第27話

主に姫様の旦那様目線


我が父の領地から半刻の場所(約1時間)

小さな古いお寺。

「少女5人と、檻に入れられていた

男を無事に保護しました。」

「身元は?」

「今、調べ中ですが少女たちに関しては

男どもに乱暴されたのか、ひどく

怯えているのでまだ話が出来ぬ状態です。」

「……そうか。」

「……。」

「おりんの様子は?」

今回の事はおかしな事ばかりだった。

姫様の旦那様は考えていた。

我が妻の代わりにさらわれたのか?

年背恰好もほぼ同じ。

大殿は、我が妻の身代わり…影武者を

させるためにおりんや他の侍女たちを

付けたのか。

今回は年が近く若い侍女ばかりで

これは偶然なのか?

あと、さらわれ乱暴されたおりん。

助け出した時には、目隠しをするかの様に

かけられた赤襦袢(あかじゅばん)。

おりんの周りには放物線状に

ほぼ一太刀で死に絶えていた男たち。

仲間割れのケンカにしてはおかしな死に方だった。

あたりを埋め尽くすかのように

流れ出た血と、男どもの身体の

生温かさから、我々が到着するまで

さほど時間はかかっていないと思えた。

捕らえられていた女子(おなご)たちは

いずれ、売るつもりだったのか?

あの檻の男の指には独特のタコがあり

かなり衰弱していたが、我が領地の

紋や、他国の紋が多量に洞窟のスミから

出てきた。…まさしく偽造。

しかも、なかなかの技術、殺すには惜しい。

1人くらい半殺しにしといて欲しかった

と今なら言えるかもしれない。


それにしても薄暗い洞窟の中の

壮絶な光景と血の匂いに、

足を踏み入れるのを一瞬

躊躇(ためら)ってしまったというのに

小助はザッと見回したあと、おりん

だけを一直線に助けに行ったのだ。

    **

「りん!!!」

小助の後ろ姿は震えていた。

「……こ、こ…っ。」

何かを話していたが声はあまり

聞こえなかった。

「りん!!」

小助の声が何故か響(ひび)いていた。

「組み……ひっ、ひっ。」

すすり泣く声。

「よく、頑張ったな。もう大丈夫だ。」

小助の声を聞きながら、他の者たちに

指示をし洞窟内を調べた。


「りん、帰ろう。もう怖くないとこに

俺が連れて行ってやるよ。」

「……。」

「お姫様抱っこか、おんぶどちらがいい?

