第57話 ギルド長のスピーチ

 魔法使いのゼルガは僕に抗議した。


「待ってくださいアリアス所長! ギルド長は、みんなから信頼のある人間がなるべきでしょう!」


「うむ。一理あるな」


「そうでしょう! ならご再考を!」


「しかし、それ踏まえても僕の考えは変わらないんだ。ギルド長はレージャにやってもらうよ」


「なぜです!? あんな気持ちの悪い陰気な女がリーダーになれるわけがありません! さっきも見たでしょう。彼女は機関車に頬擦りしていたのですよ! 完全に変態です!!」


「別にその部分を評価しているわけではないさ。彼女にはみんなに知られていない良い部分があるんだ」


「どこにそんな部分があるというのです!? 気持ちの悪い陰気な女でしょう!!」


「見た目で判断するなんて愚かだな。君は100万コズンの宝石が落ちていたら拾わないのかい?」


「そんなのは拾うに決まっています! しかし、レージャと宝石では話が違う!」


「それが石ころに見えるダイヤの原石でも、君は拾うことができるかい?」


「げ……。原石ぃ? レージャが磨けば輝くダイヤの原石だと言いたいのですかぁあ!?」


「そうだ。だから、僕はチャンスをあげる。彼女が活躍できるかもしれないチャンスをな」


 レージャはブルブルと震えていた。


「ア、アリアスさん。わ、わた、私なんて、ギルド長の器じゃないです。じ、人望だってありませんしぃ……」


「それじゃあ辞退するかい?」


「はい。とてもできそうにありませんから……」


「この仕事が終わったら、また以前のようにギルドの仕事を一人でこなし、一人で夕食を食べる毎日を送るのかい?」


「そ、それは……」


「これはチャンスだよ。君には能力がある」


「わ、私に……?」


「ああ。自信を持つんだ」


「…………わ、私ぃ……。大きな仕事をしたくとも仲間がいないんです……。きっと……。ギルド長の仕事なんか上手くいきませんよ」


「仲間は今から作ればいいんだよ」


「今から?」


「そうさ。当然、僕も協力するしな」


「ア、アリアスさんが……。そうですか……。じゃ、じゃあ……」


「やってくれるかい?」


「はい! が、がんばってみます!!」


「よし! レージャ・インキャラー。君をギルド長に任命する!」


 その日はそのまま打ち上げたとなった。


 

 次の日。

 魔力鉄道の試験運転当日。


 僕はパンパンと手を叩いて注目を煽った。


「これからギルド長の挨拶がある! みんな心して聞いてくれ」


 レージャは頬を赤らめた。


「えーーと。いきなり私がギルド長になっちゃうなんて驚きですが、でも、とても光栄で、嬉しいです!」


 うむ。

 まずは自分の気持ちをみんなに伝える。

 上手い始まりだ。


「それでは……。まず、鉄道ギルドのあり方を伝えたいと思います。アリアス所長と話したのですが、今後もアリアス所長の援助を受けるという意味で、等ギルドは魔法研究所の傘下でいこうと思います。異論のある方はいるでしょうか?」


 これには全く異論は出なかった。

 なにせ、魔力機関車を作れるのが僕だけしかいないからだ。

 

 僕とギルドの縁が切れてしまっては魔法鉄道の運営自体が危ういからな。


「次に、私がギルド長でもいいかどうかです」


 場は騒つく。


「昨日の反応から、私がギルド長であることを反対している人間が大勢いると思いました。そもそも、このギルドは鉄道レールを敷く為に結成されたギルド。今後の運用を考えれば、みなさんに強制はできません。そこで、私がギルド長であっても良いかの決を取りたいと思います」


 ふむ。

 この話、僕は知らないが、レージャの考えたことみたいだからな。

 静観しようか。


 メンバーから不満の声が上がった。


「おいおい。レージャよ。この中には仕事が欲しい連中が大勢いるんだ。お前さんの印象を悪くしたんじゃ、クビになっちまうじゃないか。いくらあんたに不満があってもそう安易と意見を言えないよ」


「それも踏まえても、私の追い風が強すぎると感じています。だから、どうしても決を取りたい。当然、クビにはしませんから、一度、どれくらいの反対者がいるか教えてください」


 またもザワザワする。


 当然だな。


 レージャはどういう運営をしたいのだろう?


