それからというものの、二人は特に恋人というような感じではなかった。それよりも互いを尊重し受け入れ合えるいい存在として仲間の延長戦のような関係性だ。翔はこれで全く問題ない、これより上に望むものなんてないと思っていた。桜花が息絶えるまで桜花に1番近いところにいれることに喜びというよりも安心したのだ。そんなある日のことだった。

「鈴木くん、今度一緒に出かけに行かない?」

桜花にそう誘われたのだった。翔は桜花とたくさんの思い出を作りたい、桜花のさまざまな一面を見て桜花の気持ちを理解するためのきっかけづくりをしたい。一緒に時間を共有する中でこの思いが1番強かった。

「もちろんいいよ。どこに行きたいとか希望はあるの?」

「特に何かしたいわけじゃないの。たくさんの景色を見たいなって思ってる。四季の移ろいをこの肌でしっかり最期まで感じていたいの。」

「じゃあ、お花が見える公園にでも行こうか。今は夏だからひまわり畑はどう?」

「鈴木くんナイスアイデア!ひまわり畑に決定!」

翔は覚悟を決めた。これから四季の移ろいを桜花と一緒に感じよう、と。桜花が大切にしたいものは俺も大切にしたい。そこからが桜花の気持ちを理解する第一歩になるんだ。そう思ったのだった。


週末の朝、駅で二人は待ち合わせた。制服姿の桜花しかみたことがなかった翔は桜花のまとっているワンピースに思わずドキッとした。

「村木さん、その服すごく似合ってる…。今日行くひまわり畑にもきっと合うよ。」

桜花は水色でスカートにレースがついたワンピースを着ていた。お花柄の刺繍がところ所にあるのもすごく可愛かった。

「ありがとう。このワンピース、お気に入りなんだ。」

翔は桜花がこの日にお気に入りを着てくれたことが嬉しかった。

電車に揺られて1時間くらいだろうか。周りの景色はビルがなくなり長閑な風景へと変化した。終点に着くと二人はゆっくりと電車を降りた。二人での初めてのお出かけ、初めて足を踏み入れる場所。その瞬間を噛み締めたかった。駅から15分ほど歩いたところにひまわり畑はある。今日は週末とだけあってひまわり畑へ続く道もやはり人が多かった。


ひまわり畑に着くと二人はあまりの広さと元気にさくひまわりに圧倒された。

「…綺麗だね」

二人が同時に同じことを言った。思わず二人は見合って笑ってしまった。

翔はこの時間がとてつもなく愛おしいもので仕方なかった。この時間がずっとずっと続けばいいのに。でもそう思うほど「死のリアル」が迫ってきそうで怖かった。そんな翔と対照的に桜花は

「ねぇ、鈴木くん!ここすっごく気持ちいいね。吸っても吸っても飽きない綺麗な空気が心にしみるわ。ここに住んでいれば病気も治っちゃいそう。」

初めてのひまわり畑にかなり気分を高揚させていた。すると突然

「鈴木くん、ひまわりの花言葉って知ってる?」

と尋ねてきた。翔は少し頭抱えて考えたが「元気」という言葉しか浮かばなかった。教えてほしいと桜花に尋ねると

「元気もおしいのよ。そういう前向きな花言葉なの。正解は、あなただけを見つめる、よ。」

翔は一瞬桜花がなんて言ったのかわからなくなった。今、あなただけを見つめる、と言っただろうか。それが答えの問題をなんで出してきたんだ?翔は混乱した。

「私、あなただけを見つめていたいって思える人がいるなんてとても素敵なことだと思うの。人なんてたくさんいて人生会わない人の方が圧倒的に多いじゃない?そんな出会った少ない人の中で一途に思える人を見つけることができるなんてこの上ない幸せなことだと思うの。本当に憧れなんだ。」

翔は少しだけガッカリしてしまった自分がいることに気がついた。でもまだ自分はそういう存在になっていないんだったらこれから時間をかけて絶対にそうなりたいという強い気持ちへと悲しみから変化した。


ひまわり畑ではたくさんの写真を撮った。向日葵をあらゆる角度で撮ってみたり、桜花のこともたくさんとった。あった時から思っていたようにやはり水色のワンピースとひまわり、青空がよく映えた。桜花はどの写真でも笑っていた。それもひまわりに負けないくらいの明るい笑顔だった。そんな写真をみながら、やっぱり人間が抱えているものは外見だけではわからないと感じた。それは翔もそうだし、桜花もそう。他の人だってそうなんだと思った。─最後にとったツーショットは翔の宝物になった。


時間はどんな時でもみんな平等に流れている。楽しい時だって苦しい時だって、時間の長さは変わらない。だが、桜花と出会ってから自分達だけ時間が短くされているのかと思うほどあっという間に時が流れた。

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