第90話 夏希とスズランの晩酌

 屋台を出す為ニアに相談した夏希。


 孤児院から戻り、夕食とお風呂を終えて宿の部屋でツマミを食べながらビールを飲む夏希。


「ぷはー、屋台を出す目処が少し立ったから気分もいいな。スズランはどうだ?」


 夏希の隣には、小さな白い鈴が連なる花飾りが付いたヘアゴムをしたスズランが居る。


「あむあむ、この箸巻きは旨いぞ。あむあむ、ソースとマヨネーズが、あむあむ、いい味を出しているのじゃ、あむあむ、売れるのじゃ」


 食べながらは話すの止めような。


「そうか、なら行けそうだな。こっちのフルーツ飴はどうだ?子供達喜ぶと思うんだけど」


「バリバリバリバリ、これも旨いのじゃ。子供達も喜ぶと思うのじゃ」


 最初から噛るなよ…


「髪飾り似合ってるぞ。姿は見えないけど雰囲気が良くなった感じだ」


「………」


 スズランは照れているようだ。


 それから2人は他愛もない話で盛り上がりながらツマミと箸巻きでビールを飲んでいた。


「夏希、ここらで余興をするのじゃ。ワレはまた物語が聞きたいのじゃ」


 少し酔ったスズランは、夏希の肩を肘でつつきながら催促してきた。


 ふむ、アレンジ物語をご所望だな。


「そうだな、じゃあ「シンデルラ姫」の話をしようかな。この物語の主人公は王子様が住むお城のある街に住んでいる女の子の話しだ。名前はアンナ・シンデルラだ。一応貴族の娘だ」


「お、今回は獣人村の小娘が主人公か」


 スズランは期待した目で聞いている。


「アンナのお父さんとお母さんは亡くなって、親戚のネネ夫婦に面倒を見てもらう事になった」


「ぎゃははは、いきなりラグとサーラは死んでるではないか。ふふふ、もう腹が痛い」


 スズランはビールを吹き出して笑っていた。


「ネネおばさんは自分の子供のカイルとルルを溺愛してるがアンナには意地悪をするんだ」


「ぶふっ、ネネはどの物語でも悪役じゃな。ルルは養女になったのか?ランカの娘じゃろ?」


「そうだな、娘が欲しかったみたいだ。続けるぞ。ある時お城の王子様のコンテが花嫁を探す為に舞踏会を開く事を街中に知らせたんだな」


「ザックの所のエロガキか?アイツは王子様と言うよりは、この間の物語で犯罪者になっておったが、そっちの方が似合っとるぞ。ぶふふふ」


 夏希はここでビールを飲んで喉を潤した。


「ネネおばさんは娘のルルを王子様の嫁にしようとしてな、可愛い顔のアンナが邪魔になると思い、アンナが準備していたドレスを破いたんだ」


「ふふ、さすがネネじゃ、腕力がある」


 そこが気になるのな。


「舞踏会に行けなくなったアンナは部屋で泣いていたんだけど、そこに森の魔女スズランが現れてアンナに魔法で色々と出してあげたんだ」


「おお、ここでワレの登場か!それもいい役ではないか。優しい魔女なんじゃな」


 スズランは自分の配役に喜んでいる。


「まずは部屋のカーテンをドレスに変えて、スリッパをガラスの靴に変えたんだ。外に出るとトレントを馬車に変え、ラグを生き返らせて馬にしたんだ」


「ラ、ラグ……登場してすぐ死んで、生き返ったらすぐに馬になったのか。ぐふふふ、腹が、腹が…」


 スズランは床にひっくり返って笑っている。


「アンナはラグの引くトレント馬車に乗ってお城に向かったんだ。舞踏会には間に合ってコンテ王子様と踊ったら、コンテ王子様はアンナに惚れたんだ」


「ふふ、コンテはアンナ推しだったからな」


「それから2人は楽しく踊ってたんだが、魔女スズランの魔法は夜の12時で切れてしまうんだ。それを聞いていたアンナは魔法が切れたらヤバイと思ってお城から逃げ出したんだ。その途中でガラスの靴が脱げてしまったんだな」


「裸足だと足に小石が刺さって痛いのじゃ」


 そこなのね…


「アンナはラグの引くトレント馬車に乗って家に戻ろうとしたんだけど、途中で12時になって魔法が切れてしまったんだ」


「あちゃー、間に合わなかったんじゃな。それでどうなったんじゃ!アンナは無事か?」


 スズランは続きが聞きたくて夏希の肩を揺する。


「魔法が切れてしまったら馬はラグに戻り、馬車はトレントに戻ったんだ。そしてアンナはトレントに戻った馬車から弾き飛ばされたんだ。でも怪我はしなかったんだよ。ただアンナはそのトレントを見てビックリ」


「ど、どうしたんじゃ?何があった!」


 スズランは喉を鳴らす。


「なんと魔法が切れて元の姿に戻る時にラグの体がトレントに飲み込まれていたんだ。顔だけ木から出た状態でな。それを見たアンナは言ったんだ」


「ぐふっ!そ、それでアンナはなんと?」


「ラ、ラグが死んでるわシンデルラ!」


「ぶはははははは、腹がー!く、苦しい……」


「ま、またラグが死んで…死んで…ぐふふふ」と言いながらスズランは笑いながら床を転げ回っていた。


「おしまい」

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