第54話 ギャンベリック卿と密約
僕は環境大臣のギャンベリック卿に会いに行った。
ちなみに、この大陸の環境大臣の仕事は、領土の管理、そして生活のインフラを担当する。
インフラというと難しく聞こえるかもしれないが、井戸水や下水の管理、魔法照明なんかを保全している。
その延長線上に魔法設計があるのだ。
よって、魔法研究所は環境省の管轄。つまり、ギャンベリック卿は僕の上司ということになる。
「なんです。また、来たのですか?」
と、ギャンベリック卿は不機嫌そうに丸渕眼鏡を上げた。
ふふん。
今日は土産話があるんだ。
「良い話を持ってきました」
「ほぉ……。どんな話ですか? くだらない鉄道の話なら追い出しますよ」
「その話は一旦、忘れましょう。あなたにとって有意義な話です」
「フン……。どうせ、くだらない話でしょう。手短に頼みますよ」
「実は今、地質調査をしています」
「そのようですね。国王の許可を取ったとか? 私を素通りするなんて良い度胸です。ま、小規模の土地らしいですし、王都が出資しないというから自由にさせていますが……」
「おかげさまで、順調にことが進んでおります」
「ふん。地質調査なんてしても無駄ですよ。魔法鉄道は私が許可しませんからね」
「今日はそのお考えが変わるかと」
「何を伝えたいのです? 要件を早く言いなさい」
僕はニッコリと笑った。
間を置いても十分に彼のイライラを解消できるんだ。
「僕の地質調査で凄い物が出土したのです。驚きますよ?」
「な、なにが……出たのです?」
僕は懐から小さな物体を取り出した。
それは土のついた、ジャガイモのような塊。
「証拠の為に持って来たのですが……」
さて、どんな顔をするかな?
「金塊が出土しました」
ギャンベリック卿は深々と座っていた椅子から、身を前に乗り出した。
「なんですとッ!」
「これは、ほんの一部」
「そ、そ、それは全部でいくらくらい埋まっているのです!?」
「4億はあるかと」
「よ、4億!?」
と、目を見張る。
「ははは……。4億の金塊ですか……。して、このことは国王には?」
「まだ、伝えていません」
「何!? では、王室でこのことを知っているのは、あなたと私だけ!?」
「そうです」
「でかした!!」
ギャンベリック卿はほくそ笑む。
「そうか……。ククク……。国王は知らない……」
「お喜びいただけましたか?」
「あ? ああ。まぁな。よくやった褒めてつかわす」
「それは良かった」
「もう良いから出ていきなさい」
「は?」
「なんだその顔は! 少しくらいは褒賞金を出してやる。だから、出ていきなさい。あとは私の方で処理しますから。ククク……」
「そうはいきません」
「なんだと?」
「私が部屋を出て行けば、あなたは大臣の権限を活用して、金塊の場所を抑えるでしょ?」
「勿論です。地質調査なんて中止! 私の権限の元、王都の財源になる発掘調査に切り替えますよ。あなたのくだらない魔法鉄道なんかに、その土地は使わせません」
「だから、それがそう上手くいかないと言ったのです。なにせ、あの土地では、まだ、僕の地質調査が行われていますからね」
「フハハ! あなたの権限より、優先するのは大臣の私です。金塊が出土した今、地質調査とは目的が違ってきます。つまり、国の所有物を私が権限を持って掘り起こすのです!」
「残念ながら、僕が金塊を見つけましたからね」
「ハハハハ! あなたは底抜けなおバカさんですね。領土の理屈を知らない。あなたが第一発見者だろうと、あなたの土地じゃないのです。いくら権限を持っていようと、出土した物は王都の財産なんですよ!」
「ええ。十分に心得ていますよ」
「だったら、もうわかったでしょう。あとは私に任せて、あなたは出ていきなさい!」
「ああ、それがそうもいきません」
「なんだと?」
「あの土地は僕の土地なんです」
「しつこいですよ! あなたのような貧民が、王都の土地を所有できるはずがないでしょう! どうしようもない無能ですね!」
僕は国王の承諾証を見せた。
「これ。国王から承諾を貰いました。地質調査が終わるまでは、あの土地は僕の物です。出土した物も全てね」
「な、何ィイイイ!? なんですってぇえええ!?」
「勿論、地質調査は終わっていません。ですから、この4億の金塊は僕の物なんです」
「くぅうううううううううううッ!!」
状況が読み込めて来たかな?
「それではビジネスといきましょうか」
「ビ、ビジネスだと!?」
「この金塊の権限をあなたに譲る代わりに、魔法鉄道の指揮権を僕に委ねて欲しいのです」
「そ、そんな……!」
「勿論、失敗した全責任は僕が取ります」
「うう……」
「それに、両国間の同盟が上手くいけば、その功績に、あなたの名前を加えても構いません」
「何!? そんな偉業に私の名前を?」
「ええ。悪い話ではないでしょう?」
「う、うーーーーむ……」
悩む必要なんてないさ。
あなたはノーリスクで金塊を手に入れ、しかも名声が手に入る。
失敗すれば僕の責任なんだ。
良いこと尽くめじゃないか。
「勿論、あなたが断れば、僕は全ての金塊を掘り起こしますので、4億は全て僕の物になりますね」
「う、うむぅ……」
それに、このことも伝えておこうか。
「僕は同盟が終われば、外交官を辞任して、所長に戻ります」
「何ぃ……? 嘘をつくな。こんな偉業が成功すれば大臣にもなれるんですよ!」
「興味ありませんね。僕は所長をしながら、のんびりと暮らしたいんです」
「出世を目の前にして、所長に拘る人間なんていませんよ」
「ここにいますよ。現に僕は、所長と外交官を兼任しています。出世したいのなら、所長は辞めるはずです。これは国王にも伝えていますしね」
「……か、変わった人ですね?」
「ふふふ。よく言われます」
さぁ、これで何が不満だ?
あなたの存在を脅かすライバルもいなくなったぞ?
「わ、わかりました。魔法鉄道事業の全指揮権をあなたに委ねましょう」
よし! 上手くいった!
「では、早速、魔法の契約書を交わしましょう」
これで約束は絶対だ。
しかし、この契約書には僕にもリスクがある。
例えば、ギャンベリック卿が金塊を見つけられなかった場合。
嘘をついた僕には雷が落ちてしまう。
勿論、彼が魔法鉄道に首を突っ込んで来ても落ちる。
だから、絶対に、両者は約束を守らなければならないのだ。
翌日。
王都新聞には、ギャンベリック卿が金塊を発掘した記事が載った。
「2億の金塊が発掘!! 王都の財源に!!」
という見出しだ。
4億が2億ねぇ。
半分も抜くなんて大胆だが、そこは僕の預かり知らぬことだからな。
この発見で、財源を得た王室はギャンベリック卿の評価を上げるだろう。
彼に取っては、大金も手に入るし良いこと尽くめだな。
僕も気兼ねなく計画が進めれるし、みんなウインウインだ。
さぁ、魔法鉄道の建設に取り掛かろう!
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