天使の救われ方

因幡寧

第1話

 文字の練習も兼ねて、日記を書くことを勧められた。一度は断ったのだけれど、せっかく持ってきたのだからと本とペンを置いていかれれば、何もないこの場所では少しは書いてみようという気にもなる。


 私は人工的に作られた天使だ。本来は廃棄処分されるはずだったけど、それすらままならず封印されている。そうして永遠とこの何もない空間で眠り続けると思っていた。ほんの少し前までは。


 でも、私を大切に思ってくれた人の助けがあって、私をここから連れ出す方法を探してくれる人たちが現れた。何度も挑戦した。そのたびに何度も失敗した。最初はそんな希望を信じて裏切られるのが怖かった。でも、今日もあの人たちはやってきた。


 私を着せ替えて楽しんでるけど、私のことを心配していろいろなことを教えててくれるあのきれいな女の人も。


 実験と称してたくさんの道具を持ってきては頻繁に爆発させるあの小柄な男の人も。


 自分を怪盗だって、すごいやつだって言い張るあの泥棒も。


 私はそろそろ、きちんと信じるべきなんだとそう思う。






 日記を書くってことは、私のあいまいだった時間の感覚をしっかりとさせることにもつながる。それは多分、そこそこしんどい。だから私は一度断ったけど。でも、これは覚悟なんだ。

 私がここから出て、もう一回世界を見るっていう意思表明なんだ。


 この日記を、今の鮮やかな時間の思い出にはしたくない。あの泥棒にありがとうって言って、私を大切に思ってくれたあの人のお墓参りにも行きたい。


 だからお願い。どうかこの日記が文字で埋まってしまう前に。


 天使が、神様に祈るなんて少し変だとも思うけど。それでも。


 どうか、次の作戦は成功しますように。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

天使の救われ方 因幡寧 @inabanei

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説

楽観的な箱

★3 SF 完結済 1話