第3話 都市警備隊
三大陸には、都(みやこ)の他にも都の発電所から過不足なく電力が届く範囲に四つの大きな城郭都市(タウン)が配置されている。そのうちの一つ、ジークタウンを警備する都市警備隊の仰々しい
「ジークタウン管轄の第四納電管理局に停電発生!」
「地中送電線が外部からの強力な振動波を受けて切断!被害甚大!」
「同時に、火力発電所村からの納電量著しく低下!」
「村役場への緊急回線、繋がりません!」
「誰も応答しないなんてどういう事だ!」
「まさかあの村の連中夜逃げしたんじゃ・・・」
ここ最近、納電量が増えるにつれて、――99%の確率で見つかって失敗するのに――村全体で「夜逃げ」をする事例が後を絶たず、今回の納電量低下もその一種だと見られていた。だが、納電管理局の送電線が文字通り真っ二つにされているとなると話は別だ。送電設備の破壊は重い罪に問われ、下手をすれば村全体が取りつぶされることはこの星に住む人なら知っているはずだが・・・
「おいまてよ、送電線って見えるところにあるとはいえ、対核ガラスでぎっちり守られてるはずだよな?」
「あれをガラス越しにきれいに真っ二つにするなら、相当なエネルギー波を発生させる装置を使うことになるな・・・」
「だが、あの村でそんなこと出来そうなのは高熱度振動削岩機くらいだ。あの程度の威力じゃ送電線はおろかガラスも破れないはず」
「おそらく、村の連中とは別の誰かが、ケーブルを切りやがったんだ。」
「一体だれが?」
「それをこれから管理局で確かめるんだよ、そーら見えてきた!飛ばすぞ!」
都市警備隊は停電によって不気味に黒々とした姿をしている納電管理局へ向けて、タンクとバイクを全速力で飛ばした。
納電管理局を最初に停電に追い込んだのは、結果としては正解だった。あちらが復旧作業に気を取られているうちに村人たちを宇宙に逃がして、あとはゆっくりとこの村――ジークタウン管轄火力発電所村――を破壊することが出来るからだ。
「衛星軌道、最終調整完了。座標固定開始」
「重光線装置、各機器異常なし。砲門開け」
「重光子充填率・・・50・・・80・・・100!」
「座標通過時刻まで5秒前、4、3,2,1・・・」
「・・・重光線、発射」
村の真上に誘導された衛星兵器がその巨大な口径から放つのは、質量をもった光線、重光線。衛星内で光子に質量を与えて作り出した重光子で構成された光線を放つこの兵器は、銀河連邦で最も廉価で効果的な戦略兵器である。
ギィィィィン!
大気を切り裂きながら、甲高い音を立てて放たれた重光線は発電所村を一瞬で消し飛ばした。残ったのは地面に直撃した瞬間に発生した衝撃波とクレーターだけであった。
「発電所の消滅を確認、成功よ」
「ふう…これでひと段落だね。予定より少し遅れてるけど、任務遂行期限までの時間を考えたらまだ誤差程度だ」
「次の破壊目標は・・・ここから都市方向に向かって山を越えた先にある水力発電所・・・ジークダムね」
「ねえメイデン、この星の延命を阻止するんだったら、そのネットワークの中心たる都の発電所から先に襲撃したほうが手っ取り早くない?僕はそう思うんだけど・・・」
「中心がやられたくらいで発電ネットワーク全体が止まるほど、この星の技術は遅れてはいないわ。修復する暇も与えずに末端の発電所を一つずつ潰して、ネットワーク自体の余力をじわじわと削っていき、余裕がなくなったその時を狙って、中心を全力で叩く。地道だけど、これが一番確実よ」
次の目的地に向かって、無限に広がる荒野を歩きながら、3人は自分たちの任務について話していた。
「そんな回りくどいことするくらいならいっそ小惑星でもぶつければいいのに・・・」
「言ったでしょファラリス、この星は”惑星風邪”に感染した最後の星なの。適切な処置を行わず無闇に破壊したらせっかく長い時をかけて収束した"
「・・・この星は滅びなければならない・・・だが、この星に住む人々も全員が滅びるべきとは限らない・・・」
「ギロチン?・・・私たちは、人助けをしにこの星に来たわけじゃないのよ。」
「・・・ああ。分かっている」
「僕たちもなるべく努力するけど、全員は守りきれない。任務遂行上どうしても犠牲が出る時がある」
「・・・」
「人助けもいいけど、僕たちの最優先事項はこの星の安楽死だ。それを忘れないでくれよ。ギロチン」
「・・・」
ギロチンは押し黙り、前の一点に目線を向けたまま動こうともしない。自分の任務はあくまでもこの星の安楽死。しかし、出来る事ならこの星に住む無垢な人々を救いたい。その葛藤と内心戦っているのだろうか。そしてその葛藤の原因となっている、過去の出来事とも・・・
だがそんなファラリスの想像ははずれた。
「・・・多数の生命反応を検知。誰かがここへ来る」
「生体反応の他に、強力な熱源反応・・・都市警備隊とその武装車両よ。どうやら見つかってしまったようね。」
「かなりの数だ・・・面倒ごとになる前に逃げようよ!」
「・・・だめだ、今からではもう逃げ切れない。」
やっとの思いで納電管理局を復旧させた都市警備隊に新たな問題が降りかかった。発電所村が突然消えたのだ。村民どころか村ごとごっそり消えるという今までにはないパターンに、都市警備隊は困惑するも、それが遥か上空から放たれた衛星兵器の仕業によるものだということは容易に突き止めることができた。そして、それらを操る信号がこの星から、それも村や納電管理局からそう遠くない場所から何者かによって発信されていたことも…
「衛星兵器の信号が発進されたと思われる地点に生体反応確認!」
「映像を拡大して、連中の顔面部分と納電管理局襲撃の実行犯の顔面データーと照合しろ!」
「照合結果、出ました!3人のうち、男の一人と"切断者"の一致率9割!間違いありません!」
「ようやく見つけたぞ…”切断者”め!」
都市警備隊は3人を見つけると、すぐさま戦車と騎兵で四方を取り囲んだ。等間隔になって並べられた戦車の内、隊長機と思われるものから二人の男が顔をのぞかせた。一人はこの師団を率いる警備隊長で、もう一人は納電管理局の例の悪人面の男だ。
「局長、あの男で間違いありませんか」
「・・・あぁ・・・あいつだ!あいつが監視カメラの映像に移っていた、管理局の送電線をぶった切ったやつだ!」
「やはり・・・そこの3人!!」
警備隊長が彼らに戦車の上から話しかけた。
「条例に基づき、貴様らを火力発電所村破壊と納電管理局業務執行妨害の
実行犯で都市警備機構へ連行する!従わない場合は貴様らを発電ネットワークに害をなす”切断者”とみなし、今ここで処刑代執行を行う!」
「切断者・・・あなたにぴったりのいい渾名ね。ギロチン」
「答えろ!おとなしくお縄になるかここで殺されるか!」
「僕たち、できればあなた達と戦いたくないんです。結果が分かってる戦いほど、つまらないものはないでしょ?」
「・・・そうか、そんなに死にたいか。実行犯たちの不服従の意思を確認、処刑代執行を行う。射撃用意!」
「やめておいた方がいいわ。それ、圧縮空気式自動小銃でしょ?それ弾込めるの面倒くさいのよね・・・せっかく手間暇かけて込めた弾が全部無駄になるわよ」
「ふざけるな!我々都市警備隊を舐めるとどういうことになるか・・・思い知らせてやる!」
小銃と戦車の銃口は一斉にギロチンたちに向けられた・・・そして。
「撃ち方始め!」
バババババババ!!
ボヒュン!ボヒュン!ボヒュン!
圧縮空気で放たれた弾丸と砲弾の嵐と、それによって引き起こされた砂埃にギロチンたちは包まれた。照準は適当だが、これほど打たれたらひとたまりもないであろう。警備隊長は、勝利を確信しほくそ笑んだ。ざまあ見やがれ・・・
だがそれは、彼らが「普通の人間」だったら、という仮定の話。
警備隊長は彼らがわざわざ忠告した意味を身をもって思い知ることになる・・・
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