第111話 夏希の想い
ニアとの楽しい昼食をした夏希。
夏希は部屋でスズランと晩酌をしている。
「なあスズラン。この街に来てから1ヶ月になる。そろそろ一度獣人村に戻ろうと思う」
スズランはビールを飲みながら返事をする。
「ん?別に構わんぞ。ワレは付いていくのじゃ。他に何か問題があるのか?」
「いや、特に問題は無いけど。ただ、この街にも仲良くなった人達が増えたから…」
スズランは嫌らしい笑みをしている。
「あのギルドの猫娘と離れるのが寂しいのか?一緒に連れていけばいいのじゃ。あの猫娘はお前に惚れとるから言えば尻尾振りながら付いてくるぞ。あとあのムキムキ娘達もついでに誘えばいいのじゃ。夏希はハーレムじゃな。ふひひひ」
夏希は手に持っていたナッツを指で弾く。
「痛っ!ワレの柔肌にキズが付くのじゃ」
「お前は無敵幼女だろ?」
夏希は残りのビールを飲み干し考えている。
「ニアのことだが悩んでる。俺も好きだよ。いい娘だからね。でもニアはたぶん10代だよ?俺36だよ?親子と言ってもいいぐらい年齢差があるんだよ?あとあの筋肉達は要らないから」
「この世界では普通じゃな。悩むことは何もないのじゃ。襲っても問題無いのじゃ」
夏希とスズランはそれから黙ったまま晩酌を続けている。夏希は悩んだ表情で、反対にスズランは面白そうだといった表情であった。
「うーん、先延ばしだな。だから獣人村に戻っても、また街に来ることにする。だからニアにはある程度俺の事を話しておこうと思う。その時にスズランも影から出てこい。ニアに紹介する」
「ワレを紹介するのか?第一婦人はワレじゃと?」
「そうだ」
「………………」
夏希はビールをやめてウイスキーを出してチーズをツマミにしながら飲み始める。スズランを無視して。
スズランの真っ黒な頬が仄かに赤くなったような雰囲気が2人の間に漂う。
「何か喋るのじゃ…」
夏希は無視を止めて真面目な顔で話し始める。
「第一婦人は冗談として、俺はスズランの事は好きだよ。一緒に居るのが当たり前に思えるほどな。ただそれは恋愛感情とは違う。と思う。そこはまだ判らん。だからニアにも紹介したい。駄目か?」
スズランは夏希の言葉に戸惑っていた。何度も顔を上げたり下げたりと話すのを
「ワレは人では無い…」
スズランが振り絞って出した言葉はそれだけだった。
「ブハッ!当たり前じゃん。お前は堕天使真っ黒幼女じゃん。そんなことで悩むなよ、アホらしい」
「アホらしいって……」
「どっちかと言うと、スズランは俺の家族なんだ。別に天使の家族が居てもおかしくないだろ?これからも一緒に居るんだろ?だから俺たちは家族だ」
そう言って夏希は晩酌を再開する。スズランも少し戸惑っていたようだが、何かが吹っ切れたのか穏やかに晩酌を始めたのであった。
「話すのはタイミングを見てだな。何処か邪魔が入らない所も探しとかないとな」
スズランも考えている。そして何かを決意して夏希に話し始める。
「判ったのじゃ。場所はワレが提供する」
「ん?いい所があるの?」
スズランに問い掛けてすぐに念話が来た。
[ ワレの結界魔法で「漆黒の闇」というものがある。これはその結界で覆った空間は誰も認識出来なくなる。天使どもでもな。ニアに話す時に天使の話もするのじゃろ? それからこの結界は2時間が限界じゃ。魔力をバカ食いするのでな ]
[ それなら結界を張れる場所とタイミング次第だな。その時になったら頼む ]
[ 判ったのじゃ。その時ワレは闇を解いて姿を現すことにする。楽しみにしておくのじゃ ]
スズランは念話を終えると影に沈んでいった。
夏希はその沈んでいった部分の影を暫く見ていた。
(少しずつでも幸せを取り戻してやるからな)
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