第55話 過小評価な魔法使い

 魔法鉄道の建設が始まった。


 と、いっても工事業者を雇って作っていたのでは何年も掛かってしまう。


 なにせ両国間の距離は120キロなのだ。


 鉄を精製し、設置したのでは時間がかかりすぎる。


 だから、建築魔法のビルドを使って作っていく。


 流石に僕一人では魔力が足りない。


 そうなると、必要なのはビルドを使える魔法使いだ。



ーーロントモアーズ領 王都前ーー


 僕は、ロントモアーズの外交官、フォーマッドさんと協力して、両国から魔法使いをかき集めた。


 その数、約200人。


 この魔法使いたちを使って120キロのレールを敷く。


 僕はみんなの前で計画を伝えた。


「鉄道ギルドを作ろうと思う。今後、鉄道に関することはここで処理をする。だから、君たちはギルドに加盟してくれ」


 場内は騒つく。


 1人の魔法使いが自信なさげに声を上げた。


「あのぅ……。ギルドに加盟するのはいいのですがぁ……」


「なんだい? えーーと、君、名前は?」


「レージャですぅ。ロントモアーズの魔法使い」


 髪は黒に近い紫色。ボサボサで長髪の女だった。

 やや、目の下にクマがある。


 歳は20代だろうか。


 少し、陰気な印象がある。


「レージャ、質問はなんだい?」


「アリアス所長より受け取った、この計画用紙なのですがぁ、こんなビルドの魔法は使ったことがありません。これは私たちの知っているビルドではないような気がしますぅ」


 ほぉ、理解を早める為に簡易的に書いた書面なんだがな。


 よく見抜いた。


 僕のビルドは古代魔法のアレンジが入っているからな。

 だから、複雑で、繊細な物が作れるんだ。

 でも、その代わり、扱うには古代の知識が必要になる。


 つまり、魔法暦書を解読できる人間でない限り不可能なんだよな。


「我々の知っているビルドは、精々、大きな壁を作ることくらいでしょうかぁ? 精巧な鉄のレールを作るなんて、それは我々では不可能ですよぉ?」


「うん。それじゃあ、僕が魔法陣の設計式を紙に書くからさ。それを見ながらやってみてよ」


「そ、それでも、できるかどうか……」


 ふむ。

 この子は使えそうな子だな。


 自分の実力を熟知している。


「大丈夫。実演も兼ねるから、きっとみんなにもできるよ」


「はぁ……」


 彼女のため息は的を得ていた。


 丁寧に書いた設計式であったが、僕のビルドを再現できたのはレージャだけだったのだ。


「な、なんとかできましたぁ。へへへ……。5メートル程度ですが、綺麗な鉄のレールができましたよぉ」


 まいったな。

 200人いても、ビルドができるのが彼女だけでは意味がない。


 でも、どうして彼女だけができたのだろう?


「レージャはどんなコツを掴んだの?」


「コツというか……。アリアス所長が書いた魔法陣を再現しようとしただけですぅ。へへへ」


 うーーむ。

 それにしては他の魔法使いが腕を組んでしまっているな。

 再現するのが難しいんだ。


「この魔法陣で難しい所はどこだろう?」


「ここの数字ですねぇ。覚えるのが大変ですぅ」


「単なる魔力流動式じゃないか」


「そ、そう言われましてもぉ。魔法使いの我々ではさっぱりわかりませんよぉお」


「じゃあ、君たちが魔法陣を使う時はどうやってやるんだ?」


「修練をして、感覚でやってますね」


 それだ!


 僕たち設計士は感覚を数式化しているからな。


「所長が書かれましたこの魔法陣。習得するには10年は修行が必要かと思いますよぉ」


 そんなに待てないよ。


「じゃあ、魔法陣で使われている魔力流動式は、僕が大きく書いて別紙を配るよ」


「そうしてくれると助かります。えへへへ」


 それでも、初日は難航した。


 僕とレージャが指導に当たり、なんとかみんなが使えるようになった頃には日が暮れていた。


 魔法使いたちはそれぞれ帰っていく。


「あーーあ。根暗のレージャに教えられるなんてなぁ。屈辱だぜ」

「まったくだ。根暗のレージャなんかに、なんでこんな難しい魔法陣ができるんだよぉ」

「根暗のレージャ、気持ち悪かったなぁ」


 レージャは顔を伏せた。


「あはは……。わ、私ぃ。せ、性格が根暗なもんでぇ……。周りの評価が悪いんですぅ」


「実力はあるのにな。見た目で評価を決められるのは辛いな」


「じ、実力なんてぇ。ありませんよぉ……」


 えらく過小評価をするんだな。


「ところでレージャ。夕食はどうするんだ?」


「いつもどおりですね。1人で寂しく食べますよ。へへへ。それが私ですからぁ」


「ふむ。今日は随分と助かったからな。ご馳走するよ」


「えええ! わ、私……。誰かに奢ってもらうなんて、初めてですぅうう。い、いいのかしらぁあ?」


「大袈裟だな」


「だってぇ……。これは歴史的なことですよぉお。はわわわ。ちょっとほっぺた抓ってみますね! あれ? 痛くない!! これ夢ぇ?」


「……落ち着けよ。君の痛覚が鈍いだけでは?」


「あ、本当だ! えぐるように抓ったら少し痛いです!」


 やれやれ。

 僕たちはヤミンと合流した。


 彼女には、鉄道ギルドの事務処理を担当してもらっている。


 一人で仕事をさせてしまったからな。こっちのフォローもしないと。


「お兄ちゃん!」


 ガバッと抱きついてくる。


「問題はなかったかい?」


「うん。全部、綺麗に事務処理ができたよ」


「そうか、よしよし」


「えへへ……。もっと撫でて」


 レージャは、彼女を見て、瞳をキラキラと輝かせた。


「はぁあああああ! 可愛いぃいいいい!!」


 ガバッ!!


 とヤミンに抱きつく。


「え、ちょ、ちょっとぉおお!! お兄ちゃん、この人誰ぇええ?」


「お人形さんみたいぃいい! 可愛いぃいいいい!!」


 シュリシュリと、ほっぺたがこそげ落ちそうなほど擦り付ける。


 なんとかレージャの手を振り解いたヤミンは、僕の後ろに隠れた。


「うう……。お兄ちゃん助けて」


 いつもはみんなに抱きつくヤミンだが、抱きつかれるのは苦手なのか。


「怖がらなくていいよ。今日、お世話になった魔法使いだからさ」


 互いに自己紹介をして、レストランを選ぶ。


「ウーマのレストランに行こうよ。あそこは料理が美味いんだ」


「あ、その店に行くなら、私、ちょっと着替えて来ます!」


 そう言ってレージャは自分の家に帰った。


 そこまでドレスコードにはうるさくない店なんだがなぁ。


「お待たせしましたぁ」


 ほぉ。

 紫色のシルクのドレスがよく似合う。


 それは、化粧もバッチリして、見違えるような美人になったレージャだった。

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