部活の顧問を強要されたので、廃部に追い込んでみた

草茅危言

部活の顧問を強要されたので、廃部に追い込んでみた

私は、ある中高一貫校で、教師をしている。


そうだなぁ。取り敢えず、常井と名乗っておこうか。


これは「別次元の領域」という小説に出てくる登場人物の名前だが。


昨今、部活の指導のために、教員が教材研究などの時間や休暇を

充分にとれていないため教育の質が低下している、

「ブラック部活」という問題があることを

読者諸氏は御存知のことと拝察する。


そこで、その問題の解決策として、その一例を示したいと思う。


――――――――――――――――――――――――――――――


ある日、私は校長室に呼び出された。


校長の名前は・・・仮に「壇ノ浦」とでもしておくか。


「君に、●●部の顧問を頼みたい。」


ここでは、●●部は、運動部を想定しているが、

「●●」の部分は、任意なので、読者諸氏の想像にお任せしたい。


しかし、参ったな。私には、運動部の経験など全くないのである。

懸念点があるのなら、それは伝えておくべきだろう。


「私には、運動部の経験など全くありませんが?」


「ああ。それは問題ないよ。人手不足だから仕方ないよね。」


壇ノ浦校長は、その懸念を一蹴し、逆に、

人手不足だから、まさか断らないよね?

と圧力をかけてくる。そうか、人手不足なのか…。


「では、部の活動方針などは全て、

私の裁量で決めてしまって構いませんね?」


「ああ。全部君に一任するよ。」


よし、言質は取った。ボイスレコーダーで録音済みだ。

最終的な責任は全て、私を任命した校長にある。


――――――――――――――――――――――――――――――


まず、私は●●部の部員全員に「退部届」を配ることにした。


そして、演説を行った。


「諸君は『背水の陣』という言葉を知っているな?

今、諸君に配った『退部届』は、諸君の覚悟を問うものだ。

活動意欲の低い者に無理強いをすれば、

部全体の士気が下がるというものだろう。

私は諸君が無理のない範囲で活動することを望みたい!

学生の本分はあくまで学業なのだからな。」


学生の本分である学業を疎かにしてまで、

部活動を優先するという、昨今の風潮には虫酸が走る。


この●●部の部員達の覚悟を問うと言ったが、その士気は低い。


民度の低い生徒が多いので、上級生が下級生を使い走りにして、

その少ない小遣いを搾取している。中には、上級生の家庭よりも、

下級生の家庭の方が、経済的に貧しい場合があるのにもかかわらず。


名目上は上級生が下級生を指導する対価ということらしいが、

これでは、まるで、ヤクザの上納金や、みかじめ料の類ではないか。

学校は早熟な強者による、恫喝と搾取の場を提供していることになる。


「体育会系は上位の者に絶対服従らしいな?

では、将来、自分の上官・上司・上長が

『地下鉄に毒瓦斯ガスを撒いてこい』

と言ったら、君はそれに素直に従うのか?

全てに『ハイ』と答えるのが良い部下ではない。」


実際、こういう連中が、地下鉄に毒瓦斯ガスを撒くんだろうな。

条件反射で公式を丸暗記するだけの勉強をして、

テストが終わったら全て忘れて、

不毛な部活で散財し、学業を疎かにした結果、

無能な指導者にとって都合の良い、

思考停止した労働者が量産されていくわけだ。


誰かがこの流れを断ち切る勇気を示さねばならない。


その為ならば、私はこの権力を用いることを躊躇うつもりはない。


連中の思想を逆手に取れば、連中は私の権力に従わざるを得まい。


まずは、搾取されていた下級生に、逃げ道を提示し、

速やかに退部を促すことで、彼らを保護する。例えば、

・塾や習い事

・入院した家族のお見舞い、介護

・他の部活への転部

等々、退部理由は何でも良い。


私は憲法違反だと思うのだが、部活動が強制となっている

都道府県もあるらしい。その場合は、私の生徒数名有志に、

資格取得やプログラミングの勉強会を発足させて、転部させる。


青春という時間を無駄に過ごさせるわけにはいかないからな。

さぁ、有意義な活動をしようではないか。


次に、下級生から搾取していた上級生数名に強めの指導を行う。

素行不良が著しい場合は、部の規則に鑑み、強制退部の措置をとる。


例えば、電車の中で大きな荷物を広げて占領しながら、

座り込んでいるジャージ姿の運動部員を見かけるが、

自分達体育会系が優遇されているとでも思い込んでいるのか?

勘違いも甚だしい。


最後に、学生の本分は、あくまで学業なので、

学業成績が基準点以下であれば、学年関係なく、退部してもらう。

そして、その基準点を少し高めに設定すれば、

かなりの人数を退部させることが出来そうだ。


退部届を配ることで、逆に部員の結束が強くなる場合もあるが、

この程度の民度の部活であれば、それは有り得ないので、

さっさと潰してしまった方が、世の為人の為、だろう。


――――――――――――――――――――――――――――――


数日後。校長室にて。


「というわけで、部員在籍数が最低定員数を下回ったので、

規則により、●●部は、廃部する運びとなりました。」


壇ノ浦校長は、頭を抱えていた。


「伝統ある●●部が廃部になったら、OBからクレームの嵐だろう。

どうにかならないのかね、常井君?」


これに対し、私はこう答えた。


「生徒達自身の自由意志によって、決定されたことです。

彼らの意思を尊重することが、我々教育者の務めでしょう?

OBは在校生と違い、当事者ではなく、あくまで外野に過ぎないので、

廃部の決定を覆す権利はどこにもないかと。」


「だが、そのように誘導したのは君だろうが・・・。」


「校長が私に一任すると、仰いましたね?

ここに言質は取っていますよ。」


録音済みのボイスレコーダーを見せると、

壇ノ浦校長の顔色が絶望に染まる。

私を顧問に任命した貴様が悪い。ざまぁ。


また、人手不足だとか言って、他の部活動の顧問を強要するなら、

同様のことを繰り返すだけだ。さて、次に潰れるのはどの部だろうな?

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