埋葬された日記

あーく

埋葬された日記

「やっと着いたか」


 私はある研究所を訪れていた。


 建物一つ見つからない荒地。砂嵐の中、防護服に身を包み、研究所の中へ入る。


 ヘルメット越しの景色は凄惨なものだった。朽ちた天井。穴の空いた壁。足元は屋内と屋外の区別がつかないほどだった。


「これは骨が折れるぞ」


 私は研究所の隅々まで調べた。ここにもしかしたら手がかりが見つかるかもしれない。


 ここに、人類が半減した理由が――


「――これは?」


 ロッカーの中に隠すように手帳が入れられていた。鍵がかかっていたようだが、風化していたので開けるのが容易だった。


 手を伸ばして手帳を手に取り、砂を払う。中を見てみると、まだ読めるようだった。


「――これだ」


 中にはこう書かれていた。


『10/5 人工的にウィルスを造ることに成功した。マウスに感染させると、99%の確率で死亡を確認。今まで何度も挫折しかけたが、私たちの努力は報われたのだ。神は存在したのだ。これを軍に売れば、さらなる研究費が貰えるだろう。』


 どうやら研究員が書いた日記のようだった。


 続きを読んだ。


『10/19 誰かが人工ウィルスに感染したとの噂を聞いた。あのウィルスは感染力が強く、隔離しないと治療が臨めないほどだ。噂が本当かどうかわからないが、もしもの時のために記録しておこう。』


 さらにページをめくる。


『10/26 やはり感染したのは――だった。すぐに隔離し、治療を――。しかし――はすでに――だろう。』


 ところどころ読めない部分があった。


『11/28 とうとうウィルスが外に漏れ出した。人類はもうおしまいだ。私ももう長くはないだろう。アンジェラ、コニー。愛してる。』


 日記はここで途切れていた。


 これは大発見だ。もしこの日記が世間一般に公表されれば、この研究機関は責任を問われることになるだろう。


 そして、その研究機関を支援した国も無事では済まされないだろう。人類を半数まで減らした罪は重い。


 この日記は大事に持って帰ることにしよう。




 翌日、日記を焼却炉の中に放り込んだ。


 それにしても、誰にも見つからずに済んでよかった。まだ研究を続けていたいからね。

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埋葬された日記 あーく @arcsin1203

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