ゆもみちゃん小柄
待て待て。なんだこの感覚。鳥肌っぽいけどすんげーわき上がってくるこれ。
「ほ、他にも似たような事例があれば、教えてください遊紅絹様」
俺はココアを飲みきった。
「コンテストに出たのも雪が言ったからだ。小さい裁縫道具を持ち歩いてるのも雪がカッターシャツのボタンやネームプレート取れてもすぐ縫えるようにだ。休みの日の用事を聞くのも退屈な日を作らせないためだ」
(まじかまじかぁ……)
そうだそうだよ。度々土日祝日の用事を聞いてくることがあるんだが、用事がある日は来ていない。
「え、じゃあ俺が用事のある日の休みの日は、朝ごはんどうしてるんだ?」
「たまにお父さんお母さんがいたら一緒に食べる。いないなら一人で食べてる」
「はぁ!?」
いないとき=こっちへ突撃かと思い込んでいたぞ……。
「こ、こっち来いよ。用事あるっつってもさすがに朝八時前は用事ねぇよ」
あんなテンションで今日も朝来てんのに、さらっと一人で食べてるとか言われたら、なぁ?
「いいのか?」
「いいに決まってんじゃねぇか……なんでそこはいつものノリじゃねぇんだよ……」
俺は右手をおでこに乗せた。
「わかった。次からそうする」
遊紅絹ちゃん朝ごはんの日が増えることになりそうです。ということは爆上げ父の日も増えることになりそうなのか。
「でも無理すんなよ? たまには手抜きでいいし、昔みたいにただ食べに来るだけでもいいんだからな?」
今日も気合入った朝ごはんだったからなー。
「嫌だ」
「がくっ」
まさかの却下。
「雪の『んまい』を聴きたい」
(おふぅ……)
ゆもみちゃん……それは反則ですよ。
「笑ってる雪を見たい。楽しんでる雪を見たい。雪が望むんならさっきみたいなよくわからない実験をしてやってもいい。それで雪が楽しいならそれでいい」
「ゆ、遊紅絹ぃ……」
リミット解除していいっスよね? OKっスよね?
「遊紅絹。立て」
「なんだ?」
遊紅絹を立たせる。ちっちゃい遊紅絹ちゃん。俺は手のひらを下にして手招きをする。
隣に座っていたためもともとそんなに距離があったわけではないが、遊紅絹はちょっと近づく。相変わらずまっすぐ見てくる遊紅絹。
俺は軽く両手を横に広げた。
「なんだ?」
広げたまま右手をくいくいっ。
さらに近づいてきてくれた遊紅絹。近接戦闘の間合いに入ったので、俺は腕を遊紅絹の背中に回して、俺の胸に引き寄せた。
俺の顔のすぐ左に遊紅絹のちっちゃなお顔。ほっぺたくっつけたれ。
(…………セリフないな)
『何をしている!』とか『無礼者!』とか『なんだそれは?』とかさぁほらほら。なんかないんスか?
(なんもないんなら、ずっとぎゅってするぞ?)
ほんとになんもないから、しばらく遊紅絹の温かさを感じることにした。
(……いや、いくらなんでもなんもなさすぎじゃね?)
遊紅絹のこれまた細い両腕を軽く握って、俺の正面に立たせた。
(うはあ~!!)
なんとそこには若干うつむき加減で唇をほんのちょっと内巻きにしてる、そう、テレッテレ冴城遊紅絹ちゃんが存在していた!!
「か、かわいいなおい!」
知るか! 声出ちまったがよ!
「……そうか」
「そこはありがとうって言うんだぞっ」
すいません調子に乗りました。
がっ。ゆっくり目を閉じた遊紅絹。
「…………ありが、とう」
(はい撃沈~はい無理~はいもう遊紅絹にめろめろ~)
右手は遊紅絹の背中に、左手は頭にそっと添えて引き寄せると、遊紅絹はちょこっと目を開けたが、唇をくっつけるときにはまた目を閉じていた。
普段あんなに威勢のいいはずな遊紅絹の震えた唇と重ねることができてしまった俺。名残惜しいがちょっと離す。
「……な、なんかセリフくださいよ」
ちょっと震えてる遊紅絹。え、もしかしてまずかった……?
「……あ、ありがとう……」
いい子すぎ。ほんともう。うん。あぁ。
「恋愛……興味ないとかわからないとか言ってたけど。俺と付き合ってくれないか?」
ちょっと上目遣いで見てはちょっと視線を外し、また見てきては~を繰り返している遊紅絹。
「……付き合うっていうことしたら、雪はうれしいのか?」
「もちろん。てか付き合ってくれなかったら俺の人生終わる」
いやまじこれ誇張抜きで。
(うぉっ)
ちょっと笑ってくれた。まだ少しだけ震えてるけど。
「……雪がうれしいのなら私もうれしい。雪が私と付き合うっていうのをしたいなら付き合ってもいい…………」
(……ん? 歯切れ悪いな?)
「…………よっ」
ちっちゃくてかわいい遊紅絹を思いっきり抱きしめた。ほっぺたすりすりしたれ。
試作型短編42話 数あるモテ期到来ちょこっとかっちょいい女子 帝王Tsuyamasama @TeiohAoyamacho
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