第3話 日陰の世界
あれから水野は事務所のような場所に来ていた。
「ヒロさんここは?」
「事務所だよ」
事務所のようなではなく事務所であったらしい。
「情報屋と一緒にやっている探偵業でね。情報が色々入ってくるから一石二鳥」
ヒロの話を聞く限りでは小遣い稼ぎ程度の副業。そのくらい本業の方で儲かっているということだ。
「事務所はヒロさんだけですか?」
「いや、他に三人いるよ」
「その三人は今どちらに?」
エレベーターを使って五階に行き事務所の中に入るが誰もいないのだ。
部屋には課長クラスのものと事務員用のワークディスクが六つ。そのうち二つには資料らしきものが積み重なっていた。
入り口から手前の左、窓側には来客用のソファーに机が置いてあり右側の奥には本棚やロッカーなど様々なものが壁に沿って置いてある。
「一人は医務室」
「怪我ですか?」
「いや保健医だよ」
成る程と水野は頷く。
「怪我をした時は行くといい。あと一人は出張中でもう一人は社長室」
「社長室?!」
水野は驚いて声を上げる。
「社長はヒロさんじゃないの?!」
初めから社長はヒロだと思っていた。
そう言いたそうな水野にヒロは苦笑する。
「諸事情でね」
ヒロはそう言うと課長クラスのデスクに向かって行き資料を一つ手に取る。
「今日の仕事はこれだよ」
手に取った資料を水野に渡す。
”妊婦猟奇殺人事件”
そのタイトルに水野は顔を歪ます。
「また、殺人事件ですか」
「周りが知らないだけで割と日本も殺人事件が多いからね」
「これは警察とかに情報提供の仕事ですか?」
資料を手で叩きながら聞く。
「いや?そんなものじゃないよ」
まぁ続きを見たまえとヒロは資料を読むことを進める。
妊婦猟奇殺人事件
被害者は二十二歳の女性。旦那のネクタイで絞殺されており、腹部から胎児が取り出されていた。腹部には胎児の代わりに女性自身の腸や動物の腸が詰め込まれ、子宮は外に出されていた。
第一発見者は旦那と旦那の同僚であり、その日は事前に妻に家で飲み会をしたいと言ってあったらしい。
旦那と同僚にはアリバイがあり、犯行現場付近で目撃者情報を集めてもこれといった決め手はなし。不審者情報が相次いでいたため外部犯である可能性が高い。
警察は事件を解決することが出来ず未解決事件となる。
「未解決事件ですか」
今更、事件を蒸し返してどうするつもりなんだろうか。
「君の事件の前にね旦那さんの遺言に犯人に復讐したかったと書いてあったらしいんだ」
「らしいって、本人がここに来て言ったんじゃなかったんですか?」
「旦那のお子さんがここに来たんだよ」
水野は目を開く。
「お子さん死んだんじゃ・・・」
「事件の方はね。事件の五年後に再婚してその二年後にお子さんが生まれたそうだよ」
そのお子さんからお父さんの願いを叶えて欲しいと言われたわけだ。
「これはどうするんですか?」
「どうするって何を?」
「復讐を果たすんですか?」
ヒロは水野の目をまっすぐに見る。
「君はどうしたい?」
水野は口を結ぶ。復讐の気持ちは痛いほどわかる。愛していた奥さんとお子さんが殺されていたらそうなる。
しかし、復讐したい人はもう死んでいる。依頼人であるお子さんは復讐したいのではなく、お父さんの願いを叶えたいだけだ。
「わからないなら行っておいで、犯人の調査に」ヒロは水野に言う。
「犯人がどんな人かわかってからでも遅くない」
「残念ながら私は君と一緒に今回は行けないが助っ人を読んである」
もう用意は済んであるからと水野の背中を押してドアの方に向かわせる。
「横浜に行きな。出張中のもう一人の事務員が手伝ってくれる手筈になっているから」
手を振って見送るヒロが案外投げやりなんだと思った。
ヒロが見送ってくれる中、復讐の意味を考えざる負えなかった。
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