第7話 レイラ・ガーランド 6
◆
side レイラ・ガーランド
(ありえないわ・・・)
ジールに顕在化を教える為、苦肉の策としてアルマ結晶を用いた方法を提案したものの、正直に言えば、自らのアルマエナジー量の正確な把握も出来なければ、そこから先の制御など不可能だろうと考えていました。
精密な制御が出来なければ、具現化はもとより顕在化さえ厳しいというのが、これまでアルマエナジーを利用してきた人類の歴史が証明しています。しかし、ジールはその常識を事も無げに打ち破り、あろうことか内包する大量のエナジーを逆手にとって、ゴリ押しで顕在化してみせました。
その顕在化は身に纏うどころか垂れ流しの状態で、常人であれば数分で昏倒してしまうほどの量が絶え間なく放出されています。しかし彼は、全く疲れを見せないどころかピンピンしている様子。その直前に10人のクルセイダーが、1日掛かりでようやく貯められる量のアルマエナジーを吸収されているにも関わらず、です。
もし彼が近い将来、その膨大なまでのアルマエナジーの精密な制御を成し得てしまったとしたら、一体どんな存在になってしまうのか、背中を嫌な汗が流れていくような気がしました。
(これほどの逸材、人族はどう扱おうと考えているのかしら?でも、最初に彼に出会った時にはむしろ、つま弾きにされていた・・・人族に対して、彼に鍛練を付ける許可をもらう時にも全く抵抗されることなく、ご自由にどうぞという感触だったわ。つまり、人族はまだ彼の可能性に気付いていない?それなら・・・)
この先、例え彼が具現化が叶わずとも、あの容量のアルマ結晶を一人で難なく満たすことが出来るのです。その需要は計り知れないどころか、国家のエネルギー問題をも解決してしまいそうな可能性すらあります。他種族を引き込むのはかなり難しいですが、検討する価値は十分にありそうだと、頭の中に幾通りもの想定を描きました。
(潜在的な才能もですが、ジールが男性で可愛らしい外見をしているという点も評価が高いですわ。人族が彼の価値に気づく前に、まずは最低限、
さすがに他種族の人間を、
「顕在化おめでとう、ジール」
「あ、ありがとうございます、レイラ様!こうして顕在化できたのは、レイラ様が僕の鍛練にお付き合いくださったお陰です!アルマ結晶までお貸しいただき、本当に感謝してもしきれません・・・」
「いえ、
「そんな事ない・・です。少し前まで母さんからも、教えてもらっているクルセイダーの方からも、いくら量があっても使いこなすだけの才能がないから諦めろと言われてました・・・」
ジールの話に
そんな彼が、こうしてアルマエナジーを顕在化させるまでに至った。以前語っていた力をその手にしつつある彼に対して、今一度未来の事について聞くことにしました。
「そういえば、ジールの目標は選択肢を広げるための力を得ると言う事でしたけど、あなたはどこまでの力を求めるのですか?」
「ど、どこまで・・・ですか?」
彼は
「例えば、一般的な女性に負けないだけの力。例えば、害獣をも圧倒する力。例えば、クルセイダーをも越える力ですわ。今のジールであれば、アルマエナジーを放出し続けていれば、身を守ることは容易く出来るでしょう。それ以上の力を求めるのなら、更なる鍛練が必要でしょうけど・・・ジールはどこまでの力を求めるのですか?」
「僕は・・・」
具体例を出しつつ、再度同じ質問を彼に投げ掛けると、考え込むように俯いてしまいました。しばらくすると彼は顔を上げ、真っ直ぐな眼差しで
「僕は、もっとこの世界の事を知りたいと思います!どこにどんな人達が住んでいて、どんな食べ物があって、どんな文化があるのか。男性として生まれた僕には自由がありませんが、もし叶うなら、世界を見て回ってみたい!」
「世界を見て回る、ですか。つまりジールの夢は、自由にこの大陸を旅したいという事なのですね?」
「不可能な事は分かっていますけど、もし僕が様々な危険を跳ね除けるだけの力を得られたとしたら、そんな事をしてみたいなと・・・」
そう言いながら彼は恥ずかしそうに頬を赤らめ、
(でも、彼が他の国にも行ってみたいと思っているというのは行幸ですわね)
そう考えた
「ジールのその夢、
「レイラ様の夢、ですか?」
「ええ。クルセイダーとなり、国家の代表として決闘に臨み、そして勝利することですわ!」
「さすがレイラ様です!決闘に勝利すれば、多大な恩恵を国にもたらすことが出来ますから、王女殿下として、それほどまでに国の事を思っているのですね!」
尊敬の眼差しを向けてくるジールに向かって、
「ふふふ。そんな崇高なものではないのですよ?より正確に言うならば、国家の代表として決闘に勝利すれば、
「そうなんですか。国家の重責を担っているクルセイダーですから、決闘に勝利したとなれば相応の報奨が出るということなんですね。では、レイラ様の本当の夢とは、その先にあるんでしょうか?」
「あら?そんなに
「あっ、す、すみません!ずかずかと聞くような真似をしてしまって・・・」
好奇心が垣間見える眼差しを向けているジールに対して、
彼の女性恐怖症の程度がどれ程のものかは分かりませんが、全く受け付けないというわけではなく、ある程度交流を深めることが出来れば、こうして友人に対する応対くらいは出来るという確証を得ました。
(本当なら恋心くらい抱かせたいところですが、男性は自分のそういった感情を無闇に出してはならないと教育されているはずですし、まだ12歳の彼ではそのような感情には疎いでしょう)
女性と男性の精神的な成熟度の早さは異なると学んでいる。特に将来の婚姻相手を自由に選べない男性については、幼い頃から恋愛感情を抑制していくような教育をされているはずだ。つまり、今の段階で
「いえ、
「さ、さすがに僕は男性ですので、龍人国の王女殿下であるレイラ様と親しくするというのは・・・」
笑みを浮かべる
「
そう言いながら彼の手を取り、潤んだ瞳を向けると、困惑した表情をしながら目を泳がせ、どうしていいか分からないといった態度を見せてきました。押しに弱いと判断した
「
渾身の上目遣いで彼に迫ると、彼は小さく息を吐き出し、微笑を浮かべた。その瞬間、彼が
「分かりました。僕なんかでよろしければ、レイラ様の友人とさせて下さい」
「まぁ!本当ですか!ありがとうございますジール!国が違い、中々会う機会は少ないかも知れませんが、
彼の返答に
「っ!!レ、レイラ様!?」
困惑した声を浮かべる彼の心臓は、明らかに鼓動が早くなっており、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます