『バズ』ってはいけないバ美肉配信者の日記
アーカーシャチャンネル
フィクションの日記を書くか、彼は悩む
【炎上しないコツを教えてください】
ふと投げられた、この質問に答えようとしていたメイドバーチャル配信者は思考が若干固まる。
それもそのはずであり、SNSで活動している以上は炎上は避けては通れないだろう。
(炎上しないコツ、か)
しばらく沈黙をしたのち、この配信者はこう答えた。
『少し難しい質問なので、すぐには答えられないと思います。次回の配信までには何とか可能な回答を用意しておきますね』
配信では、こう答えたのだが……。あの場で答えたら炎上しそうな回答は、用意してあったのである。
(バズらないようにすれば、よほどのマニアや週刊誌の記者レベルでない限りは……)
要するに自分の発言が『バズる』ようにしなければいいだけの話だった。
しかし、大手のアプリなどを使っていれば裏アカウントを持っていたとしても、いずれ足はつくだろう。それを踏まえると、どうやって『バズる』ことを回避すればいいのか?
その翌日から、課題が見つかるまでの間、彼は日記をアップすることにした。日記と言っても、リアルのスケジュールを日記風にしても同じことである。
そこからプライベートが『バズる』こともあるからだ。実際、彼はバーチャル配信者と言ってもバーチャル美少女受肉、いわゆるバ美肉勢。迂闊に正体がばれたら一大事だろう。
「嘘だらけの日記なんて、それこそ炎上しかねない。だからと言って、『バズ』らない日記というのも……」
かなりの無理難題を押し付けられたと思っていたが、そこは別の意味でも逆転の発想が思いつく。
(そうか、これなら……何とか『バズ』らなくても済む)
彼のノートパソコンには、とあるWEB小説サイトのホームページが表示されている。つまり、フィクションの日記をWEB小説サイトに投稿すればいいのだ。
「しかし、内容によっては評価が付いてしまう。この手のサイトで評価不能のオプションはないだろうし」
彼は悩む。評価不要という作品もあるにはあるが、一次創作サイトではそうした作品はないだろう。
エッセイ・ノンフィクションのジャンルなどであれば、内容によっては評価不要とすることもできそうだが……サイトの仕様的には無理だった。
(タイトルの段階で、作品の評価をできないようにすればいいだけでは?)
思った以上に彼は発想力があり、タイトルで誰も評価を入れづらいようにすればいいだけ、と。
大手のブログサイトでもコメントなどを残したり、記事ごとに評価できるようなシステムはある。むしろ、こうしたランキングから入ってくるユーザーもいるだろう。
「こういうタイトルにすれば、かえって評価しづらいだろうな」
彼の場合、今回に限ってはランキングで目立ってしまっては逆効果なのだ。あくまでも『炎上しないコツ』を配信内で発表するためにも。
しかし、少し時期を外しているようなタイトルでも思わぬところで『バズ』ってしまう危険性はある。
「〇〇しないと出られない部屋系統のタイトルは、まだ需要がありそうだし……」
「だからと言って、大晦日の番組みたいなタイトルだと部分検索などで『バズ』る危険性はある」
結局、シンプルにタイトルの方は決まり、内容の方はフィクションを混ぜつつも当たり障りのない内容を書くことになった。
自分も小説を書いているので、他の作品の感想とか、どのような小説を読んでいるのか、それだけでも読まれる危険性はある。
しかし、流行りジャンルを外していけば『バズ』る危険性はない。
流行りジャンルは変わっていくものだが、それはあくまでも二次創作メインのサイトでの話であり、一次創作オンリーや一次創作をメインにしたサイトは違う、と彼は考えていた。
それから数日後、質問に対して回答するための生配信の枠を取ろうと準備をしていた、その時である。
「これって、どういう事なの?」
彼の方も状況を把握できていない。いつも通りに枠を取るのと同時につぶやきサイトで告知をしようとしていた矢先だった。
【あのバーチャル配信者、小説を書いていたのか】
【意外な一面だな。配信とは別人のようだ】
【まさか、バ美肉配信者だったとは】
様々なつぶやきが拡散されており、文字通りに『バズ』っていた。
せっかくの『バズ』らない日記を書いたはずなのが、意外な中の人の一面が見られたという事で予想以上の反響があったらしい。
明らかにあの話をするには悪いタイミングで『バズ』ったのは、計算外としか言いようがないだろう。
『炎上しないコツというのは、人それぞれだから自分が言っても無理かな』
『Aという人物のコツをBという人が実践して、同じような展開になるのかは……予想できないでしょ? それと同じことだと思うの』
『だから、炎上しないようにするためには悪目立ちをしない、それが同ネタ多数だけど、ベターな回答なのかな?』
一方で、彼の考えているような悪い意味での『バズ』ではなかったのは、不幸中の幸いか。その後の配信でも何とか回答の方は出来たようである。この回答を受けてかは不明だが、質問をした人物も納得したようだった。
実際、悪目立ちをしないようにしたはずが逆に『バズ』ってしまったような日記の執筆、別の意味でも結果オーライだったのかもしれない。
一方でWEB小説上の閲覧数が伸びたかどうかは……お察しください、というべきか。
『バズ』ってはいけないバ美肉配信者の日記 アーカーシャチャンネル @akari-novel
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