第92話 商業ギルドに行く夏希

 試食会が好評で安堵した夏希。


 今日は屋台本体を借りる事と出店場所の申請を行う為に夏希は街を歩いている。


 夏希は自分が屋台を出すので参考になるかなと朝から盛況な屋台を見ながら歩く。


(流行ってる屋台はいい匂いがするな。あと何を売ってるかと価格を判りやすく木札に書いて表示してるな。まぁ、とにかく美味しいんだろうな。リピーターが多い所が強いからな)


 夏希は屋台を見ていると、あることに気付く。


(ん?屋台にも屋号があるな)


[ 焼き鳥 デニーの店 ]

[ 美味しい串肉 ドン ]

[ マリンの果実水 ]


(普通だな。最後のは少し気になるが…)


 夏希はそのまま屋台を見ながら商業ギルドを目指す。


 ふと、歩く夏希の琴線に触れるものが目に入った。


[ 焼き鳥フェニックス 俺は2度よみがえる ]


 その屋台は道の外れにポツン1店舗だけあった。40代の男が真剣な表情をして焼いている。


(これはもしや当たりか?)


「オヤジ、一本焼いてくれ」


「待ってな。俺のフェニーには驚くぜ」


 なんだよ…「フェニー」って…


 オヤジは既に焼けている焼き鳥を更に焼き始めた。


(えっ、あれもう焦げてるよね?真っ黒だよね?)


 オヤジはその炭の塊のような焼き鳥を「食ってみな」的な顔で差し出してきた。


(こ、これ食べるの?俺、死ぬの?)


「その焼き鳥を剣を振るみたいにやってみな」


 夏希は仕方なく受け取って、その焼き鳥を上から下に向けて振ってみた。


「おおー!」


 地面には焦げた部分が辺り一面に散らばっており、手に持った焼き鳥は普通の焼き鳥だった。


「見ただろ?俺のフェニーはよみがえったんだ。そして後で歩きながでも食べてみな。俺のフェニーはもう一度よみがえるから」


(焦げが落ちて焼き鳥小っちゃくなってるじゃん。もうこれビー玉サイズだよ…)


 夏希は渋々お金を払い歩き出した。


 そして手に持ったビー玉サイズの焼き鳥を食べる。


「確かによみがえったな。と言うか…冷めて肉がゴムみたいになって何度噛んでも口の中に残ってるもんな。はぁ…」


 夏希は気持ちを切り替えて商業ギルドを目指し、それから10分ぐらいて着いたのであった。


 商業ギルドは木造3階建ての大きな建物だった。中に入ると冒険者ギルドと同じ様なレイアウトだが、何故か清潔感のある空間となっていた。


 夏希は取り敢えず椅子に座る。そして視線は受付嬢に向ける。恒例行事の始まりだ。


 受付嬢は3人。(少ないな…悲しいな…)


 1番 背が高く細身で20代の眼鏡美人(人族)

 2番 背は普通の細身で20代の眼鏡美人(人族)

 3番 背が低く細身で20代の眼鏡美人(人族)


(ここの採用責任者は、こだわりが激強だな…)


 夏希は一番空いていた3番の列の後ろに並んだ。


「いらっしゃいませ。私はこの窓口担当のリリアと申します。本日はどの様なご用件でしょうか」


 順番がきて席に座るとお役所のような口調で3番リリアさんが尋ねてきた。


「夏希と申します。短期間ですが屋台を出すので場所の申請と屋台本体の貸出しをお願いしに来ました。詳しくないので説明して頂けるでしょうか」


 3番リリアさんは用紙を2枚取り出して机の上に置き話し始めた。


「場所の申請ですが、その場所はどちらでしょうか。また、その場所の持ち主に了解を得ていたりしますか?了解を得ていれば、こちらの申請用紙に必要事項を記入して提出してもらえば申請完了となります」


「場所は2ヶ所です。[ うさぎの宿屋 ]の前と北東にある孤児院の前です。了承はどちらも得ています」


「それでしたら申請用紙を提出して頂いた時点で完了となります。場所貸出料金は個人所有の場所なので不要で手数料のみとなります。ただし、1ヶ月単位での申請となっておりますので月をまたぐ場合は再度申請をお願い致します」


 判りやすい説明だな。


「屋台本体の貸出しですが、保証金金貨10枚、1日銀貨3枚の料金となります。申請当日から返却処理するまでの日数分を頂くようになります。屋台本体の種類は1種類のみです。あと申請後での屋台本体の保管は無料ですので必要な時に持ち出ししてください」


「判りました。説明ありがとうございました申請用紙に記入してきます」


 夏希は3番リリアさんに頭を下げ受付を離れた。


 その後、申請は滞りなく終わったのであった。

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