第117話 送別会と闇に落ちた者達
親しい仲間達と楽しく過ごす夏希。
時間は夜。場所は宿屋の中庭。今は3組に別れて各々が楽しんでいる。
1組目は子供達だ。夏希がアイテムボックスから細めの薪と木の枝を出して火を着ける。焚き火だ。子供は焚き火を取り囲み、マシュマロを竹串に刺して焼く。皆、黙って真剣な表情をして。(何故か大半の人は最初は必ず黙って焼くよね)
この焼きマシュマロは意外と美味しい。表面はパリッとしていて中はトロトロになる。失敗すると溶けて串から落ちてしまう。これが楽しい。
そのまま食べてもいいが、オススメはクラッカーに焼きマシュマロとチョコを挟んで食べるスモアだ。勿論、材料は準備している。
「甘ぇなこれ、でも旨い」
「こんがり焼けましたぁ」
「あっ、落ちた……それをもう一度刺す!」
「「あはははは!」」
大人達は、子供達の様子をツマミにして会話をし、美味しいお酒を飲んでいる。
2組目はランブル夫婦だ。サラの両親と4人で赤ちゃん服を広げて賑やかに話をしている。両親は宿屋の仕事が一段落したので一時だけの参加だ。
3組目は残り。筋肉美女、筋肉寡黙美女、ペンギン、ピカチュ○、ニアにゃ、夏希だ。バラエティー班だ。
筋肉美女はおちょぼ口筋肉で肉を食べ、筋肉寡黙美女は「………おいちぃ」と珠に喋りギャップ萌え、ペンギンは少し前にクチバシの先が破れて中が見えないようにリボンで結び、ピカチュ○は飲み過ぎで椅子を2つ並べて横になり寝むっている。ニアは……普通。
「夏希、今日は楽しかったよ。ビエラも楽しんでる。この街に来て良かったよ」
「良かったですね。俺もスザンヌさんとビエラさんには色々とお世話になって助かりました。ありがとうございます。王都までは高速馬車で帰るんですか?」
「ああ、高速馬車で帰る。ただ途中でアンデルの街に寄る予定だね。あの街でスタンピードがあってね、私達はその防衛戦に参加したんだよ。その時に仲が良くなった人達が居てね、その後の話を聞こうと思ってる」
ん?アンデルの街?スタンピード?
「あの、その街に乙女騎士団って居るんですけど知ってますか?女の子4人組なんですけど」
スザンヌとビエラは少し驚いている。
「夏希は鼎達の知り合いなのか?私達が仲良くなった人達はその鼎達の事だよ。真冬と桜と雫だろ?」
夏希も驚いている。ニアは興味を持った目で夏希を見ていた。特に女性の名前ばかり出てきた事に。
「そうです。俺の仲間達です。俺は訳あって今はトバルに居ますが、近々皆の所に行く予定です。妙な所で繋がってますね」
ニアは夏希が街を出ると聞いて不安になっていた。もうトバルに戻って来ないのではと……
「あの子達も飛び抜けた強さだったよ。夏希が仲間と言うのも納得出来る話だね。何か伝えておこうか?」
「ああ、それでは元気にしてる事、近々そっちに行く事を伝えて貰えますか」
「了解した」
メールしてるから大丈夫なんだけどな。
「それから、出発の日までに皆になにかし………」
「カンカンカンッ!カンカンカンッ!」
突如、街全体に激しい鐘の音が鳴り響いた。
全員ハッとして固まる。
「ギルドからの召集合図です!私はすぐに戻ります。冒険者の方は武装準備してからギルドに集まってください。この鐘の鳴り方はスタンピードでは無く、他の要因で街に脅威が迫っている合図です。急いで!」
ニアはそう言って宿屋を後にした。
「はぁ、スタンピードの次は何だろうね。もう街を出る所なのにね……仕方ないね、ランブルは子供達を頼むよ。夏希、準備しろ行くぞ」
「私も行くでち。準備は不要でち。あっ、この服では駄目でちから店に戻ってくるでち。先に行けでち」
ルンバは椅子から起き上がり、飛翔で宿屋を出た。
「スザンヌさん、先に行ってください。ギルドで合流しましょう。情報収集お願いします」
「判った。早く来いよ!」
スザンヌとビエラも走りだし宿屋を後にした。
夏希はランブルに後を任せて部屋に戻る。スズランも後を付いて来ている。部屋に入ると夏希が話す。
「スズラン、なんだ? 時間が無い」
「ワレは疲れたから影に戻る」
スズランは夏希に目で合図をする。
「判った。飲み過ぎたんだろう。おやすみ」
スズランは影に沈む。
[それでどうしたんだ?念話と言うことは天使がこの騒動に関係しているのか?]
[3日前、この街近くの森に魂を2つ持った者達が現れたのじゃ。ただ、夏希のように強い気配では無かったのであまり気にはしなかったのじゃ]
[その存在がこの街の脅威になってると?]
[ああ、鐘が鳴る2時間ぼど前に急に気配が強くなったのじゃ。淡い黒色の気配に変わっての]
夏希はハザフ一家とランブル達との出来事を思い浮かべてしまい嫌な気持ちになる。
[多分にその者達は絶望を味わって闇に落ちたか、自ら進んで闇に落ちたかのどちらかじゃろう。因みに夏希は魂は黒く染まっておるが闇には落ちておらんぞ。だからワレは興味を持って夏希に付いておるのじゃ]
夏希は考えている。
[その存在は何かの理由で闇に落ちて脅威を振り撒いてる訳だな。それで死んだら天使に魂を壊されて希少上位種の魔物になるわけだ]
[そうじゃ。闇に落ちればその負の感情を力に変える。だから強くなる。死んでも今度は強い魔物になる。厄介な存在なのじゃ]
[何故気配が変わった時に言わなかった]
夏希の口調が強いものになる。スズランからの返答に間が空いている。
[スズラン、答えろ]
[お前が闇に落ちるのではと怖くなった…闇に染まり始めた者達が他の所に向かうことを願っていた…]
夏希は深呼吸をして心を落ち着かせる。
[スズラン、ごめん。今のは俺が悪かった。とにかく、その存在は倒す。スズランはどうする?]
[ワレは、夏希の影に潜んでおく。危なくなれば助けてやるのじゃ]
[まぁ、その存在が持っているスキル次第だな。こっちにはルンバ師匠も居るし何とかなるだろう]
[因みに、その者達は3人なのじゃ]
[マジか……スズラン、急いでギルドに行く。何かあれば念話してくれ]
夏希は装備を着替え腰紐に剣を刺し、宿屋を出てギルドに向かって走り出した。
(夏希……知ってるか?お前は闇に染まり始めた3人を一度も人扱いしてない事を。その者達を「存在」と言っている事を。説得しようと一度も考えていない事を。
お前はまだ闇に落ちてはいない。だが綱渡りをしているようなものなんだよ。だからお前は必要以上に幸せを求め、感じようとしてるんだよ。
ワレはそんなお前が愛しくて堪らない。ワレがお前を守る。身体も心も。他の全てを犠牲にしてでも)
スズランは夏希の影の中で夏希を想う。
何処からか誰にも聞こえない声が聞こえてくる…
スズラン…あなたも綱渡りしてるのに気付いてる?
その声は誰の声なのだろうか……
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