ゆもみちゃん炸裂

 白の長そでシャツとジーパン装備に着替えた俺は、とりあえず顔を洗ってリビングにやってきた。

「おはようももちゃん」

「おはー」

 母さんの声が聞こえつついいにおいがするな~と思いながらダイニングテーブルへとやってくると、サラダに……オレンジ色のポタージュ? に……ペペロンチーノ? ミントかなんかの葉っぱが添えられたヨーグルトと……ようかん?(お前だけ和だな)まで控えてる。つまりガッツリメニューである。

 あぁ俺は朝からガッツリ派だから特にメニューに問題はないぞ。メニューには問題ないが……

「パセリも食え!」

「はいはい」

 遊紅絹が右手で持っていたパセリがペペロンチーノに添えられた。

「バジルも入れるぞ!」

「へいへい」

 左手には細かく刻まれたバジルが入ったとんすいを持っていて、それも右手でつまんでオレンジ色ポタージュ? に入れられた。葉っぱ多いなおい。

「このスープ何だ?」

「豆乳かぼちゃポタージュだぞ!」

 字面からして超身体によさそうである。

 にしてもこの遊紅絹ちゃんは朝の七時からふふんとか言ってにっこりしてるもんだ。

「ゆもちゃんがいると朝から楽しいわねぇ。桃ちゃんも朝ちゃんと起きてきてくれるし。ねぇゆもちゃんっ」

「よし、座れ!」

「なんという直球すぎる命令」

 命令されたので俺は素直に自分の席、テーブルの右手前に座ると、遊紅絹が今度は急須きゅうすを持ってきて、俺のすぐ左にポジショニング。

(……んまぁ? 俺も男子中学生なわけで? 身長ちっちゃいし何度も経験している光景とはいえ同級生女子がすぐ横に来たら、そりゃー……多少は、ねぇ?)

 俺のちょこっとどきっとした気持ちなんぞ絶対知ったこっちゃねぇだろう遊紅絹のそのいつもの得意げな表情。

 逆さに置かれていた湯呑ゆのみをひっくり返してお茶をつぎ始めた。相変わらず手際のよさが抜群である。手ちっちゃい。続いて母さんの分をつぐためにもう俺の横から離れた。

(こっからじゃ向こう側に置かれた湯呑には腕が届かなゲフゴホ)

 ば、ばかにしてるわけじゃないぞっ。ほほえましいだけだぞっ。おうっ。


 母さんもやってきて着席。遊紅絹は俺の左隣の席が指定席である。

「手を合わせるぞ!」

 ぺったん。

「いただきます!」

「いただきまーす」

「いただきますっ」

 給食の時間、一回遊紅絹が手を合わせましょうを言う機会があって、案の定『手を合わせるぞ!』だったからランチルーム内が爆笑の渦に包まれたことがあってだな……。

「どうだ!?」

「んまい」

「よかったな!」

 これらの料理のどこからどこまで遊紅絹が関わってるのかは知らないが、母さんと共同作業していたんだろう。

 主に日曜日や祝日が多いんだが、休みの日に遊紅絹が朝俺を起こしに来るときがあり、その日は自動的にこうやって一緒に朝ごはんを食べることになっている。

 というのも遊紅絹の父さん母さんは土日祝日とかに朝早く、それも三時四時とかの超早く家を出ることが多く、うちの親と仲良しだからって遊紅絹をこっちで朝ごはん一緒に食べさせるーという流れになりー。

 ちっちゃいときはただ来て一緒に食べていたが、小学校の~……三年くらい? から作るサイドにも回るようになった。

 それから何年もこういう日を定期的に続けているため、手際は抜群になってしまった遊紅絹。俺より俺んのキッチン周りに詳しいだろうな。

「ふぁ~……おはよ」

「おはようあなた。疲れているの?」

 父さんが起きてきた。

「昨日プロジェクトが……っておお! ゆもちゃんいらっしゃい!」

「むはおぅ! むえ!」

 ペペロンチーノほお張りながらも食えと命令する遊紅絹。人の親に向かってっ。

「おぉ~! 今日もゆもちゃんとうちの妻とのコラボ料理が食べられるのか! よぉーし、いっただっきまーす!」

 テンション爆上げの父。

「おほっ! このスープうまいなぁ!」

「んぐっ、よかったな!」

 いやほんとうまいんだよなぁ。

(んでこの遊紅絹の食いっぷりのよさよ)

 手際がいいと思ったらそれを消費するのも豪快という、なんとも気持ちのいいキャラしてるというかなんというか。

「ゆもちゃん悪いねぇー、朝早いだろう?」

「気にすんな! 食え!」

「たはっ! ああうまいうまいっ、お父さんゆもちゃんのおかげでパセリ食べられるようになったんだよー、パセリ農家さんありがとー!」

 デレデレやないかっ。母さんもにっこりしてる。


「ごちそうさま!」

 またも遊紅絹の手を合わせろ命令によりごちそうさまをした四人。


 で、俺は遊紅絹の右側にポジショニングし、遊紅絹が軽く洗った食器を食器洗浄乾燥機に並べていくのが恒例の仕事。

 遊紅絹専用黄緑色の踏み台が本日も活躍している。

(この受け渡しのときにちょいちょい遊紅絹のぬれた手が当たるんだが……ま、遊紅絹に感想を聞いてもどうせ『それがどうした?』とかであっけなく片付けられるだろうな)

 なんでかなー。俺だけか? こんなちょいちょい意識してんの。

「なぁ遊紅絹」

「なんだ!」

 元気なお返事なこって。

「ちょっと実験してみてもいいか?」

「なんだ?」

 ふと思ってしまって、さ。

「ちょ、ちょい」

 俺が右手をメンゴな感じで手を立てながら近づけると、遊紅絹はレバー式の蛇口のお湯を止め、洗っている手を止めた。洗剤によるもこもこ泡まみれの手だが。

 俺は遊紅絹の右手の甲から、指を間に通すようにして、ゆっくり握った。

(ちっちぇ)

 でもこの手で起こしてきたり料理作ったりてきぱき気を遣ってくれたりしてんだよな。

「どうした?」

 はい、表情に変化はZEROでした。

「まだ続けるのか?」

「ああいえ、再開してください」

 まったく変わらぬテンションのままそう言われたので、俺は手を離した。遊紅絹の表情はふっつぅ~だった。

 俺が蛇口の下に泡ちょっともこった手を差し出すと、遊紅絹はレバーを倒してお湯を出し俺の泡はあわあわ流された。すばらしい連携プレーである。あわあわ。

 はい。遊紅絹の洗い物再開。早速皿渡された。へいへい入れますよ。

(……ちっちゃかったな)

 まだ手に遊紅絹の細かった感覚が残っていた。

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