第145話 夏希達の狩り
獣人村の宴を心から楽しんだ夏希。
翌日の朝。夏希達はダイニングのテーブルで簡単な朝食を食べてお茶を飲んでいる。
「今日の予定だが森の奥に狩りに出掛ける。昨日の宴でアイテムボックスの中には溢れんばかりの野菜しか残っていない。俺達には高タンパク質が必要だ。それとチャージ金もな」
「昨日は楽しかったのじゃ。少し眠たいがビールか無いと悲しいから頑張るのじゃ!」
(1番大切なのはビールなのね)
「判った 狩りまくる」
「では出発前に少しだけ説明するぞ。まずネットスキルの換金ではギルドのような報償金は無い。素材の換金のみだ。だから肉が食べられないゴブリンは銀貨2枚にしかならない」
「ゴブリンは安いから無視じゃな。オークは肉が美味しいから高く換金出来るのか?」
夏希は待ってましたとニヤリと笑う。
「そう!今日の狙いはオークだ。あれは1頭で金貨4枚になる。ゴブリンの次に遭遇率も高いから狙い目だ。食材確保も出来るしな。
因みにあの森の奥で遭遇する魔物は、マッドウルフが金貨2枚、オーガが金貨10枚、トロールが金貨15枚だ。
前回は大蛇が縄張りを仕切っていたから、あまり他の魔物は居なかった。だが今は判らないんだ」
「ワレは鶏肉も食べたいから野鳥も狙うぞ。ワイバーンが出てくればいいのじゃがな。食べたことは無いが、あれはたぶん旨いのじゃ」
「鶏肉もいいな。よし、それじゃあ出発だ」
夏希達3人はのんびりと歩いて行く。
「長閑でいい村じゃな。魔物も村の近くには居ないようじゃし、いい場所に村を興したな」
「ああ、あの森には守護聖獣が居るらしくてな、遥か昔に獣人村とその守護聖獣が契約したんだそうだ。それが森の最深部に干渉しない事と年に1回野菜を貢ぐ事で、守護聖獣が魔物が森の外に出ないように魔物を対象とした結界を張ってくれてるらしい」
スズランと真冬はその守護聖獣に興味を持ったようだ。(森の最深部に行くなよ。マジで)
「野菜好きの聖獣か。モグラかの?」
「ぶはっ!モグラ聖獣なら見てみたいな」
「たぶん ウサギ」
(それは可愛いいモノが見たいだけだよな)
楽しく話をしていると森の入口に到着した3人。そしてそのまま話ながら森に入って行くのであった。
「バシュッ!」「部屋にカーテンが必要なのじゃ」
「シュパッ!」「朝日が眩しいもんな」
「バチッ!」「ぬいぐるみ 欲しい」
のんびりと話ながら森の奥に進む3人。偶に出てくるゴブリンを抹殺しながら。
そして1時間ほど歩くとオークと遭遇し始める。
「バシュ!」「ほれ夏希、収納じゃ」
「ワレは庭にブランコが欲しいのじゃ」
「シュパッ!」「ほい、収納」
「まだ庭は手付かずだからブランコ作るか」
「バチッ!」「夏希 あげる」
「シルバーの家 必要」
3人の行動は森の入口と変わらない。そして昼御飯の時間になり、夏希が道中で見つけた大岩をアイテムボックスから出し、その上で食べることにした。
「モグモグ、夏希、どれぐらい稼げたのじゃ?」
「うーん、オークが12頭、マッドウルフが2頭で、金貨にすると52枚だ。思ったより少ないな。分散すれば増えるかも知れないが、持ち運びとはぐれたりしたら面倒だからな。前みたいに大蛇が出ればいいんだが」
夏希達はモグモグと昼御飯を食べながら、思ったより少ない討伐数に頭を悩ませるのであった。
その時、眩しかった太陽の光が突然に一瞬だけ遮られ、影に覆われた3人は同時に上を見た。
「「「鶏肉だ!」」」
頭上で旋回していたのはワイバーン。その数は3。
「お、おい、極上鶏肉だ。慎重かつ迅速に処理します。俺は右、スズラン真ん中、真冬は左だ。大事な胸肉とモモ肉にキズを付けるなよ」
3人の意志疎通は完璧だ。各々が自らを囮にしてワイバーンの注意を引き付ける。夏希は仰向け五体投地で誘き寄せ、スズランはお尻ペンペンして挑発し、真冬はカエルスリッパでゲコゲコする。
「来るぞ~、来たぞ~、ほれっ!いてまえ!」
「シュパッ!バシュ!バチバチッ!」
3人の腕前は見事なもので、水刃で首チョンパ、黒玉2つが両目に突入し脳まで貫通、雷で感電死である。
夏希はホクホク顔で落下地点に行き、ワイバーンをアイテムボックスに収納する。
「おい、あの鶏肉凄いぞ!1羽で金貨100枚だぞ。大きさが違うから3羽で309枚になったよ。もうあのワイバーン達には感謝だね!」
「おお!それは凄いのじゃ。ワレは食べたかったが全部換金するのか?」
「いや、1羽は食材として残しとこう。ん?ワイバーンは1頭と数えるのか?まあ、あれは鶏肉だから1羽でいいや。今日夜に食べてみような」