「それでは、私がギルド長だと不満がある人、手を上げてください」


 すると半数が手を上げた。


 うーーん。やはり多いな。


「色々な思惑はあると思いますが、今は半分の人間が不満があるのですね。これだと、ギルドの運営が難しいでしょう。その原因は、私の力不足。私では、みんなに利益を与えられないと思っているのですよね」


 みんなから声が上がる。


「そりゃそうだろ。レージャじゃあ、せっかくのギルドが潰れてしまうよ! そうなったらみんなが不利益を被る」


「全くそのとおりですね。では、これからみなさんにメリットを伝えますので、それでもう一度、考えてください」


「「「 メリットォ?? 」」」


 みんなが小首を傾げる中、彼女は胸を張って話し始めた。


「アリアスさんが考案した、この魔法鉄道は、どれほどの価値があるのか、みなさんはまだわかっていません」


「「「 なんだなんだ? お前だってわからないだろうが! まだ試運転すらしてないんだからよ! 」」」


「ええ勿論。私にだって、確実なことはわかりません。でも、ギルド長として想像はできるのです」


「「「 想像ぅう?? 」」」


「この魔法鉄道は、ここロントモアーズとジルベルタルをたった1日で往復します。安全に、しかも速い。これは歴史的快挙と言って良い。両国の特産品は頻繁に行き交い、人の交流も増えるでしょう。これは間違いなく爆発的な利益を生みます」


「でもよぉ。王室が入って利益を奪うって噂があるぜ?」


「それは交渉しだいですよね。レールを敷いたみんななら実感していると思いますが、これは専門職なんです。そこいらの魔法使いがふらりと参加して成り立つ仕事ではない。だから、強気に交渉ができるんです」


「「「 おおーー。確かにそのとおりだ! 」」」


「私は、この魔法鉄道が成功すれば、同盟国ザムザにもレールが敷かれると確信しています」


「「「 おお……。なんかスケールがデカイな……。でもそうかもしれんな 」」」


「そうなったら、今から働いている魔法使いは膨大な鉄道技術を身につけているのではないでしょうか?」


「確かに、今から技術を手にしていれば将来安泰だな」「これは美味しい話かもしれんぞ?」


「ですから、必ず、メリットはあります! 現に、この1ヶ月で大きな事故をした人はいないでしょ? 冒険者ギルドで働いていたら、モンスターに襲われて死亡することだってあるんです。それが、鉄道ギルドなら安全に働けて安定した給料が得られるのです」


「なるほどーー」「確かにメリットはあるな」「参加だけしておくのもありか」


「以上が、私が伝えたかったギルドのメリットです。では、それを踏まえて、もう一度お聞きしますね。今度は厳しくいきますよ。反対者は脱退してもらいます。私がギルド長で反対する者。手を上げてください」


 彼女の問いかけに、手を上げたのは20人ほど。

 ゼルガとその取り巻きだけだった。


 うむ。

 少々、強引ではあるが、後々のトラブルを考えれば、会心の一手と言っても過言ではないな。


 ゼルガは去り際に笑った。


「ハハハ! こんなギルドが繁栄するだと!? バカも休み休み言え! ギルドはギルド長の運営センスで決まるんだよ!! ここにいるのはセンスのない奴らばかりだ!! せいぜい根暗女と心中するんだな!! ハーーハッハッハッ!!」


 やれやれ。

 レージャは確信をついていたがな。


 それを理解できないのなら、どっちがセンスが悪いのか?


 しかし、これで邪魔者はいなくなったな。



「みなさん。こんな私ですが、ギルド長として、一生懸命がんばります! みんなでがんばりましょう!!」



 みんなは盛り上がった。


「こっちこそ頼むぜーー!」

「期待してますよギルド長!」

「さっきの言葉信じるからなーー!」


 ふむ。

 彼女をギルド長に任命して正解だったな。


 これなら上手くやってくれそうだ。


 レージャは汗だくだった。


「ア、アリアス所長、すいません。勝手なことをしてしまって」


「いやいい。見事な演説だったよ。流石はギルド長だ。僕の目に狂いはなかった」


「うう……。て、照れますぅ……。えへ……えへへへへへ。でゅふふふふ……」


 うむ。

 もとの性格は変わってないな。


「さて、それじゃあ試運転と行こうか! 魔力の調整を見るから、運転するのは僕がやる。みんなは乗客室に乗ってくれ」


 よぉーーし。


 初めは微量な魔力で行こう。


 運転席にある魔導部に魔力を注ぐ。


シュッ……シュッ……シュッ……。


 と音を出しながら、ジワジワと動き始めた。


 うん……。いいぞ。


 汽車は慣性が働いて、ジワジワと速度を上げた。




ゴォオオオオーーーーーーーーー!!




「よし。成功だ!」


 魔力機関車は凄まじい速度でジルベスタルに向かった。


「きゃほーー! お兄ちゃん、大成功だね!」


「所長! 風が気持ちいいです! それからこの走行の重厚感は最高ですよ! デヘ……デヘヘ」


 試験運転が終われば国王を乗せて試乗会だな。


 忙しくなるぞぉ。




ーーゼルガ視点ーー


 クソ!

 レージャの奴、調子に乗りやがって。


 あんな気持ちの悪い女がギルド長だなんて許せん!


 絶対に邪魔してやる。


「おい、お前たち! アリアスに恨みがありそうな奴を探せ! ギルド関連で仲間を募るんだ!」


「「「 はい 」」」


 フフフ。

 見てろよ。


 俺をギルド長にしなかったこと。

 必ず後悔させてやる!

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