星空のヒミツ☆

卯月

風さそう 月下の夜桜 オッサンJK

 夜の9時すぎ。

 女子高生畑山はたやまそらはバイトで疲れた身体を公園で休めていた。

 おりしも季節ははる爛漫らんまん

 近所の公園も桜がちょうど満開である。


 そらは自動販売機でホットの緑茶を買い、ベンチに座って夜桜を見上げた。


「キレーだなー」


 うっとりとした表情でつぶやく。


 空いっぱいに広がる桜の花。

 すき間からのぞく銀の月。

 それを見上げる美少女(誇張表現)。


 うん、完璧な光景だ。誰がなんと言おうと完璧なのだ。


 彼女はペットボトルの緑茶をグビっと飲んだ。


「かーっ! この一杯のために生きてるわー!!」


 オッサンくさいセリフをはくそら

 ちなみに制服姿でガニマタである。フレアースカートでガニマタである。

 ……やっぱり完璧な光景では、なかった。


 グビッグビッグビッーー。


 仕事終わりでノドがかわいていた。

 豪快に数百ミリリットルを飲み込んで、ブハーっと一息。

 人体構造的な意味で、自然と視線が下に落ちた。


「あれっ?」


 暗い地面になにか光るものが落ちている。

 まん丸い宝石のような物体だ。

 直径およそ五センチメートル。

 水晶玉っぽいフインキ(なぜか変換できない)。


「キレイ……」


 拾い上げてみると、中で星空のようなものがキラキラと輝いている。


「うわあ……」


 見つめているとなんだか心が吸いこまれていくような感じがした。


「手のひらサイズの星空、っていうか宇宙?

 なんなんだろコレ」


 次の瞬間、脳裏に謎の光景が浮かび上がった。


『こちらコードネーム「アステル」。

 これより太陽系第三惑星、通称「地球」への降下を開始する』


「は? ええっ?」


『担当地域は極東アジア「日本国」、目的は地球生物の調査』


「な、なんじゃこりゃー!?」


 そらおどろきのあまりひっくり返りそうになった。

 脳内にハリウッド映画みたいな光景が自動再生されている。


 宇宙人の女性が仕事でこの地球にやって来た。

 仕事内容は地球の生態調査。

 特にもっとも高い知能をもつ生物、人間の調査は最重要項目だった。


 宇宙人「アステル」はまず宇宙空間から念入りに地球上での出来事を記録しつづけた。

 そして次の段階として地上へやって来て、しれーっと日本人のフリをして日常生活の中に溶け込んでいたのだ、それも現在進行形で!


 この不思議な宝石は彼女の記録媒体、つまり日記帳みたいなものだ。

 なんでこんな場所に落ちていたのか知らないが、きっとうっかり落としてしまったのだろう。


 そらの脳内にものすごい高スピードで大量の情報が送り込まれていく。

 宇宙人「アステル」はすっかり日本での生活になじみ、仕事、趣味、恋愛、結婚、さらには出産まで体験していた。


「えっ!? なにこれ、えっどういうこと!?」


 どんどんどんどん情報が脳内に送り込まれてくる。

 だが途中から驚きの方向性がちがってきた。


 これらの情報を、そらすでに知っていた・・・・・・・・


「アステル」は日本人男性と出会い、恋に落ち、結婚し、そして一人の女の子をさずかった。

 その女の子の名は……


 そらは全力で我が家にむかって走り出した。


「どっ、どっ、どういうことよこれはあああああ!?」



∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞



「はあっ、はあっ、はあっ……」


 大きく息を切らせながら帰宅した娘を見て、母・星子せいこは目を丸くして駆け寄ってきた。


「どうしたのよあんた、何か怖い目にでもあったの!?」


 そらは制服のそででグイっと汗をぬぐい、けわしい表情で口をひらいた。


「あった……、よ……!」


 そして公園でひろった宝石を母の眼前に突き出す。


「星子じゃないじゃん、アステルじゃんアンタ!」

そら、あんた……」


 突き出された宝石、あるいは記録媒体に手をのばす母。


「ビックリしたわ、どこにあったのそれ。

 お母さん探していたのよ」


 しかしそらはサッと手を引っ込めた。


「なんであたしだけ知らなかったわけ!?」


 この小さな水晶玉が色々と教えてくれた。

 父ももちろん母が宇宙人だったことを知っている。

 あと数人、母には地球人の友人がいて、その人たちも知っていた。

 どうして自分だけ何も知らされていなかったのか。

 それがそらには許せない。


「だって普通は説明なんてする必要のないことだから……」


 聖子と呼ぶべきかアステルと呼ぶべきか、とにかくそらの母は困り顔で娘を見る。

 まるでそらのほうが悪いことをしたかのようだ。


「普通は『全然能力がない』か、『何も言わなくても全部分かってる』のどちらかなのよ。

 あんた今まで全然そんな気配がなかったから言ったってしょうがなかったの。

 でも『これ』が使えたっていうことはあんたも『覚醒』しかけているのね。

 まだ寝ぼけているのよ今日の朝みたいに」

「あ、朝の事はもういいじゃん! それよりお母さんの事!

 ちゃんと説明してよ!」


「звездаそれが私の本当の名前よ」


「……は?」


 なに言ったのか全然分からなかった。


「『星』って意味の言葉。

 アステルもそう、星子だってそうよ。

 あんたが思っているほど大したうそなんてついちゃいないんだからね」


 母はそんなことを言ってスタスタと台所へ歩きはじめてしまった。


「えっちょっとそんだけ!? もっと色々あんでしょ!?」

「あとはちゃんと『宇宙の意志コズミック・ウィル』に覚醒してからね」

「コ、コズミック……なに?」


 母が笑いながらクルリとふり返る。

 その顔を見てそらはギョッと立ち止まった。

 左右の瞳が緑色に光っている。


「今言ってもしょうがないから言わなーい」

「えー、お、お母さ~ん」


 それ以上母は何も言ってくれなかった。

 地球の外には宇宙人がいて、しかも自分の母親がその宇宙人だった。

 いま分かっているのはそれだけ。


 ……母親の日記を偶然読んだら、人生がSFになっちゃった。

 他人のヒミツを知るのって、怖い。

 

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星空のヒミツ☆ 卯月 @hirouzu3889

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