第20話
「だからっ。詳しい説明をしろと言ってるんだっ。いい加減に諦めろ!! シリル!!」
バシバシテーブルを叩くオーギュストに俺はうんざりと顔を背ける。
ランドルフがいるときは、ちょっと状況を忘れてたっていうか、元凶が出てきたせいで、冷静さがどっかにぶっ飛んで、つい言ってはいけないことまで口にしていた。
例えば……俺が女になる、とか。
なりたくない、とか。
普通に考えりゃ正気か? こいつって思うよな。
でも、ランドルフが存在していて、呪いがどうの神がどうのと言っていたあの状況で、俺の正気を疑うほどオーギュストも常識知らずじゃなくて。
結果どういうことなんだと問い詰められるハメになるわけで。
俺としてはこいつどうにかしてくれよ、の世界なのだった。
さっきから堂々巡りを繰り返していたオーギュストは眉をつり上げて俺を睨む。
うわー。
本気で怒ってるよ、こいつ。
だれかどうにかしてくれ。
「じゃあおれから言ってやろうか? おまえ……女になれるんだろう?」
「殴るぞ、テメー」
思わず座っていた椅子から立ち上がり、オーギュストを睨み付けていた。
なんだか今の言い方って俺が進んで女になってるみたいじゃないか。
冗談じゃねーっ!!
「もっとはっきり言えばノエルはおまえなんだろう?」
今度は言葉を飲み込むしかなかった。
なんか退路をすっぱり絶たれた感じ。
どう言い逃れりゃいいんだか。
「おまえとノエルは恋人同士なんかじゃない。同一人物だ。その証拠におまえが暮らしていたあのアパートで、ノエルと一緒にいるところは確認されてない。おれがこれまでなにも調べずにいると思ったか? 残念だったな。証拠は揃ってる」
確かに俺が発見されてから、全く調べられてないとは思わなかった。
でも、心のどこかで天敵だと思ってるオーギュストは、俺のことなんて大して気にしないから、こいつが調べることはないだろうと思っていたのも事実で。
証拠を揃えるところまで徹底して調べるとは思っていなかった俺は、ジトリとオーギュストを睨んだ。
「……兄貴に命令されたのか? いや。それはないか」
もしそうだったら兄貴はあんなに苛立って俺の秘密を暴こうとしなかったはずだ。
兄貴はなにも知らなかった。
つまりこいつの独断。
「おれをバカにするのも程々にしてろ」
きつい眼で睨まれて俺は黙り込むしかなかった。
なんで怒ってるんだ? こいつ?
「なんでもかんでもサイラスの命令に従うと思ったら大間違いだ」
「でも」
「おまえのことを調べたのはおれの意思だ。サイラスは関係ない」
さっぱり言われて言い返すべき言葉を失った。
オーギュストがよくわからない。
どうしてこんな憤った眼で俺を見るんだ?
「どうしてもおれには事情を言わない気か? おれも当事者のひとりだとしても?」
確かに……ランドルフはそんなことを言っていた。
俺を生かすも殺すもオーギュスト次第と。
それは俺の運命においてオーギュストも当事者であることを意味する。
だから、本当は打ち明けるべきだってわかってるんだけど、俺は何故だか気が進まない。
だっておまえ……俺じゃなくノエルを見るだろう?
おまえの目にノエルである俺はどう映る?
兄貴みたいにひとりの男に変わるのか?
シリルじゃない俺にはノエルには、皆今までみたいには接してくれないのか?
「シリル。おまえなにを恐れてる? おれがおまえの秘密を知ったくらいで変わると本気で思ってるのか? だとしたら自惚れてるぞ」
「……え?」
なにが言いたいのかわからない。
そんな俺にオーギュストは苦い顔で事実を突き付けた。
気付いていなかった事実を。
「確かにノエルは絶世の美少女だと思う。ノエルがおまえだとして、サイラスがそれを知っているとして、そんなおまえを見てサイラスが男としてノエルを求める気持ちも理解できないわけじゃない」
やっぱり変わるんじゃないか。
ノエルの前では皆「雄」になる。
俺なんて。
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