第64話 夏希と闇

 「闇」との死闘(?)の末、見事勝利した夏希。


 時間はまだ昼過ぎである。


 夏希はゴブリンの討伐を再開した。


 それからは特に「闇」から話し掛けられる事も無く、また夏希から話し掛ける事も無い時間が過ぎていった。


 今は帰路の途中だ。今日の戦果は午前と合わせてゴブリン22匹だ。(あとオークが二頭。アイテムボックスに入れたよ)討伐は順調だ。


「なあ、聞いてるか?闇ちゃんよ」


 夏希は歩きながら「闇」に声を掛けた。


「なんだ?ワレは少し眠たいのじゃ」


 目が覚めたって言ってたよな!


「いや、少しだけ話ししない?闇ちゃん」


「はぁ、少しだけじゃぞ。それとなんじゃ?その呼び方は…」


「だって名前知らんからな。なんて名だ?」


「……もう忘れたわ。適当に呼べ。闇ちゃんは無しじゃ」


 お!定番イベント発生~。これは腕が鳴るな!


 夏希は考える。


 闇から連想する夏希。悩むこと約5分。


「決めたぞ。お前はスズランだ。略してスズちゃんだな!意味とかは…お前は考える事判るから説明はいいよな?」


「いや、あの時はお前の考えを読んでいたが普通はそんなことしないぞ。先が判ると面白く無いからな。だから説明するのじゃ」


 それはいいことを聞いた。日常ずっと考えを読まれてると思わなくて済む。


「スズランは花の名前だ。暗い所でも咲く花でな、小さな鈴の形をしているんだ。白くてとても可愛いんだ。俺の好きな花だな」


「そして花言葉と言うものがあってな。まぁ、このスズランにも色々とあるんだ。その中で俺の気に入ってる言葉がある」


 夏希は少しだけ間を空けて話し始める。


「花言葉は [ 再び、幸せが訪れる ] だ。いい言葉だろ?」


「……………」


 少しの間、会話も無く歩いて行く。


「ワレは、もう寝るのじゃ」


 話し掛けてきたと思えばそう言って会話は終了した。


 街に戻りギルドの洗い場で汚れを落とした夏希は受付に向かう。(今日こそはショートボブちゃんと話すのだ。名前聞かないとな!)


 ………物欲しそうな猫ちゃんと目が合ってしまった。


「はぁ、清算頼むわ……」


 夏希はそう言ってニアにタグを渡した。


「また~、ため息は止めるにゃ。幸せが逃げるにゃ」


 今、逃げたよ…お前のせいでな。


「はいにゃ。ゴブリン22匹で金貨11枚にゃ。オークも二頭討伐してるけど持って帰って無いのかにゃ?討伐報酬だけなら金貨4枚にゃ」


「ああ、オークは討伐報酬だけでいい。今回も現金で頼む、両替は大丈夫だ」


 アイテムボックスの事どうするかな~。いずれは言わないと面倒だしな、近々言う事にしよう。今日は疲れてるからいいや。


「はいにゃ」


 ニアは報酬金の準備をしている。


 しばらくすると例の通い袋を渡してくるニア。


「はいにゃ。金貨15枚入ってるにゃ」


「夏希さん!話し変えるけどあのチョコじゃ無いお菓子はなんなのにゃ!食べ始めたら何故か止まらないにゃ。一度に全部食べてしまったにゃ。もう無いにゃ。明日はニア休みにゃ…どう責任を取ってくれるにゃ!」


 いや、なんだよ…俺が悪いのか?……ああ、少しだけ悪い気がする。


「また持ってきてやるよ。少しは我慢しろよ」


 ニアは涙目で俺を上目遣いで見る。(少し小首を傾げてるな……80点!!)


 夏希は机の上に手持ちで残っていたチュ○ルを置いて帰ったのであった。


 宿屋に戻った夏希は夕食と風呂を済ませ、部屋でビールとツマミを出して寛いでいる。


 何か毎日イベントあるよな?俺はラノベ主人公じゃ無いんだけどな…(はぁ、でもビールは旨いな!特に風呂上がりがな!)


「これは酒か?ワレにも寄越すのじゃ」


 うぉ!ビックリした。急に目の前に現れるなよ。(テーマソングでも鳴らしながら出て来いよ)


 夏希はアイテムボックスから数本のビールとツマミを出してスズランの前に置いた。(ビールのプルトップは開けてあげたよ)


「ぷはぁ~、冷たくてのど越しよくて旨いのじゃ!」


 スズランは一気に飲んで次のビールを自分で開けて旨そうに飲み始めた。


「スズランは飲み食いするのか?今までどうしてたんだ?」


「ん?ワレは食べなくても問題ないのじゃ。言わば嗜好品扱いじゃな。このツマミも行けるな!」


 バクバク食べてはゴクゴク飲むスズラン。


「夏希の出す物は旨いのじゃ。もっと出せ!影に持って入る。ほれ、ほれ、早う出せ」


 俺がコツコツと購入してる酒とツマミを…(ネットはこのトバルに来てから酒の自動販売機と化してるからな)


 夏希が出す酒とツマミをスズランはホイホイと影の中に投げ入れている。


「ワレはお前を見ているがそれだけじゃ。余程の事がない限り干渉はせん。だから自由に行動すればいいのじゃ。まぁ、飯と酒は珠になら付き合ってやるぞ?」


 そう言ってスズランは影に沈んだ。


 当面は放置で問題なさそうだな。


 夏希は1人でビールを飲み直すのであった。

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