12話「気合いの肩揉み」
「そろそろお昼ごはんを作ろうかと思うけど、大丈夫かな?」
「うん。キリのいいところで一旦休憩するわ」
俺が芽衣にそう答えると、彼女はキッチンでお昼ごはんの準備を始めた。
すでに当たり前のようになりつつあるこの流れに感謝をしつつ、ある程度のところで一旦テスト勉強を中断した。
「昨日も感じてたけど、本当によく勉強するね」
「留年したら、学費を無駄に払うことになるし、奨学金止まるからな……」
「大学生って、講義と簡単なテストがあって、それ以外はみんな遊んでるってイメージあったけど、ぜんぜん違うんだね」
「まぁ、学部によるんじゃないかな」
「なるほどね」
大学生活といえば、自由であることや飲み会やサークルなどがピックアップされるので、芽衣からすれば、そういうイメージを抱いてもおかしくない。
「テストいつからなの?」
「次の水曜日からだな。日曜は休みで、その次の水曜日まである」
「え、そんなにテスト期間長いの!?」
「その代わり、一日につきテスト一つだけどな。高校までみたいに一日に複数科目のテストって感じじゃないからね」
「そうなのか〜。長いけど一日一個ずつやっていくのと、早く終わるけど一日にたくさんやるのと、どっちがいいんだろ」
「やってみた感じ、どっちも良いところと悪いところあるな〜」
高校までの日程なら、早くプレッシャーから開放されるし、大学のテスト形式なら、一日ずつ一つの科目に集中は出来る。
この辺りは、人の好みが分かれそうだが。
「ま、私は勉強嫌いだから、考えたくもないけどね〜」
「もう仕事ちゃんとしてるもんな。全然問題ないと思う」
「高校までは、散々バカっていっつも言ってたくせに!」
「こうやって過去を振り返ると、常々俺って嫌な奴だな」
幼馴染とはいえ、普通に悪口を言っているだけの嫌な奴でしかない。
「あら、過去を振り返ることが出来るようになるなんて、成長したねぇ」
「なんか一人で居たら、こういうことを考えるようになってきてる」
「……大丈夫? 実は病んでたりする?」
「え?」
割と心配そうな顔でこっちを見られてしまった。
そんなにまずい発言をしただろうか。
そんな話をしていると、芽衣の作ったお昼ごはんがテーブルに並んだ。
「寒いから、親子うどんを作りました!」
「親子丼のうどんバージョンか、旨そう」
卵と鶏肉を使って、とろみのある出汁にうどんを入れた料理。
1月の寒い時期には、ありがたい料理だった。
間違いなく俺なら、温かいうどんなら普通のかけうどんしか作らない。
食べてみると、言うまでもなく旨い。
どんどん食べ進める手は止まらず、あっという間に食べ終えた。
「「ごちそうさまでした」」
食べ終わると、二人で分担して片付けを行った。
芽衣が片付けもすると言ってくれたのだが、流石に何でもやってもらいすぎているので、せめて片付けは……と言ったら、このような形になった。
「さて、続きをやらないと……」
「うん。大変だろうけど、頑張って」
お昼を終えて、再び勉強を再開。
今日やる予定にしている範囲を、また少しずつ進めていく。
数時間後。
「あ〜〜やっと終わった」
「お疲れ様ー!」
ようやく今日予定していた分の勉強を終えた。
計画を立てているときは、「これぐらいはいけるだろう」と簡単に考えていたが、見通しが甘かった。
だが、何とか終わらせることが出来た。
「うー……。肩凝った」
長時間に渡る勉強で、肩がガチガチになっている。
元々姿勢も悪いので、その状態を長時間続けたことがまずかったようだ。
首を回したり、腕をグルグルと回してみたが、もちろん何の効果もない。
「肩凝ったの?」
「うん。姿勢が悪いからか、こうやってなにかやるとすぐに肩が凝るんだよな……」
「ふむ、そうか……」
対処方法としては、風呂に入ってゆっくりと凝りをほぐすぐらいしか方法はない。
症状が悪化すると、頭が痛くなったりするが、試験期間を乗り切るまでの我慢。
「よし。頑張ったご褒美として、肩を揉んであげよう」
そんなことを思っていると、芽衣がそんなことを言いながら、肩を掴んできた。
ぐいっと、凝った部分に芽衣の親指が入ってきた。
「うっわ、本当にガチガチだね。石でも入ってるのかと思うぐらいなんだけど。これ、骨じゃないよね?」
「骨じゃないぞ」
「こんなに肩凝ってたら、具合悪くなるでしょ」
「頭はよく痛くなるな」
「ほらやっぱり。試験前に具合悪くなってどうするのよっ!」
芽衣は、俺に体調管理が出来ていないことを叱責しながら、その勢いを込めて肩を揉んでくれている。
何気に人に肩を揉んでもらうという経験はまだ無かった。
年を取って自分に子供などがいれば、やってもらう機会もあるのかもしれないが、この年ではなかなか経験することは無いと思う。
「くぅー! 固すぎて、全然通用しないんだけどー! もっと力を込めるか……!」
「む、無理するな。明日から仕事なのに、肩揉みで無駄に力を使って筋肉痛やらになっても困る」
「いや、ここは引き下がれないね! 進級のかかった大事な時期に、こんな状態になっているのは見過ごせん! 大人しく肩揉みの恩恵を受けるがいい!」
芽衣は引き下がることなく、凝り固まった俺の肩との対峙を続けた。
段々と押し込む力が伝わってきて、心地よさを感じるようになってきた。
ただ、力を込める時に発している芽衣の唸り声が、ひたすらに聞こえてくる。
最初は、申し訳なさと感謝の気持ちでいっぱいだったが、段々と面白くなってきてしまった。
「な、何笑ってるのさ!」
「いや。もうどっちが具合悪いのか、唸り声を聞いてたら、よく分からんくなってきた」
「う、唸り声……。そんなに声、やばい?」
「なんか高熱で唸ってる人みたい」
「し、失敬な! こうして頑張って労ってあげているというのに!」
「ごめん。でも、本当に効いてる。ありがとう」
「うん」
しばらく芽衣の唸り声入り肩揉みは続いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます