第40話 アリアスが……

「アリアスさん……。ごめんなさい……。うう……。ううう」


 シンはボロボロと涙を流す。


 これは、僕への謝罪もあるだろうが、自分への不甲斐なさにやりきれなくなっているように見えるな。


「アリアスはん! これには深い訳があるんよ。シン所長はうちを守る為に魔研連の配下になったんや……」


「キレミを守る?」


「そうやねん。シン所長が加入せんかったらうちは魔研連に殺されていたんや」


 なるほど。


 キレミの命を盾にされたんじゃ、断れないよな。


 シンはキレミが好きなようだし、尚更か。


「だ、だからと言って……。私は……。うう……。兵士を見殺しにしてしまうところでした」


「ラジソンは卑劣な男だからな。動けなくなるのもわかるよ」


 それに、シンは魔法の契約書を書かされていたからな。


 全てはラジソンの命令だ。


「うう……。ア、アリアスさん。私は自分の背負った罪に一生悩まされるところでした。うう……」


「君が僕の呼びかけに応えてくれたからだよ」


「うう……。アリアスさぁん……。ありがとうございます。ううう」


「アリアスはん。うちもほんまに感謝してます。シン所長を救ってくれてありがとう」


 誰にも相談できずに一人で……。


「うう……」


 もっと安心させてあげようか。


「さっき。ラグーザから契約書を受け取ったんだ」


「え?」


「ほら、ロントモアーズが魔研連に加入している契約書さ」


「あ……」


「魔法契約の解除をさせるサインも貰ってある」


「あぁ……。ああ……」


「これで魔研連とロントモアーズは無関係だ」


「あああああ……」


 シンは更に泣いた。


 崩れるように僕に寄りかかる。


 抱きしめてやろう。


「シン……。よくがんばったな」


「あああああ……。うう……。アリアスさぁあん。アリアスさぁあああん! ありがとうございますぅううう!!」





 イベントを締め括るのは国王の挨拶である。


 僕は国王の前に呼び出され、褒賞金を受け取ることになった。


 場内が拍手の音で包まれる中、国王は僕と握手する。


 そして、顔を寄せて、誰にも聞こえないように話し始めた。


「魔研連がジルベスタルに来たら、大陸は大変なことになっていたな。内陸戦争の始まりだろう」


 やれやれ。

 魔研連の脅威を知っていたのか。


「君なら、なんとかできると思ったが、予想どおり勝ってしまったなぁ……。つまらん」


 おいおい。

 つまらんってなんだよ。

 国の平和が維持されたんだぞ。


「アリアス……。君はどうやったら負けるんだ?」


 はぁ……。

 僕はこの人のおもちゃじゃないんだけどな……。


「国王……。お戯れが過ぎると、大火傷しますよ」


「ふん……」


 と、つまらなさそうに席につく。


 明後日の方向を向くと、独り言のように呟いた。


「オババには、大好きな干し芋のオヤツを1ヶ月禁止させることにした。……それで許せ」


 元はといえば、オババが魔研連を連れて来たことが発端だ。


 国の平和を脅かす大事件。


 その首謀者の罰が干し芋の禁止か……。


「君が思っているより、オババは干し芋が好きなんだぞ。見てみろよ、アレ」


 と、その視線の先には、大臣から説明を受けるオババがいた。


「なんで私の干し芋が禁止なんじゃい!! 老い先短いこの私の唯一の楽しみを取るでないーー!! ムキィイイイイイイ!!」


 国王は眉を上げた。


「ほらな?」


 やれやれ。

 ま……。オババは魔研連の恐ろしさを知らなかっただろうからな。


「勿論、隠れて食べぬよう、魔法の契約書を書かせるから安心しろ」


 なるほどね。

 隠れて食べれば雷が落ちるのか。


「的確な采配かと」


「ふん……」




 僕は観客から大歓声を受けて称賛された。


「最高だぜ、アリアス所長!!」

「これからもよろしくねアリアス所長!!」

「キャーーカッコいいわ所長!!」


 実況のアンナは声を張り上げた。


「勝者には褒賞金の他に副賞が用意されております!」


 副賞?

 それをわざわざ大声で言うのか?


「王室よりオリジナルソングの贈呈となります!!」


 は?

 オ、オリジナルソングゥウ?


「曲名は『ジルベスタル恋慕情』。カルナ騎士団長の『恋のジルベスタル』同様、来月のリリースになります!」


 いやいや。待て待て。

 聞いていないぞ。


 しかも、曲調はカルナの歌とは真逆で、拳の利いたバラードだった。


 絶対売れんだろう……。


 ってか、僕は絶対に歌わないからな!


 全力で拒否だ。


 こうして、イベントの盛り上がりは最高潮に達し、幕を閉じた。


 王都は大賑わい。


 今夜だけは、どこの酒場も満席である。


 その日の内に号外が配られ、僕の勝利は王都中に広まった。

 

 その記事には、先日書かれた僕の記事が誤りであったと、しっかりと記載されていた。


 無事終わったな……。




 と思ったら、


 翌日には歌の練習をすることになった。


「ぼ・く・の〜〜。悲、恋〜〜。ジルベスタルゥウゥウ〜〜♪」


 って、なんで僕がぁあああ!!


 王室からの指示は強制だった。


 ニヤつく国王の顔が頭に浮かぶな。


 その歌声は魔法石に記録されて販売された。


 カルナの歌は、老若男女に関係なく大ヒットを記録。


 僕の歌は、40代以上の大人たちに絶大な支持を得ることになった。


 うーーん。

 なんだこの結末?


 若干、罰ゲームのような……。


 


 


 

 それから1ヶ月が経った。

 王都民の熱が冷め、いつもの日常に戻った頃。


「アリアス大変よーー!!」


 と走ってきたのはカルナである。


「国王から直々の召集がかかったわ!!」


「誰に?」


「あなたによぉお!」


 ララは書類整理をしていた手を止めた。


「所長凄いです!! 研究所の所長が国王からの勅なんて、中々ありませんよ! 相当な名誉だと思います!!」


 国王が僕を呼ぶなんてな……。

 今度は何を企んでいるんだ?




 僕は王室に通された。


 そこには10人を超える大臣が鎮座する。


「やぁ、アリアス。元気にしてたか?」


「はい。おかげさまで」


 変な歌は歌わされたがな。


「あのイベントをきっかけに、ロントモアーズとの交流が盛んになった」


 そういえば、観客にはロントモアーズの大臣連中も来ていたな。


 あれが、国際交流に繋がったのか……。


「近々、同盟を結ぶことになるやもしれん」


「へぇ……」


 凄いことになったな。


 しかし、それと僕が呼ばれたこととどう繋がるんだ?


「君には大きな権力を与えよう」


「え?」


 け、権力?


「ジルベスタル魔法研究所 所長。アリアス・ユーリィ。君を──」


 国王の言葉に耳を疑う。


 なぜだ?


 どうしてそうなる?







「ジルベスタル外交官に任命する」






 外交官といえば王室の人間だ。

 研究所の所長とは格が違う。


 やれやれ。

 これは相当な身分になってしまったぞ。

 

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