第95話 幕間 巧の悩み

 私は山下巧24才(彼女は桜)


 あのスタンピードは凄かった。


 私は何も出来なかった。彼女の桜は最前線で戦ったが私はただ待っているだけだった。


 それがとても悔しかった。


 何故私は生産職のスキルばかりを選択したのか。どうして1つだけでも魔法のスキルを選ばなかったのか…


「はぁ、幸之助どうしたらいいと思う?」


「巧は出来る事をちゃんとやってるから問題ないと思うけどね。役割は果たしてるよ」


 2人は借家の応接間で話をしている。他の転移者はそれぞれの仕事や遊びで誰も居ない。


「それでも何かスッキリしない…」


「そういう時は酒でも飲みに行くか。まだ朝だけど…それに政宗さんの店だけどね」


 2人はすぐ近くの政宗の店に足を運んだ。


「政宗さん、お邪魔します。まだ朝ですけどお酒飲ませてもらえません?」


 政宗は開店準備をしていたようだ。


「おう、おはよう。珍しいな朝から酒なんて。どうしたんだ?まあ、酒は出してやるがな」


 政宗の隣にいた女性がお酒の準備をしている。


「お酒は果実酒にするかね。朝からビールは駄目。ほら、早く座んな」


 2人は進められたカウンターの椅子に座る。


「メル、何か食べるもの出して」


「はぁい、煮物でいいよね」


 政宗の店には2人の女性が居る。


「アヤネさん、私はビールの方が…」


「巧、ウチが出すものが嫌かえ?」


「いただきます…」


 アヤネは豊満な肉体で色気のある28才の狐族の女性だ。遥か東の島国の出身である。


「ふふ、巧さんは可愛いわね」


「メルさん…」


 メルは柔らかな雰囲気の27才のうさぎ族の女性だ。お胸様も柔らかな雰囲気だ。


「それで何かあったのか?」


 そこに手に酒を持った政宗がカウンターを挟んで2人の前に座った。アヤネとメルも話しに混ざる為か、政宗の両隣に座った。


 巧は自分が何も出来なかった事に後悔している事を政宗に話した。


「ははは、お前は良くやっている。皆はそれを判っているぞ。何も出来なかったと思うのは間違いだ」


 政宗はアヤネに酒を注いでもらって飲み、巧を優しい目で見ていた。


「ただ役割が違うだけだ。役割には目立つものと目立たないものがある。だが、どちらも同じ大切なものだ。巧は皆を纏めて正しい方向性を示す。これは誰にでも出来る事では無い。自信を持て」


「巧は周りのバランスを上手く調整出来るいい男だよ。まあ、ウチの旦那には勝てないけどね」


「そうよ~、気配りの出来る男はモテるの~。まあ、私の政宗には勝てないけどね~」


 アヤネとメルは政宗の嫁であった。


 付き合い始めたのは3ヶ月前で、スタンピード後に結婚したのである。(ハーレムである)


「皆さんありがとうございます。少し自信を持てました。でも俺も戦いたいと思う気持ちは変わらないんです。でも戦闘スキルも無いので…」


 巧は酒を飲み視線は遠くを見る。


「巧、私は何度か夏希さんとメールのやり取りをしてスキルの考察をしてみたんだが、どうも私達転移者はスキルが増えないみたいなんだ。

 勿論、訓練すれば技術の上達はするんだ。天使に付与されたスキルとは違って普通の成長速度でね。

 だけどそれがスキルとして発現して無いんだ。夏希さんのレベルは22だ。あと剣の訓練も毎日していて実戦もしている。それでも発現したスキルは無いんだ。

 だから戦闘訓練をして強くなるのはいいが時間が掛かると思う。それならスキルレベルを上げる方が自身の成長が早い。それで皆を守るんだ」


「幸之助の言いたい事は判ったが、生産スキルを上げてどうするんだ?」


 幸之助が巧を見てニヤリと笑う。


「そろそろ魔道具に手を出してみないか?俺達で皆の装備品やアクセサリーを作るんだ」


 巧は考える。


 確かに私の生産スキルと幸之助の鑑定と転移のスキルがあれば素材調達から製作まで可能だ。


「いいかもな。魔道具を作るか…」


 巧の目に力強い光が戻った。


「巧、幸之助、慎重に進めろよ。わし達は戦う為にこの世界に来たんでは無い。幸せになる為に来たんだ。この間のスタンピードは仕方ない。戦わなければならないモノだった。

 だが進んで戦う必要は無いんだ。お前達がこれから作ろうとする物でその方向性が変わる。戦うのではなく、守る為の物を作れ」


巧と幸之助は政宗の言葉を胸に刻む。


((俺達が皆を守るんだ))


「ああ、それとこの間来た客が言ってたんだけどな、乙女騎士団がDランクなのに凄い活躍をしたって噂が領主の耳に入ってな、呼ばれたみたいだぞ」


巧と幸之助は政宗の言葉を胸に刻む。


((何事もなければいいな…))

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