第51話 5億コズンの土地を買おう!

 フォーマッドさんは、5億の金塊を目の前にして悔しがった。


「くうう! ここはジルベスタル領だからなぁ! 我が国の領土なら財政が潤ったのにぃい!」


 真面目だなぁ。

 この金塊を自分の物にする気がないんだ……。


 申し訳ないけど、僕は善人じゃないんでね。


 ふふふ。

 なんとしても手にいれるぞ。この金塊。


 大収穫だ。

 最高の視察だったな。



 夜。


ーーオッツ婦人邸ーー


「あ! いや、婦人の家に泊まるのは申し訳ないですよ!!」


 とフォーマッドさんは恐縮する。


「構わないでください。あなたお1人では宿屋に行っても大変でしょう」


「それは、そうですが……。しかし、女性の家に男が泊まるなんてことは……。あ、あなたに変な噂が立っては申し訳が立ちません」


「お気になさらずに。部屋はたくさんありますし。メイドが2人おりますから」


 彼は悩んだ挙句、キラキラとした目になって婦人を見つめた。


「あなたは何から何まで……。本当に天使のような人だ……」


 フォーマッドさん……。

 婦人を見つめる時は、目だけがイケメンになるんだよな。


 青髭だから愉快な顔になるんだ。


 この人は本当に憎めない人だなぁ。


 翌日。


 オッツ婦人から驚きの言葉が飛び出す。


「キキとルル、そしてメンネは、私が預かります」


 おっと……。

 まさか、ここまで面倒見が良いとは。


「勿論。フォーマッドさんが、この子らの面倒を見てくれる人を探す間だけですけどね。ま、奥様が帰って来るのが最もいい形でしょうけど」


 フォーマッドさんは顔を伏せた。


「彼女は帰って来ないですよ……」


 と確信づく。


 そういえば、奥さんとの馴れ初めを聞いていなかったな。


 彼女が帰って来るような、解決の糸口が見えればいいけど。


「フォーマッドさんって、その人とどうやって知り合ったんです?」


「あいつとは……。レミエラとは酒場で知り合ったんだ。美しい女だったよ」


「へぇ……。運命的な出会いがあったと?」


「いや、レミエラは酒場で情婦をしていた。男に逃げられてな。困っていたんだ」


「ん? 男に逃げられた??」


 僕と婦人は顔を見合わせた。


「ははは。この子たちはレミエラの連れ子なんだ。私はこの子たちが不憫でね。長女のメンネはまだ3歳だというのに、レミエラは暴力を振るうんだ。見てられたなかった……」


「そ、それで……。け、結婚しちゃったんですか?」


「ははは……。まぁ、そうだな」


 お人好しーーーーーーー!!

 

 この人、底抜けにお人好しだなぁ。


「い、1ヶ月くらいは上手く行ってたんだがな……。なはは……。結局、逃げられてしまったよ。レミエラは子供の世話が辛くて仕方がなかったんだ。私は彼女を変えれなかった。全部……。わ、わた……。私の責任さ……うう……。うううう」


 彼の涙は、振り子のようにカチンカチンとぶつかった。


「どぼじで、どぼじでぇ、こうなっちゃったのかなぁあ? たはぁあ。うううう……」


 あなたがお人好しだからだよぉ。


 ああ、もう見てられないなぁ。


 オッツ婦人は彼のネクタイを締めた。


「泣くことはありません。あなたは立派です」


「うう……」


赤ちゃんは、私がちゃんと面倒をみますから、あなたは安心して外交のお仕事を頑張ってください」


 フォーマッドさんは、瞬時にイケメンの目になっていた。

 振り子涙はどこへやら?


「オッツ婦人……。あなたのおかげで私は生き返りました。あなたは天使だ」


 やれやれ。

 この人、基本的に女好きなんだろうな。


 さて、子供の件は解決したから、次は環境大臣だぞ。


 フォーマッドさんは宿屋を借りてそこで外交官のレポート作成に入った。


 僕は土地関係が知りたい。


 領土管理局に行こうか。




ーージルベスタル領土管理局ーー


 ここは国の領土を詳細に管理してる場所だ。


「土地が欲しいのですが、買い取る方法を教えてください」


 局員はネズミみたいな顔をしており地方訛りが凄かった。


「はぁ……。まんず、土地の説明からするっぺよ。よお聞きなされよ」


 喋り方、独特だなぁ……。


「国の領土つうのはな。基本的には、王都領と貴族領の2つに別れとんだぁ。んで、庶民の土地つーーのは、一つもねぇえんだな。みんな土地を借りて暮らしとんだべさ」


「それはわかっています。できれば買取りたいのですが?」


「庶民は無理だぁ」


「そこをなんとか?」


「無理だってばよ」


 うーーん。

 

「所有者に借りるしか方法はないっぺなぁ」


 それは避けたいんだ。


 金の発掘がバレたら所有者の権限が発動してしまう。


 絶対に僕の物になんかならないだろう。


「えーーと、あんた、どっかで見た顔だなぁ? 職業はなんだべさ?」


「僕はアリアス・ユーリィ。魔法研究所の所長と、外交官を兼任しています」


「そんだぁああ!! あんたジルベスタル恋慕情の人だなやーー!! おっかぁ! すんごい人が来てるっぺよぉおお!! わしら夫婦で、あの歌が大好きなんだーー! サインくんろぉおお!!」


 ははは。

 

「土地を買い取る手段を教えてくれたらサインしてあげますよ」


「困ったなやぁ〜〜。いくら外交官でも土地は買えんっちゃよぉ」


 うーーん。

 ここまでかぁ……。


「一応、外交官なら王室の人間だぁ。土地を売買する権利だけは持っとるだーーよ」


「ほぉ……」


「でんも、通常は国王の指示の元、土地の売買を代理するだけで、大した権利でもねーーけんどもなぁ」


 いや。

 そうでもないぞ。


 僕の行動は国王に一任されているんだ。


 欲しい土地を王都名義なら購入できるのか!


 それに、あの場所が王都領なら買う必要もない。


 僕は、局員に地図を見せた。


「ここ! この国境付近はどこの領土ですか?」


「えーーと。申し訳ないけんど。領土情報の提供は環境省の許可がいるんだぁ。ギャンベリック卿から許可証は貰っとんかいのぉ?」


 あるわけがない。

 そもそも、取るつもりもないしな。


 金塊のことなんか知られたら、たちまち独占されてしまうよ。

 だから、絶対に奴には感づかれたくないんだ。


「許可証が無いと教えられませんか?」


「申し訳ないけんど……。それがルールだからなぁ」


「サイン……。欲しくないんですか?」


「う……」


「教えてくれたら……。サイン書きますけどねーー」


 そう言って、地図の場所をトントンと叩いた。


「あーーコホン!! 今から、独り言を言うべぇーーよなぁ。えーーと、その辺りは、ゴーツック伯爵領だなぁあああっと」


 ゴーツック伯爵領か。

 残念ながら王都領ではなかったが十分な収穫だ。


「とても助かりました!」


 と、僕は自分の曲が記録された魔法石の箱にサインを書いた。


「ふはーーーー!! 家宝にするっぺぇよぉおお!!」


 そんなに喜んでくれるのか、仕方ない、サービスだ。


「ぼ・く・の〜〜。悲、恋〜〜。ジルベスタルゥウゥウ〜〜♪」


「ぬおおおおおおおお!! 生歌キターーーー!! 最高なやーーーー!!」


 ふふふ。

 近づいてるぞ5億!

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