第115話 スザンヌとビエラの送別会(3)

 スザンヌとビエラの送別会で楽しむ夏希。


 大人組は楽しくお酒を飲んでいる。


 バーベキューも子供達がワイワイ言いながら、肉や野菜を焼いて「これが美味しかったよ」と言って持って来てくれる。(いい子供達だ)


「夏希兄ちゃん、これエビだよな?大きさが全然違うけど。あと、これは見たことが無いよ」


 アスザックが持って来たものは、エビのブラックタイガーとホタテだ。トバルの街付近には海が無いので魚介類はあまり流通していない。アスザックが見た事のあるエビは川エビだと思う。貝も川では巻き貝が多いから二枚貝は珍しいだろう。


「これは海で採れたエビだ。大きいだろ?塩を振り掛けてから焼くと旨いぞ。あと、これはホタテだな。これも海で採れた貝だ。焼くとこの合わせ目が開くから、そこにバターとこれを掛けて少し待つんだ。これも旨い。アスザック、悪いが多めに焼いてくれるか?」


 夏希は、アイテムボックスからバターと醤油を取り出して渡す。アスザックは「任せとけ!」と言いながら受け取り仲間と楽しそうに焼き始めた。


「夏希、高そうな食材があるが会費はあれで良かったのか?酒も高そうだし。それに子供達は会費無しにしてるだろ。言ってくれれば追加で出すぞ?」


 大人組は皆、同じ意見のようだ。


「ランブル、旅先で安く仕入れたものだから大丈夫だ。何とか足りてるよ。スザンヌさんとビエラさんの送別会なのに、2人からも会費を出して貰ってるから反対に悪いかなと思ってるよ」


 送別会の会費は1人金貨2枚にしている。大人7人からの会費で金貨14枚(14万円)の予算だ。食材もA5ランクとか厳選素材とかではなく、お徳用パックとかを買っているので大丈夫だ。(十分美味しいからね)


「ふふ、送別会と言っても永遠の別れでは無いしな。いつでも会える。だからこれは親しい仲間との飲み会だ。だから気にするな」


 スザンヌがそう言い、横でビエラも頷いている。


「そうでち。今日は楽しい飲み会でち。お金の話なんて後でいいでち。ランブルは気を遣い過ぎでちよ」


 ルンバは牛タンを気に入ったのか、そればかりを食べている。(コッチでは牛の舌、食べないんだよな)


 会話が弾んでいると、バーベキューコンロの方から醤油とバターが焼けるいい匂いがしてきた。(この匂いは堪らん。焼きトウモロコシも欲しくなるな)


 見ると子供達が各々トレーに焼けたものを持って、大人組のテーブルに大量に置いていく。そして自分達も大人達の隙間に割り込んで座っていく。6人用のテーブルは大混雑である。


「このエビは僕と妹で焼いたんだよ。美味しかったから食べてみてよ」


 この子供はテンドだ。妹は初めての見る。4才ぐらいだが孤児院には入ってないのだろうか。少しだけ気になる夏希であった。


 エビを殻のまま食べる。塩味でパリッとした食感の殻は旨い。中の身もプリプリで甘い。ホタテはバター醤油の焦げた匂いだけで満足しそうだ。食べるとエビに負けずプリプリだ。噛むと口の中が幸せになる。最後に貝殻に残っている旨味たっぷりの貝汁を飲む。最高だ。


「テンド、お前と妹が焼いたエビは最高に旨い!」


 テンドと妹は、2人で「やった!」と喜んでいる。それを見ていた他の子供達も、隣の大人達に自分が焼いたモノを期待した目で渡していた。


 大人達はその期待に応えようと意気込む。


 ニアとサラさんは子供達の頭を撫でながら「上手に焼けてるね」「とても美味しいよ」と言うと、子供達は照れながら喜んでいる。


 うん、いいね。微笑ましい場面だな。


 スザンヌとビエラはそれを見て「旨い!」と言いながらスザンヌは頭を掴み、ビエラは脇に挟み頭を撫でている。子供達は若干苦しそうに喜んでいる。


 それは、アイアンクローとヘッドロックだな。誉めてはいるけど違うな。


 ランブルはウズウズしながら待っているが誰も行かないな。まあ、頑張れ。


 夏希の隣のペンギンに、テンドとその妹が「食べて!」と目をキラキラさせながらエビとホタテを乗せた皿を差し出した。(ペンギン、期待を裏切るなよ!)


 ペンギンは指の無い手で器用にエビを持ち、クチバシの下にある「第二の口」で食べる。


「こ、このエビは旨いのじゃペン。焼き具合も調度いいのじゃペン。ホタテも旨いペン。お前達がいっぱいくれたペンから、ワレのお腹はペンペンじゃ!」


「「ありがと………」」


 テンドと妹は次の標的ルンバに向かった。「お兄ちゃん、あれ変な言葉で可愛くないよ」と妹が小声で言いながら。テンドも「あれはハズレだ」と妹に話す。


「ぶふっ!」


 夏希はペンギンにバレないように小さく吹き出す。(お腹ペンペンって……それもウケてないし)


 ペンギンの体は小刻みに震えていた。まるで何かを耐えるように。


 今、ルンバの周りには期待に満ちた子供達全員が集まっている。各々手に自分が焼いたモノを持って。


 ピカチュ○は、異世界でも人気のようだ。


「ん?私にくれるでちか。いい子達でちね」


 ルンバは、各々の皿から一口ずつ食べていく。頭を撫でながら。(おっ?やるじゃないか。幼女の癖に)


「皆が焼いたエビやホタテはとても美味しいしかったでちよ。それはキミ達が美味しく食べて欲しいと思いながら焼いたからでち。何をするにも相手の事を考えて行動することが大切なことでち」


 ルンバは子供達の目を見ながら優しく諭す。


「では、良く出来たご褒美をあげるでち」


 ルンバはそう言って両手を空に向けると、その両手からピンポン玉サイズの赤や黄色の淡い光の玉が、ルンバの頭上に10ほど浮かび上がり踊り始める。


「「 わぁ!綺麗だ 」」


 子供達はその光景に釘付けだ。


 そしてその淡い光の玉は全て空高く舞い上がった。


「「バーンッ!、ババーンッ!」」


 遥か上空でその光の玉が弾け散る。花火のように。


 子供達も、大人達も、その光を幸せそうな笑顔で静かに見ていた。

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