先着一名様限定だぜ!!」

「……小助。」


いつのまにか日が差し込む洞窟に

小助の着物を着たおりんが、裸の

小助におんぶされた姿が目に入った。

2人の邪魔はしたくなかったが

この2人がこのまま消えてしまいそうに

思えたので慌てて声をかけてしまった。

「こ、小助!おりんと一緒に我が妻に

顔を見せてやってくれ!!」

逆光で小助の表情はわからなかった。

この男は、もしかしたら……。

「……。」

無言だったか、声が小さかったのかは

今、思い出したところでわからないが

小助は、あの時頷いた気がした。

「小助、これも羽織っとけ、外には

生娘たちがいるからな、目に毒だよ。」

なぜか不安だった。

この私としたところが、この2人に

どんな言葉をかけていいのか

わからなかった。せめてもと

小助とおりんに自ら歩み寄った。

何も言わない小助に、小助より

一回り大きい自分の羽織り……。

着ていた私の羽織りを負ぶっている

おりんごと包み込む様に被せ、

小助の前で紐を結んだのだった。

幼さが残る、傷付いた表情……。

思い出の幼い、あの子とダブった。

やはり…小助は……。


頭を下げ皆が集まっていた方へ

歩く姿を見て、なぜかホッとしたのだった。

それからは数刻潰してしまったが

死体を改める者たちに任せて

婚礼の行列を続けたのだった。


    ***


「おめでとうございます。」

「婚礼、おめでとうございます!!」

我が父の領地に差し掛かった。

数刻遅れだったが休憩しようと

予定していた村に到着した。

本来なら午前中にこの村をたち

次の休憩場に行く予定だった。

「おりんと小助の様子はどうだ?」

小助自らおりんの着物を着替えさせた後

自分の着物も整え、私の羽織りを

お礼の言葉と共に返してきた。小助は

おりんを誰にも触らせようとしなかった。

気を失うように眠ったおりんを

ずっとお姫様抱っこしながら、

移動していた。

「お主らは目立っているから、ほれ

妾(わらわ)の駕籠(かご)に乗れ。」

表情はなく静かな声で小助は答えた。

「ご好意感謝します。ですが、申し訳

ございません。こうしていたいので

このままでお願いします。」

「……そうか。」

その後は、放って置けなかった

捕らわられていた少女5人と共に

おりんをお姫様抱っこした小助の

両脇に侍女と護衛を配置しながら

行列を行なっていた。

側から見れば、顔は日除けで隠した

おりんが姫様の様に見えたかも知れなかった。


村の古民家を一時期、貸し切りにした。

姫様の旦那様、姫様、小助とおりん。

数人の侍女たちと護衛たちは

まだ、眠っているおりんを気にしていた。

「……て。」

「!!!」

「……やっ!……こわい、いや!」

「おりん?!!」

「……めて!小助…助けて!」

「りん、すまない。また、遅れた、

すまない!俺はここにいる。

小助はおまえのそばにいるぞ!!」

「……。」

誰かの息を飲み込む音がした。

自分なのか、それとも別の者なのかは

わからない。

昼間なのに薄暗い山あいにある村。

そう広くない古民家の一室。

うなされていたおりんに、小助は

ぎゅっと抱きしめ、幼な子をあやす様に

背中をトントンしていた。

りんはうなされながら泣いていた。

「りん、守ってやるから……。俺の前から

消えるな。守ってやる。」

小助の表情は、誰もわからなかった。

小助は小さく震えてる気がした。

(俺はお前をまた……。大事なおまえを

守りきれないことが怖いんだ。

大切だけど、お前はだれを…

この先…好きになるんだ?

俺なら嬉しいが、他を愛するなら

その時、俺は壊れてしまいそうだ。

俺を産んだ女のように、壊れるのか?)

いつしかりんの呼吸が整った後も

小助は、りんを手放さなかった。


昼は村人たちの好意で、食事を

提供してくれたので我が妻も村人たちに

感謝を込め礼を述べたのだった。

いつの間にか村人に混じりながら

分け隔てなく話しかけ、村の子を

抱っこしたり遊んであげている姿に

見惚れてしまった。

村の者は、そんな我が妻に一晩

泊まるように進めてきた。

次の予定地は、泊まれないこともないが……。

おりんと小助、あと捕らわれていた

者たちを休ませる為に、この村で

泊まることにしたのだった。


夕刻前。

「……おりん!!」

目が覚めたおりんに、小助は涙を

流しながら抱きしめていた。

「………あっ。」

小助に抱きつかれながらも、りんは

周りを見渡した。

「ここは?」

領地に入った事、助け出された事、

簡単に説明されたりん。


「お腹すいた。ご飯作らなきゃね。

それにしても、小助兄さんは泣くほど

お腹すいたの?急いでつくるから

もう、泣き止んでね。」

「バカ…!」

「小助兄さんの妹、おりんは

ちょー天才なのよ。」

「ふっ、食べ物に関してだけな

おまえはちょー天才だよ。

俺のりんは、なっ!!」

「もぉ!!小助兄さんのくせに、可愛くない。」

「バカ!俺は男だから可愛くないのは

当たり前だ、バカりん!!」


一通りのやりとりのあと、あと1日で

城に着く事を知ったおりんらは

ここに来るまで、摘んでいた野草や

山菜を使い、炊き込みご飯や

具だくさんのお味噌汁を村人たちにも

ふるまったのだった。


「……まり姫様。」

姫様の旦那様の近くにいた年老いた

村長の呟きは、旦那様の心に

ズッシリと残ったのだった。

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