夏希達は残りの昼御飯を美味しく頂いて狩りを続行する。頭上も気にしながら。
それからの狩りはワイバーンが出てくることも無く、大蛇も出てこない普通のお散歩狩りで終わった。
その日の成果は、大きな鶏肉1羽、野鳥23羽、オーク5頭を食材として残りは換金した。そのチャージ金は金貨342枚となり、1人金貨100枚を取分として残りの42枚は晩酌やその他用とする事に決めた夏希達。
我が家に戻った夏希達は汚れた身体を生活魔法のクリーンで綺麗にしてから中に入る。そして、リビングでくつろいでいる。
「これである程度の家具は揃えられるな。1人100万円か……贅沢になったもんだ。明日からも間に休みを入れながら狩りに出掛けような」
「貯蓄は大事」
「それはそうと食材はどこで解体するのじゃ?この家には解体場は無かったのじゃ」
夏希は考える。そしてすぐ諦める。
「もう家の裏庭でいいや。小さな畑を作るつもりだから食べれない部分を埋めておけば肥料になるだろ。今度、裏庭に解体小屋を作るようにするよ」
夏希はソファーから立ち上がり背伸びをする。
「今日は疲れたから食べる分だけ切り取ってくるよ。2人はここでのんびりしてていいよ」
◇◇◇◇ 夕食準備の時間 ◇◇◇◇
キッチンに立つ夏希と真冬。
「さあ、夏希キッチンの始まりだ。今日はこの特大モモ肉を使います。」
夏希はアイテムボックスから解体ホヤホヤのワイバーンモモ肉をキッチンテーブルに取り出した。その大きさは全長1メートルほど。
「真冬、脇差しにクリーンを掛けてカットしてくれ。大きさはラグビーボールぐらいで2つ頼む」
「判った ぶった斬る」
夏希は真冬の脇差しで斬り取られたモモ肉を残して残りをアイテムボックスに収納する。
「なんで解体する時に適当な大きさに切ってこなかったんじゃ?2度手間な気がするのじゃが?」
夏希は真剣な表情でスズランに話す。
「大きいの見てもらいたかっただけだ」
「夏希……」
夏希はその肉の塊を一口大に切り分けるとまな板の上に並べてフォークで突き刺していく。その後、右手に親指と人差し指で塩を少し持ち、頭上高く上げパラパラと肉に振り掛ける。そこで一言。
「これがやりたかったのだ!もう満足!」
そしてアイテムボックスから何かを取り出す。
「真冬、このメーカーの唐揚げ粉があるから、適当に粉付けて油で揚げてくれ」
夏希キッチンの終了だ。
夏希からバトンタッチした真冬は丁寧に唐揚げ粉を付けて放置する。その間にもう一つの塊から一口大に切り、醤油と酒に浸ける。
そして獣人村の野菜達をぶつ切りしにして鍋にぶち込み炒め、そこに漬け込んだ肉をぶち込んで更に炒めていく。後は水、だしの素、砂糖少し、酒を入れて煮込みアクを取りなが煮詰めていく。水分が無くなる手前で醤油とみりんを入れて更に煮込んで完成だ。
(真冬、凄くない?見直しちゃったよ)
その後、チキン南蛮、照り焼きを作り、最後に唐揚げを揚げてすべて完成した。
その真冬の手際の良さに、夏希とスズランは拍手喝采だ。(マジですげーよ真冬ちゃん)
夏希はダイニングテーブルに出来た料理を並べていく。(サラダとか無いけど今日はいいかな)
そして真冬も後片付けをサクッと終わらせ椅子に座る。スズランは既に片手に箸を持ち、もう片手にはビールを持ってスタンバイおーけーだ。
「では、作ってくれた真冬とモモ肉を提供してくれたワイバーンに感謝して、かんぱーい!」
「「いえーい!」」
3人はまず唐揚げを食べる。
「「「うまーい!」」」
「おい、これ、めちゃくちゃ旨くね?凄くね?」
「これは噛み応えがあるが歯切れのよい固さで、噛めば噛むほど口の中に肉汁と旨味が溢れてくるのじゃ。そしてこの唐揚げ粉、これがスッゴく旨い」
「まあ、確かにこの唐揚げ粉は美味しいけど……」
「うまうま ワイバーン」
3人はその後もビールを飲みながら、「あれが旨い、これが旨い」と言いながら食べ進める。
「真冬、ありがとな。料理旨かったよ。特にあの筑前煮みたいなやつ。俺はあれが一番好きだな」
「政宗に教えて貰った」
「そうなんだ。また違う料理も出来たらお願いするよ。それとここのキッチンは使いやすいよな。蛇口から水も出るしコンロも魔法の火だ。さすがは魔道具だな。獣人村の人達は薪を使ったカマドなのに何か悪い気がする。今度お礼しないといけないな」
そして楽しい晩餐は遅くまで続いた。
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