第130話 ボーナスチケット

 スズランの闇を解いた姿を見た夏希。


 今は朝。場所は宿屋の部屋。


 晩酌の時にスズランは纏う闇を解いた。その後の2人は最初から緊張することも無く、いつも通りの晩酌で終わった。ただ2人が纏う雰囲気は今までで一番暖かく穏やかなものであった。


 あれからスズランは夏希の影の中に居る。


 これは闇が解けて何かに見つかる事をを怖れてのことだ。スズランはまだ教えてはくれない。何を怖れているのかを。


 このままではスズランは影から出ることが出来ない。その原因を作ったのは夏希である。だから夏希は深く悔やみ悩んでいた。


「ピコン」


(ん?これは職務怠慢天使からのメールだな)


 夏希はステータスからメールを確認する。


[貴方はいつになったらネットスキルの追加機能に気付くのかしら。あと、あのペンギンちゃんは貴方の闇を縛る為に殆どの力を使ってるから表に出てきても見付かる事は無いわよ。全く問題無し。漆黒の闇が使えるようになるレベルになったら要注意ね。


 優しくて働き者のカルレスより ]


(絶対俺を監視してるよな…それに最後の送り名の所。直前に書き加えたのか?怖ぇよ)


「スズラン!出てこい!もう「おっぴらげ」でも大丈夫みたいだぞ!」


 朝からビール片手に影から出てくるスズラン。


「なんじゃその「おっぴらげ」とは……何でワレが出ても大丈夫と判るんだ?」


「さっき、働き者の天使がメールしてきたんだ。スズランの力が弱くなってるから見付からないって。漆黒の闇が使えるようになったら要注意だって」


 スズランは眉間にシワを寄せて考えていた。


「まあそれなら大丈夫じゃな。これで気兼ね無く外で飲めるな。ピクニックでも行くか?」


「ははは、もう何処でも何でも出来るぞ!喜べスズラン。俺はこれ程嬉しい事は無いぞ!」


 夏希はスズランを担ぎ上げ、部屋の中を踊るように飛び回っている。スズランはそんな夏希を見て微笑み、幸せを感じていた。


 夏希の興奮が納まり朝から晩酌が始まった。


「ぷはぁ、今日のビールは最高に旨い!スズランもそうだろ?えっ?おい?何とか言えよ」


 夏希は質の悪いオッサンになっていた。


「はぁ、もう何度目なのじゃ。いい加減にせい。ビールが不味くなるのじゃ」


 スズランはニヤけた呆れ顔でビールを飲んでいる。


「それであの天使は、ワレの事でわざわざメールしてきたのか?」


「ん?ああ、忘れてた。ネットスキルに何か追加されてるらしい。だいぶ前から」


 夏希はステータスからネットスキルを確認する。


「今まであったモノは変わってないな。変わったのは項目が1つ増えてる。「魂の救済」と表示されてるな。今回はヘルプがあるぞ」


 夏希はヘルプを確認する。


 1.魂の救済でポイント付与

 2.特定ポイント到達でボーナスチケット配布

 3.魂の救済毎に難易度による寄付金額配布

 4.プール金から寄付金額と寄付先を設定

 5.プール金は現金でチャージしたものに限る


 夏希は「魂の救済」メニューを確認しながら考えている。10分ほどして夏希が話し始めた。


「スズラン、ある程度判ったぞ。このメニューだけログがあったから判ったんだが、信吾を助けて特殊条件を解放された。1つの魂を救う事で1ポイント貰える。この魂を救うと言う意味はよく判らないが、今回は闇に落ちた魂を元の状態に戻した事で貰えたみたいだ」


 スズランは何かを察した。だが夏希には判らないように表情は変えていない。


「ふむ、魂の救済が求める範囲は判らないと言うことじゃな。面倒なことじゃ」


「そして特定ポイントが何ポイントかは判らないが、初回サービスで1枚配布された。これがそうだ」


 夏希はハガキサイズのプレートをスズランに渡すと、スズランは書いてある内容を確認した。


「これ1枚でネットスキルで購入したものを1つ魔道具化してくれるのじゃな。ツマミと酒しか買わんからあんまり嬉しくは無いのじゃ」


「スズラン………これは凄いモノだぞ。まだ高価な物は買えないから仕方無いけどこれがあれば……ん?何に使えるんだ?お風呂はお湯が出る魔道具があるし、トイレも紙はあるよな。ウォシュレットは無いけど…」


 夏希は考えるが何も思い浮かばない。


「ま、まあ凄いモノなんだ。今後に期待だ」


 お茶を濁す夏希であった。


「続きまして説明致します。今回の救済で金貨500枚の寄付金額が配布されてるんだ。因みに難易度はAだな。これで今まで現金でチャージして購入した総額から俺が指定した金額と場所に匿名で寄付されるらしい」


「これに何の意味があるんじゃ?夏希には何の私益も無いように思うのじゃが?」


「そうだな。俺がこの世界の現金をネットスキルにチャージしたら現金が徐々に無くなっていくよな。その予防策として付与されたんだろうな。


 現金のみが対象だから、貴金属とか鉱石は気にしておいた方がいいかも知れないな。まあ、俺は出来るだけ魔物しか換金しないよう心掛けるけどな。


 あと、寄付については俺の心が暖まる。偽善者と言われるかも知れないけどな。寄付についてはまた今度じっくりと考えてからにするよ」


 夏希はスズランを見て笑う。


「今日はスズランが影から出られた嬉しい日だ。今日は飲むぞ。朝まで寝かせないからな。覚悟しとけ」


「いや……今はまだ朝なんじゃが……」


 2人の晩酌は本当に翌朝まで続いたのであった。


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