第14話 ビッカの苦悩 【ざまぁ】

【ビッカ視点】


 秘書のミミレムは汗を垂らした。


「所長。研究所全体の仕事量が遅れています」


「何ィイイイ!?」


「人手が足りません」


 どうなってんだまったく。

 

「チッ! 無駄な出費が止まらんな」


 我が研究所は、どういうわけか、人手不足に陥っている。


 仕事量はいつもと変わらないのにだ!


 仕方がないので増員した。


 設計士を7人、事務員を3人も雇ったぜ。


 たった4年で1億コズンという裏金を貯めに貯めたというのに。


 これじゃあとても貯める余裕なんてない!


 しかし、仕事を熟さなければ裏金も貯まらん。


 10人も増員するなんて俺らしくないが、研究所の仕事は遅れているからな。


 これで立て直しができれば、再び裏金工作に走るとしよう。

 

 と、考えていたのだが、

 今は経理のキレミに詰め寄られている。


「所長! いい加減にしなはれや! 経費のことをもう少し勉強しなはれ!」


「なんのことだ? 俺の仕事はいつもと変わらんだろう」


「こっちは変わりますよってな! 人手が足りまへんのんや!!」


「バカ言うな。事務員を3人も増やしたのだぞ! 経理の仕事が大変なら手伝ってもらったらいいだろう」


「あんさんの提出書類が多すぎて仕事が追いつきまへんのや!」

 

「じゃあ総出でやればいいだろう」


「やってます! 4人全員で経理をやってますけどなぁ、まだ足りまへんのんや!!」


「なにぃい!? 4人で経理をやって足りないだとぉ?」


「所長が無駄な経費書類を提出しまくるから、その対応に追われまくってますんやで!!」


「うるせぇえ!! てめぇは粛々と仕事してりゃあいいんだよぉおお!!」



バンッ!!



 と机を叩いたのはキレミの方だった。

 そこには手紙が置かれていた。


「なんだ、これは?」


「辞表ですわ」


「は? な、何も辞めることはないだろうが!?」


「もう耐えられまへん」


「いや、しかしだなぁ」


「しかしもカカシもおまへん!」


 このぉお、調子に乗りやがって、この田舎もんのクソアマがぁああ!!


「自己都合なら退職金は出さんぞ!」


「はぁ……。まぁ、あんさんならそう言うやろと思ってましたわ。王都の法律はまだまだ職場に有利でんなぁ」


「ははは! 給料の管理は所長に管理権があるからな。金が欲しいなら辞めないことだな」


「ええです。うちも覚悟を決めました。退職金なんかいりまへんわ」


「な、なんだと!? 貴様正気か!?」


「あんさんの運営には辟易してたんどす。ほなさいなら」


「ま、待て!!」


「アリアスはんがいた頃が懐かしいですわ」


 そう言い残してキレミは去って行った。


 ア、アリアスだとぉ!?

 奴がいたからどうだというんだ??


 研究所のトラブルはこれだけではなかった。


 仕事の進行が完全に停滞したのである。


「おかしいぞ。仕事が進んでないじゃないか!! てめぇら手を抜いてんじゃねぇ!!」


 研究員は頭を抱えていた。


「設計の計算式が難しくて進まないんです!! 今まではアリアスさんが助言してくれて助かっていましたが、彼がいないとわからないことだらけで……」


「そんなバカな!? 貴様ら、それでも設計士か?」


「無茶言わないでくださいよ。この国の魔法って、もう限界値を超えて改善されているんです。これ以上どうやって設計すればいいのやら」


「い、今まではどうやってやっていたんだよ!?」


「ですからアリアスさんが……」


 こいつもアリアスか!


 だがな、


「人を増やしてるんだぞ! なんとかみんなでやらんか!!」


「それが……。みんな体調が悪いらしくて元気が出ないんです」


 そういえば5人ばかし休んでいたな。

 

「緑の斑点が身体中に現れるんです。私も……。ゴホッ! ゴホッ!!」


 う!


 こいつの顔に緑の斑点があるぞ。


 これは王都の流行病だ!!


 確か、薬はすでに完成しているはず。


 騎士団長のエマに聞けば融通してくれるだろう。




 俺は騎士団長の元へと向かった。


「研究員が流行り病に冒された。薬を融通してください!!」


「薬の数は決まっている。僧侶ギルドに援助をしてくれた組織には率先して配布するようにはしているがな」


「ああ! だったら私の研究所は多額の援助をしていましたよね? 研究費をそちらに回したはずだ!!」


「それはアリアスがいた時だけだ。あなたは援助を打ち切ったあげく、返金を求めたではないか」


 うぐぅッ!! そうだったーー!!


「し、しかしですねぇ……。研究所が滞れば王都の魔法経済に打撃を与えますよ?」


「確かにな、それで研究所用には1本だけ用意した」


 い、1本だけだと!?


