【ジャンル不明】坊主が屏風に上手に
昔々あるところに大変絵の上手なお坊さんがいた。
絵の好きな殿様がこの噂を聞きつけ、このお坊さんを呼びつけて屏風に一枚絵を描くように言った。
「どういった画題を御所望ですか」
「そうだな、見る者を圧倒するような力強いものがいい」
それでは、とお坊さんは殿様の前で筆を走らせた。
迷いのない線で描かれたそれは一匹のサメだった。
牙を剥きだし尾ひれをしならせたその姿は今にも動き出しそうであり、見る者に恐怖を感じさせるほどの迫力があった。
殿様は大層喜び、お坊さんに山のような褒美を与えたのだった。
ところが、である。
ある日の晩、お坊さんが山のような褒美を手に入れたと聞いた盗賊の一団がお坊さんの寺に押し入った。
寺の者たちはお坊さんを含めて全て皆殺しにされ、褒美も奪われてしまった。
そのことを知った殿様は激怒した。即刻盗賊どもを探しだして捕まえるよう家来たちに伝えた。
しかし盗賊たちは相当に遠くまで逃げてしまったらしくその行方はようとして知れなかった。
するとそれから数日後の晩のことである。
床に入った殿様は不思議な夢を見た。
あのお坊さんが描いた屏風のサメが、まるで本物のサメのように動いていた。
窮屈そうに屏風の中で暴れていたサメはふとした拍子に屏風から飛び出し、部屋の中を縦横無尽に飛び回っていたが、やがて何かに気付いたように静止してある方向を睨んだかと思うと、そのまま城から飛び出して行った。
サメは町の上空を飛び、いくつもの村や街道を越え、その先にあった山の中腹へ突っ込んでいった。
そこには灯りの点いた山小屋があった。中を覗いてみると、複数の男たちが楽し気に酒盛りをしている。
サメは小屋の周辺をぐるぐると何度か泳いだあと、玄関をぶち破って小屋の中へ押し入った。
突然のことに男たちは唖然としてサメに目をやり、それから悲鳴を上げた。
サメは牙を剥きだしにして手近にいた男に襲い掛かった。
夢はそこで終わり、殿様は目を覚ました。
まさかと思い屏風を見てみると、サメの絵は屏風から消えてなくなっていた。
夢に見た場所へ家来を向かわせてみたところ、そこには確かに山小屋があり、中には無残に喰い千切られた男たちの死骸で酷い有様になっていた。
調べたところその男たちはお坊さんの寺を襲った盗賊団だった。お坊さんに渡した褒美の一部も発見された。
どうやらほとぼりが冷めるまでそこに隠れ住んでいたようだった。
人々は絵に描いたサメがその生みの親の敵討ちをしたのだろう、と語り合ったという。
ちなみにサメの絵は殿様の屏風に戻ってくることはなく、その後の行方は誰も知らない。
目的を果たして消えてしまったのか、はたまた今もどこかの空を泳いでいるのか。
この話が伝えられているその村では、悪いことをした子供に「良い子にしないと夜中にサメが食べに来るぞ」と脅かす習慣が未だに残っている。
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