【パロディ】カップ麺の恩返し

 ある日の夜、玄関先で物音がしたので開けてみると、カップ麺が一つ置いてあった。

『お召し上がりください』

と、メモが貼られている。

 一体誰が置いたのだろう? 私は首を傾げたが、ビニールの包装もされているし、別段おかしな所もない普通のカップ麺のようだった。

 少しの間悩んでみたものの、小腹も空いていたし丁度良いか、と私はあまり深く考えずそれを手に台所へ向かった。お湯を沸かし、それを食べようと蓋に手をかけた。

 その時、そのカップ麺に妙な注意書きがあることに気付いた。


『お湯を注いだ後の三分間、決して中を覗いてはいけません』


「………」

 いや、誰も覗かないだろ。

 不思議に思いながらも蓋を開けて湯を注ぎ、重しがわりに箸を置く。すると間もなく、容器の中から妙な音が聞こえてきた。ドタン、バタン。ザッ、ザッ……叩きつけたり引きずったり、まるで麺を打っているような音だった。

 注意書きのことを忘れていたわけではなかった。しかしこれは余りに気になり過ぎる。

 迷った挙句、私は誘惑に負けてとうとう蓋を開けてしまった。

 中には小麦の穂が一本入っていた。自分の身を刻んで麺を打っていた。しかしこちらに気づくと悲しげな顔をして、

「ああ、見てしまったのですね。私は以前あなたに雀から助けられた小麦です。今回はその時の御恩を返すためにここへ来たのです。しかし正体がばれてしまってはもうここにはいられません。お別れです」

 小麦の穂はそういうと玄関から帰って行った。

 後にはお湯の入った容器と虚しさだけが残された。

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