第118話 闇に落ちた者達(1)

 幸せな日常を堪能していた夏希。


 夏希は冒険者ギルドの扉を勢いよく開け放った。


 ギルド内はギルド職員や冒険者達が慌ただしく動き回っている。夏希はスザンヌ達を探すが見つからない……苛立つ夏希。そして見つけた。


「ニア!どうなってる。スザンヌ達は何処だ!状況はどうなってる。説明してくれ!」


 冒険者達と話をしていたニアの腕を取って強引に引き寄せる夏希。冒険者達は文句を言おうとしたが、夏希の鬼気迫る雰囲気に無言で離れていく。


「夏希さん、スザンヌさん達は会議室に居ます。案内するので付いて来てください」


 ニアは歩きながら説明を始める。


「詳しい話は会議室に居るギルド長がします。会議室には、スザンヌさん達以外にAランク4名、Bランク5名が居ます」


 上位ランクを集めたにしては数が少ない。


「ニア、人数が少なくないか?」


「この街は近くにダンジョンが無いので上位ランクは少ないです。それでもある程度の人数は居ました。ですが、この騒動で既にAランク1名重傷、Aランク1名、Bランク5名が亡くなっています。あと、何名かは対処に向かっているそうです。私は今日休みだったので詳しい内容はまだ判っていません。すいません」


 ニアの声は震えていた。


 会議室に着いてニアがドアをノックし返事を待たず中に入る。


「失礼します。夏希さんが来ました」


 会議室は長方形で20畳ほどの広さがある。部屋の中心には重厚感ある木製の長机と椅子が置いてあった。

 老齢の男が座っている皆に何かを説明している。この人がギルド長なのだろう。


「遅れてすいません。夏希です」


 夏希は皆に頭を下げて空いている席に座わり、ニアも夏希の隣に座った。ニアも会議に参加するようだ。


「ワシがギルド長のザイルだ。初めて会ったな。Aランク並に強いと聞いている。時間が惜しいから早速説明を始めるぞ」


 既に戦闘が始まっているようだな。


「夏希とニア以外は途中まで同じ話を聞く事になるが最初から聞いてくれ。今朝、討伐依頼を受けていたCランク冒険者6名のパーティーがダンジョンを発見したのが始まりだ。


 そのダンジョンは珍しい遺跡タイプだった。広大な野原だったその場所は、今は古い石畳に変わり神殿のような大きな建物が1つあるだけになっていたそうだ。その場所は馬車で2時間の距離で近い。


 冒険者達はダンジョンに入ろうとしたが、反対に中から2人の人族が出て来て襲撃され4名が亡くなった。残った2人は1人の襲撃者に片腕を切られ、もう1人の襲撃者に死なない程度に止血のみの治癒魔法を受けた。そして腕を切った襲撃者が冒険者2人に言った」


 ザイルは苦虫を噛み潰したような顔をして話す。


「お前達は伝言板だ。これから話すことを街に戻って偉いさんに説明するんだ。しっかり聞けよ。


    これからゲームを始める。


 俺達は3人だ。俺は勇者の中村だ。隣は賢者の渡辺。あともう1人はあの建物の最下層に居る。ダンジョンマスターの松田だ。


 今日から3日後に、このダンジョンからスタンピードが起こる。お前達はそれまでに、このダンジョンを攻略してみろ。俺達2人は邪魔しない。ただし強い奴は俺達と遊んで貰うけどな。


 ダンジョンの最下層は10階だ。そこにダンジョンマスターが居るから倒せばクリアだ。簡単だろ?


 ダンジョン攻略は諦めてスタンピードを街で防衛するのでも構わない。ただ、特別製のスタンピードになるからオススメはしないけどね。


 俺達はこの世界を楽しむことにしたんだ。お前達が絶望に染まるのを見てな。


 俺達は3日前にここに飛ばされた。そして近くにお前達の街があった。


  お前達は俺達のオモチャ第一号だ。 


 これがこの街の脅威となる者達の伝言だ」


 会議室の空間が異様な空気に包まれる。


「その報告から危険度が高いと判断し、すぐにAランク2人とBランク5人の7名で脅威者達の討伐に向かわせた。だが失敗して戻って来たのはAランクの1人だけだった。その1人も片腕を切られていたがな……」


「そいつらは、そんなに強いのか?」


「ああ、動きや技術はこちらが上だったが魔法の威力が桁違なんだ。どんな傷を負わせても賢者があっという間に治し、桁違いの火魔法や土魔法を放ってくる。

 勇者は怪我も恐れずに笑いながら、ただ突っ込んで来るだけらしいが、その威力が凄まじいらしい」


 ザイルは疲れたのか椅子に座り再び話し始める。


「この時点で本件についてはワシの独断で緊急事態として対処する事にした。ただし、街の混乱を防ぐためにスタンピードの情報は対応する冒険者のみとしている。


 領主に事態の報告と正騎士団の依頼をしたが回答待ちだ。だが、あの領主だ。直接街に被害が出るまでは動かないと思う。街の外での事とダンジョンの事なら冒険者ギルドの管轄だと言ってな。


 他の街のギルドに応援を頼んだが、早い者でもスタンピードが発生した後だ。だから今居る人員で何とかするしかない。既にAランク1名とBランク8名、あとサポート役としてCランク20名の29名を1チームとして、ダンジョン攻略に向かっている。


 あの脅威者2人が手を出して来なければ、無視してダンジョン攻略する。これは先にその2人を倒せたとしてもダンジョンマスターがそれで暴走する可能性があることを考慮している。


 残りの上位冒険者は後から来たお前達だけだ。街の守備はCランク以下の冒険者で対応する。正騎士団も居るしな。だから、お前達全員ダンジョン攻略に向かって欲しい。Cランクを50名サポートに付ける。

 浅い階層はCランクに任せて体力と魔力を温存しろ、これは短期決戦だからな。サポート50名は馬車で待機しているからすぐに出発出来る。


 説明は以上だ。何か質問はあるか?」


 冒険者達は作戦を煮詰める為に、ギルド長に質問をしたり冒険者同士で話し合ったりしている。


[スズラン、どう思う?]


[この者達は元から残虐性を持っているな。それも途轍もなく異常な残虐性をな。それが上位冒険者との戦闘で更に酷くなり闇に落ち始めたのじゃろう。気配が強くなった時間に当てはまるのじゃ]


[天使は精神異常者達を集団転移させたのか…それも残虐ゲーム好きの奴らを。最悪だな…]


[最悪な事はまだあるのじゃ。勇者を名乗る者が1人居たな。勇者を名乗るならば聖魔法を持っている可能性があるのじゃ。夏希とワレの魂は黒い。故に光に弱い。

 そこら辺の聖女モドキの聖魔法なら問題ない。その残虐勇者の聖魔法は天使が付与したスキルなのじゃ。ただの聖魔法とは威力が違うじゃろうな]


[何とかその存在をスルーしてダンジョン攻略した方が良さそうだな。スズラン、そろそろ行くみたいだ。また何かあれば念話する]


 さて、どうなるかな…

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