【コメディ】魔法少女ねこぐるみ
「いっけなーい、遅刻遅刻!」
と、食パンを咥えて学校へ急いでいる途中、私は道端に転がった見慣れぬものに目が留まり足を止めた。
一見するとネコか何かのぬいぐるみのようだが、背中には羽が生えていて、頭の上には天使の輪のようなものがふよふよ浮いている。
そして、微かにだが「うう……」と呻き声を上げ、ピクピク痙攣していた。
「大丈夫?」
私は思わず声を掛けた。
するとぬいぐるみは私を見上げたあと、周囲を見回し、再び私を見た。
「我が見えるのか」
「え? ええ」
「おお、これぞまさしく天の助け!」
ぬいぐるみは元気よく起き上がり、ずいっと私に顔を近づけた。「我は天使グルミエル。頼む、手伝ってくれ! 我が見えるならお主には素質がある」
私は勢いに気圧されながら、
「手伝うって、何を?」
「あれを倒すのだ」
ぬいぐるみが指したほうへ目を向けると、空に何か黒いものが浮かんでいる。
目を凝らしてよく見ると、頭がヤギ、上半身が人間、下半身がまたヤギ。コテコテの悪魔みたいな奴だった。周囲には邪悪っぽい黒オーラを漂わせている。そのせいで黒く見えたようだ。
「あれは悪魔だ」
「あ、本当に悪魔なのね」
「遥かな昔、この地に封印されていたのが何かの拍子に目覚めてしまったのだ。奴を野放しにしておけば人類は滅ぶ。奴をどうにかできるのは我や奴を認識できるお主だけじゃ」
私は食パン片手に悪魔との距離を測りながら、
「あれを倒せばいいの?」
「そうだ。だが恐れることはない。我が其方に戦うための力を貸そう。其方は今から魔法少女ネコグルミとして生まれ変わるのだ! さあ、今から私が教える変身の呪文を詠唱して――」
「食パンブーメラン」
「え?」
ぬいぐるみが何か言っていたが、私は構わず悪魔へ向けて食パンをフリスビーの要領で投げつけた。
悪魔の首がスパーンと撥ね飛び、残った胴体が真っ逆さまに落ちていく。
私は戻ってきた食パンをキャッチしながら、
「これでいいのかしら」
ぬいぐるみは口をぱくぱくさせて、
「あ、あの悪魔が一撃で……? 信じられん、其方は一体何者なのだ」
「私んち忍者の家系で、代々妖怪退治してるの。この食パンは食パン型の退魔手裏剣。曲がり角でよく妖怪に不意打ちされるから護身用に常備してるのよ」
そう説明していると学校のチャイムが聞こえてきた。
始業開始のチャイムである。
私は顔色を変えた。
「いけない、急がなきゃ! それじゃあなたも気を付けて帰りなさいね」
唖然とした顔のぬいぐるみを残し私は全力で駆け出したのだった。
魔法少女ねこぐるみ、完。
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