 ま、まぁいい。


 俺だけでも助かれば御の字か。


「じゃあ、それをください!」


「キレミが持って行ったぞ?」


「何ィイイイイイイイイイイ!?」


「これ、所長が来たら渡してくれと頼まれた」


 それは一切れのメモ用紙だった。





『退職金の代わりに貰っていきますわ♡ キレミ』




 あんの野郎ぉおおおおおおおおおおおおおおッ!!


「キレミは研究所を辞めたんだ! だから俺の元には届いてないんですよ!!」


「そう言われてもな。僧侶ギルドに援助をしてくれた団体を優先しているんだ。まだまだ薬は足らないからな」


「そんなこと言わずに1本だけでいいから!!」


「そもそも薬が足らないのは資金不足が原因なのだぞ。魔法研究所がもっと援助をしてくれたら、薬の量も余裕があったろうな」


「うう……」


「アリアスがいたなら、こんなことにはならなかっただろうな」


 くっ! 


 こいつもアリアスか!


 どいつもこいつもアリアスアリアスと連呼しよってぇえええ!!


「もういい!! 魔法研究所がどうなっても知らんぞ!!」


「それは騎士団長の私の責任ではないだろう?」


 ク、クソアマがぁああああああああ!!



 俺は研究所へと戻った。


 クソォ、どうすればいいんだ?


 このままでは研究所が破綻してしまうぞ!


 やはりアリアスには早急に戻ってきてもらうのが得策か。


 悔しいが奴の実力は確かなようだ。


「死んでいなければいいが……」


 俺は奴をハメて国外追放にしたからな。


 モンスターに襲われて死んでいるかもしれん。


 そこに副団長のバラタッツが長旅から帰って来た。


 こいつにはアリアスを見つけるまで帰ってくるなとキツく言いつけてある。


 帰って来たということはなんらかの結果があったんだ! 


「ア、アリアスは生きていたのか?」


「や、奴はジルベスタルの魔法研究所にいました」


「おお! そんな所にいやがったのか!!」


 グフフ! 運が回って来やがったぞ。


 奴さえ戻ればこの研究所は復活する。


 なにもかも上手くいって、再び裏金が貯めれるぜ!


「で、アリアスはどこだ!? 連れて帰って来たんだろ?」


「そ、それがぁ……」


「どうした!? 今、研究所は大変なんだぞ!? アリアスを直ぐにでも働かせるのが得策なんだ! 騎士団長の説得もやらせよう! 奴なら薬を貰えるはずだ!!」


「いや、あのぉ……」


「ア、アリアスは!? トイレか!?」


「そ、そのぉ……」


 は?


「ま、まさか……。会えなかったのか?」


「あ、会うことはできました」


「なんだ……。だったら」


「…………」


「お、お前……。手紙は渡したんだろうな?」


「はい……」


「だったら来るだろう! 3倍だぞ3倍!! 給料を3倍にしたあげく、22冊の魔法暦書が読み放題なのだ!! こんな好条件があるか!!」


「そ、その手紙なのですがぁ──」


 手紙がどうしたというのだ?





「ビリビリに破かれました」





 何ィイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!?



「なぜだ!? どうして!? 好待遇に好条件! 何が気に入らんと言うのだぁあああああああ!?」


「ジルベスタル魔法研究所の方が条件が良いみたいです」


「クソがぁああああ! この恩知らずめぇえええ!!」


「恩など微塵もないと言われました」


「ぐぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」


 クソクソクソクソクソクソがぁああああああああ!!


 俺は所長室のあらゆる物を破壊した。


 クソクソクソクソクソクソォオオオオオオオオオ!!


 アリアスのクソ野郎がぁあああああああああああああああ!!


 秘書のミミレムは混乱する。散乱した家具の木片が当たる。


「ちょ! 痛っ! お、落ち着いてくださいビッカ所長!!」


「これが落ち着いていられるかぁああ!! ぬがぁあああああああああ!!」


 バラタッツは窓際に立った。


「所長。アリアスには私も苦水を飲まされました。しかも、奴は我々がやっていた研究費の横領を知っていたのです」


「んな…………。な、なんだとぉお!?」


「もう生かしておくわけにはいきませんよ」


「し、しかし。奴はジルベスタルにいるのだろ? 手出しができんではないか?」


 バラタッツは外に視線を移した。


「な、なんだアレは!?」


「アレさえあれば可能ですよ」


「……お、お前。本気か?」


「勿論です」


「グ、グフフ……。な、中々やるじゃねぇか!」


「アリアスに制裁を」


「グフフ……。ヌハハ……。ガーーーーハッハッハッ!! 待ってろよアリアスゥウウ!! 俺を敵に回したことを後悔させてやるぅううう!!」



────────


面白ければ☆の評価をお願いします!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る