第12話 河童の変化

 一人きりになった河童が滝壺の水を覗き込むと、そこに美しい白い袈裟を着た青緑の河童の姿が写りました。しかも、体からは黄金色の光が放たれている様に見えます。

 驚き慌てた河童は、自分の手で顔を触ってみました。すると滝壺の水には、手で顔をさわる河童大明神が写りました。


「これは・・・ 滝壺に写っているのは私なのか? これが私の姿なのか? 本当に大明神になったのか・・・」


 この時から河童は、滝壺の守り神‘河童大明神’となり滝壺で毎日朝夕に経を上げ、村の人々と水難に遭った人々が蓮華の眠りに就けるよう祈る事となりました。



 そうして早速、河童が夕方の経を上げようとすると滝壺に人の気配がしました。気になった河童大明神が滝裏からのぞいて見ると、滝壺のふちに和尚と占太の姿が見えました。


「和尚様、あれを見て。あんな所に祠が建っているよ。いつ出来たんだろう?」

「おや、本当だ。この前はなかったぞ。一体誰が? いつ出来たのだ?」

和尚と占太は不思議がっています。滝壺のふちに、今まではなかった真新しい祠が建っていたのです。

 そこへ、河童が滝裏から出てきました。


「あれ? 河童さん? いつもと様子が違うけど・・・」

河童大明神となった姿を見て、占太は驚いています。


「おや、慈聡。一体どうしたというのだ。その姿は?」

「えっ? 慈聡? 和尚様、慈聡って・・・」


「あぁ、占太。この河童は、以前うちの寺にいた慈聡という僧侶なのだよ。村の者を探しにこの滝壺に来ているうちに、河童の姿に変わってしまったそうだ。それからずっと、ここに棲んでいるのだよ。だから占太にお経も教えられたし、寺の蓮池の事もよく知っていたのだよ。」

「和尚様。じゃぁ、河童さんは、和尚様のお弟子さんだったんだね。」


「あぁ、そうだ。私たち寺の者が、ずっと探していた慈聡だったんだ。あの日寺で、占太が河童にもらったという経の紙を見て驚いたよ。そこに懐かしい慈聡の文字があったからね。

 その時、気付いたんだ。滝壺に棲みついている河童は、きっと慈聡に違いないって。それでここへ会いに来たら、やっぱり慈聡だった。占太のお陰で、また会えたんだよ。ありがとう。」

和尚は占太に礼を言いました。


「うん。そういう事なんだ。占太、ありがとう。私からも礼を言うよ。河童の姿になってしまって寺に帰ることも出来ず、この滝壺に棲みついて和尚に会うことも出来なくなっていた。

 だけど、占太のお陰でまた会うことが出来て、事情を話す事が出来た。ありがとう。」

河童も占太に礼を言いました。


「そうだったのか。河童さんは、長慶寺のお坊さんだったんだね。そっかー。だからお経が上手なんだ。

 でも、今日の姿はどうしたの? いつもと違うよ。何かあったの?」


「あぁ。実はさっきカエル仙人が現れて、私をこの滝壺の守り神にしてくれたんだよ。毎日朝夕にここで経を上げ、村の人々や水難に遭った人々の蓮華の眠りを祈るなら、お前を河童大明神にしてやると言ってこの姿に変えたんだ。

 その祠も建ててくれた。もう村の人たちに怖がられなくて済むようにと、私を水神様と並んでこの滝壺の守り神‘河童大明神’にしてくれたんだ。」


河童の姿が変わった事情を慈聡が二人に話すと、和尚はその姿をじっと見つめ手を合わせました。


「慈聡よ、私を飛び越えて徳の高い所へ上がったのだな。それはよかった。カエル仙人様に感謝だな。ありがとうございます。」

「すごいや河童さん。大明神になったんだぁ。」

占太も和尚の真似をして手を合わせます。


「二人ともよしてくれよ。恥ずかしいじゃないか。河童大明神になっても毎日やる事は同じ、

朝夕に経を唱えることさ。今もこれから夕方の経を唱えようとしていた所だったんだ。」

河童が少し照れながら言いました。


「そうか、そうか。それなら今日は、三人で一緒に経を唱えようではないか。」

和尚は滝壺に向かって膝を付きました。占太も河童大明神も並んで座り、三人で経を唱え始めました。

 三人の経は滝壺に響き渡り、空気を変えていくようでした。














  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る