」

「ふふっ、無理に強がらなくていいんだよ。・・・あたいは怖くないんだ、直前で追加されたとはえ、道連れが一人でもいるだけで、心強いよ」

「・・・」


「・・・以上の理由をもって、この二人は死刑判決が妥当と判断し、今日この日をもって処刑を実行する。なお、切断者の処刑に関しては、この都市に住む全住民を代表して、クジナ様が直々に行う!!」


長い長い罪状の読み上げが終わり、どうやら”その時”がきた。もはやこれまで、と女首領は深いため息をつき、覚悟を決める。


「じゃあ、先に行って待ってるよ、・・・またあの世で、たくさんあんたの話を聞かせておくれよ」

「・・・」


電動首切り台の仕組みは、その大きな刃の真下に拘束した受刑者を横に寝かせ、刃を垂直方向に落下させて、ちょうど首筋を狙える位置を狙って断ち切るというものだ。構造自体は単純なので、銀河の星々にこれと似たようなもの存在が確認されているが、中には今まさに首切り台にかけられようとしている「彼」と同じ名前をこの処刑器具に付けた星もあるとされる。

そしていよいよ、彼女は首切り台の下に寝かせられた。後は刃を下におろすだけ・・・そしてその瞬間を間近で見れる特等席に、クジナは鎮座していた。その姿を見つけるなり、女首領はまた深いため息をつく。


「まったく・・・せめて顔に袋でも掛けたらどうなのさ、どうせ死ぬんだから少しは気を使ってやろうとは思わないのかい?」

「減らず口をたたいて自分の死ぬ時間を少しでも伸ばそうって魂胆?あはは、盗電族の首領のくせに臆病なんだ、死ぬのが怖いんだね!」

「違うよ、どうせ死ぬなら、あんたのような”クソガキ”の憎たらしい顔を見ずに死にたいから、袋をつけろと言ったんだよ!・・・仮にも都市の君主なのにそれも分からないなんて、やっぱりあんたは”末っ子クジナ”のあだ名がお似合いだね!」

「!!・・・こ・・・の・・・お前たち何してんだ!!早くこの女を切りなさいよ!!後つっかえてんだから!!早く切れっつってんだろ!!おい!!」


最後の最後で取り乱したクジナの姿を見ながらあの世に行けるなんて自分はつくづく幸運だ、とでも言いたげな笑みを女首領は浮かべた。どんな状況であれ、自分は笑って死ねるのだ。何より、あとから仲間が来る。たとえ天国だろうと地獄だろうと、一人でも道を共にする仲間がいれば・・・




「・・・斬れっ!!」




ポチッ・・・




ギィィィィン!!




「(いつだったか、人が死ぬ瞬間って目の前が真っ黒になると言われてたけど、でも、いざ死んでみると、真っ白になるんだねぇ・・・)」




だが、女首領以外の者も同じ光景を目にしていた。首切り台のスイッチが押された瞬間、星空のかなたから一筋の光の柱がジークタウンの中央めがけて一直線に闇夜を貫き、都市全体がまばゆい閃光に包まれたのだ。そしてその一連の出来事に、ギロチンは心当たりがあった。そう、この光の柱こそは・・・



「・・・重光線・・・!!」

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