小学生が中二病スキルを習得したので、飛び級してみた

草茅危言

小学生が中二病スキルを習得したので、飛び級してみた

世間では、「中二病」とかいう意味不明な言葉があるらしい。


メディアによる造語のようだが、定義が非常に曖昧である。


このような言葉は、屡々しばしば、悪意のある個人が、

恣意的に運用することによって、揶揄された側は、

気分を害する場合があるので、注意を要する。


以下では、小学校高学年程度の主人公を想定するものとする。


――――――――――――――――――――――――――――――


<俺>は、小学生だ。そろそろ高学年になろうとしている。


近況報告だが、<俺>は、現在進行形でいじめられている。


低学年の頃から学力は上位だったのだが、

運動神経と社交性は乏しく、流行り物には疎い。


きっかけは、<俺>の学力に嫉妬した一部の輩が、<俺>に

暴力を振るってきたこと。いつの間にか、全校生徒が敵に回り、

<俺>を集団リンチするようになりやがった。


掃き溜めみたいな学力劣等の底辺校だから、学力よりも、

暴力の方が偉いらしい。そんな糞みたいな環境なので、

取り敢えず、「久曽小学校」とでも呼んでおくか。


まぁ、<俺>は高学年になった辺りから、

百円均一で買った十徳ナイフで武装しているので、

滅多に暴力を振るってこなくはなってきたが…。


ところで、世間では、メディアが「中二病」とかいう造語を

作ったらしい。アイツら本当に碌なコト考えてねぇな。


そんなある日のこと。テレビばかり見ている同級生達は、

流行り言葉が何だとか、下らない話題ばかり話している。


中学受験しない奴は、よっぽど暇なんかね。

中学受験組の<俺>は、塾でテレビもゲームも禁止されているのに。


流行り物に目ざとい、いじめっ子君達が俺に話しかけてくる。

<俺>には十徳ナイフがあるというのに。この身の程知らずが。


「オ~イ、【中二病】!」


「俺に何か用か?」


「お前、【中二病】だろ?」


「【中二病】とは、何だ?」


そいつらは、非常にご丁寧なことに、【中二病】とは何かを

具体例も交えて、ご教示下さったのだが、さっぱり要領を得ない。

連中曰く、【中二病】とは…


・漢字にカタカナ英語でルビを振る

・ドイツ語の単語を使う

・旧字体を使う


等々、身の丈に合わない学識を振りかざす輩のことだと、

少なくとも連中はそう定義しているらしい。


そういう輩のことは、【衒學げんがく趣味】って言うんだよ、

とこちらも親切に教えてやったのだが、

そういう既に存在する言葉を使おうとはせずに、逆に、


「【中二病】の奴はそういう態度をとるんだぜ。」


と頑なに主張する始末である。これ以上の議論は平行線であり、

不毛なので、そろそろ立ち去ろうと思ったのだが、

連中は【中二病】について説明しようと、

しつこく食い下がってきた。連中曰く、


・黒い服を着ている人

・どちらかというとインドア派

・陰キャ、という根暗で陰気なキャラクター


も【中二病】の疑いがあるという。もう意味不明である。


――――――――――――――――――――――――――――――


先程挙げられた具体例に関して、一つ一つ検証して、反論したい。


まず、「漢字にカタカナ英語でルビを振る」だが、

これは、「漢英読み」とでも呼ぶべきだろう。

「重箱読み」や「湯桶読み」みたいなものだ。


近年、カタカナ英語を振りかざす舶来かぶれが多いようだが、

漢字圏の国としては、逆に可読性を低下させているように

見受けられるので、如何なものかとは思うのだがね。


その点において、「漢英読み」なら、漢字という表意文字が

併記されており、むしろ、分かり易くて良いことではないだろうか。


次に、「ドイツ語の単語を使う」ことが、【中二病】である、

という主張だが、現実の中学校において、外国語教育の

選択肢として、ドイツ語選択が可能な学校が、果たして何校存在する?


戦前の外国語教育は、英語とドイツ語が半々だったようだが、

英語教の信者達が、外国語教育の選択肢を狭めている状況下で、

自らドイツ語を独学している、向上心溢れる中学生がいるのなら、

その足を引っ張る様な態度こそ、如何なものかとは思わないのかね?


続いて、「旧字体を使う」だが、旧字体の廃止は連合国総司令部が、

我が国の国力の弱体化を目論んだ政策であることは明らかである。


昨今、【中二病】は黒歴史だという風潮が強いようだが、

この「黒歴史」という言葉自体、連合国総司令部に強要された、

黒塗りの教科書が由来ではないか。これこそ、まさに

昨今、君達が嫌う「自虐史観」ではないかね?矛盾しているぞ。


それから、「黒い服を着ている人」が【中二病】だって?

もしそれが正しいのなら、葬式に参列している人はどうなるんだい?


「インドア派」?「陰キャ」?それなら、皆が皆、外人みたいに

騒々しく、大仰にはしゃいでいる世の中の方が良いのか?


――――――――――――――――――――――――――――――


大変腹が立ったので、<俺>は、校長室に突撃した。


校長の名前は・・・仮に「壇ノ浦」とでもしておくか。


<俺>は、壇ノ浦校長に直談判する。


「皆が俺のことを【中二病】と呼ぶんです。

つまり、俺は中学二年生相当の学力があるって

ことですよね。なら、今すぐ飛び級させて下さいよ!」


壇ノ浦校長は、笑いながら<俺>に一つの提案をしてきた。


「確かに、戦前には飛び級制度があったが、

現在の義務教育には、飛び級制度は存在しない。

だが、君がどうしてもと言うのなら、

ここに異界の学校のパンフレットがあるのだがね・・・。」


その後、「久曽小学校」で<俺>の姿を見た者はいなかった・・・。

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