第58話 最強の邪神具

ーーアリアス視点ーー


 魔力機関車の試運転は好調だった。


 走行のトラブルはないし、乗り心地は最高。

 しかも、両国間の距離120キロを、たったの2時間で着いてしまうんだ。


 徒歩なら3日。馬なら2日の距離が、たったの2時間だぞ?

 恐ろしいほどに便利だよな。


 僕の予想では、国の財源を1割以上と見込んでいたが、2割以上は増えるかもしれない。

 なにせ、運賃はジルベスタルで独占できるからな。莫大な財源となるだろう。


 しかも、その数割は鉄道ギルドに入る仕組み。

 加えて、僕は鉄道ギルドの相談役という位置付けになっているから、僕にもまで収入が入ってしまうんだ。


 やれやれ。

 これは毎日ビフテキが食えるな。

 

 このままいけば1週間後には国王に報告ができるだろう。


 国王の試乗会が終われば、晴れて両国同盟だぞ。


 ふふふ。

 順調順調。


「お兄ちゃーーーーん! 大変だよーー!」


 と、ヤミンがやって来た。


 彼女には鉄道ギルドの補佐の仕事をしてもらっている。


 ギルド長のレージャとは仲良くやっていて問題はないはずだが?


「何かあったのか?」


「これ!」


 そう言って、木箱を見せる。


 中には錆びついた丸い時計が入っていた。

 大きさは手の平サイズだろうか。


「危ないから気をつけてね」


 黒いオーラーを発しているな。

 なんだか禍々しいぞ……。

 素手で触るのは危なそうだ。


「なんだいこれ?」


「井戸の調査で出て来たんだけど。お兄ちゃんが購入した、あの金塊が出た近くだよ」


 今はその場所で飲水の調査をしている最中だ。

 ヤミンがリーダーになり、複数の魔法使いで地下水を探る。

 国境付近に駅を作る為だ。


 勿論、僕の地質調査は終わっているので王都領である。


 よって、出土した物は国の物なんだがな。


「魔法使いたちがね。これは相当に危険な呪具だって言うの。それで、城のオババさまに相談したら研究所で引き取って欲しいって」


 やれやれ。

 危険な呪具を研究所に任せるなんて、オババらしい嫌がらせだな。


「魔法使いギルドでは引き取らなかったんだな?」


「うん……。みんなに嫌がられちゃった……」


 たらい回しだな。

 そんな呪具を一人でここまで持って来たのか。


 凄い責任感だ。

 やはり、ヤミンを鉄道ギルドの補佐にしたのは正解だったな。

 

 これは褒めてやらねば。


「ここまで持ってくるのは大変だったろう。よく頑張ったな。よしよし」


「えへへ……。だって、仕事を任さられてるんだもん。それに、お兄ちゃんならなんとかしてくれそうだしね。にゃは、もっと撫でて♡」

 

 ふむ。

 そう期待されたのでは、なんとかしなくてはな。


 ヤミンは喉を潤しに研究所に入った。


 僕は外に残って魔法陣を描く。


 この陣を使って呪具の解析をしてみよう。


 そう思っていた矢先。


 陣の横に置いていた呪具を、カルナが手に持っていた。




「随分と古びた時計ね?」




 な!?


「おいカルナ! それを素手で持っちゃダメだ!」


「なんで?」


「説明は後だ! とにかくそれから手を離せ!」


「変なのぉ。なんともないのにぃ」


 と、木箱に戻そうとした瞬間。


 時計の周囲から、タコの足のような触手が何本も生え出した。


シュルシュルッ!!


「え!? 何、何!? 気持ち悪!?」


 それはカルナの体に巻き付き、四方八方に伸びた触手は蜘蛛の巣のように彼女の体を持ち上げた。


「きゃあああああああああッ!!」


「カルナァアアアアアア!!」


 この騒ぎに研究所のみんなは外に出る。


「カルナちゃん!!」

「ああ! カルナさん!!」

「あわわわ。騎士団長さんがぁああ」


 時計は大きな1つ目となって鋭い眼光を僕に見せた。


『我は邪神の魔計器。ダマンデウス!』


 魔計器だと?

 時計じゃなかったのか!

 そういえば、魔力計器のメーター部分に似ている。


『我は最強の邪神具なりぃいい!!』


 邪神具といえば、邪神が使うアイテムだ。


 これが発掘された場所は、1億年前に神々の大戦があったと聞く。


 その場所で邪神が落とした邪具だったのか。


「カルナを離せ!」


『グフフ……。そうはいかん。我は自由の身だからな。この世のどんな情報も数値化してやろう』


 数値化?


「なんのことだ?」


「この女、カルナ・オルセットか……』


「どうして彼女の名前を?」


『我は邪神の魔計器なるぞ! この世に存在するどんな情報も読み解くことが可能なのだ。ふはは!』


「どんな情報も?」


『そうだ! 試しに、この女の情報を計ってやる! スリーサイズは上から99、55、85センチだ』


 おいおい……。


「は!? ちょ、し、信じられない!!」


『体重は……』


「わぁああああああああ!! バカバカバカーーーー!! アリアスゥウ、耳を塞ぎなさーーい!!」


『続いてそこの女。ララ・ミルヴァーユだな』


「凄い。私の名前を当ててしまいましたよ」


『スリーサイズは上から98……56……』


「うわぁああああああ!! アリアスさん聞かないでくださぁああああいい!!」


 やれやれ。

 とんでもない邪具だな。


『お前の名前もわかるぞ。アリアス・ユーリィ』


「目的はなんだ?」


『愚問だな! この世に存在する全ての物を数値化することだ!!』

 

 ふむ。

 実害がない感じではあるな。


「なら、カルナを離せ。君には関係ないだろう」


『そうはいかん! この者を使って様々な場所に行き数値化をするのだ! 我は止められんぞ!』


「そんなの嫌よ! アリアス助けてぇええ!」


『グハハ! 助けを求めても無駄だ! 我を触ったが運の尽き! 観念するんだなぁあ!」


「うう……」


 やれやれ。


「そんなことはさせない」


『ふはは! 我は最強の邪神具! 邪魔者は殺す! 死ねぇええ!!』


 そう言って、触手を僕に向けた。


 ふむ。

 これで僕の体を貫こうというのだな。


 そうはいかない。




「ストライク ディフェンス!」

 


 

 僕の詠唱と同時。


 雷を帯びた透明の壁が出現。


 その壁が触手の攻撃を遮断した。



バチンッ!!



『ぐぬぅ!! 打撃無効の防御壁か!! 魔力量34!』


 ほぉ。 便利だな。

 瞬時に僕が消費した魔力量がわかるのか。


「しかし、大した打撃攻撃ではないな。貫けても魔石鋼くらいだろ」


『ぐぬぅうう! 我を愚弄するか!? 我は最強の邪具なりぃいい!!』


「最強にしてはお粗末な攻撃力だな。今度は防御力を見てやろうか。それファイヤーボール!」


『ぐぎゃあああああああッ!!』


 奴の触手はあっさりと燃えた。


 本当に最強の邪神具なのか?


 本体をカルナから離せばあっさりと勝敗がつきそうだぞ。


『ぐぬぅううう! 中々、やるな! しかし、それ以上攻撃してみろ! カルナの命はないぞ!?」


「うぐぅ! く、苦しい……」


 触手はカルナの首を絞めた。


「よせ! やめろ!!」


『フハハハ! 我は自由なりぃいいい!!』


 さぁて、どうやってカルナから離すか……。

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